第25話「野菜魔法」

「サトコ、これを持って漬物屋のヨシ子さんの所へ行ってこい」

 真蔵仙人はケーキの箱をサトコに渡した。

「はい、お使いですね」

「ヨシ子さんに野菜魔法を教えてもらうよう話しをしといた。しっかり教えてもらえ」

「野菜魔法? なんですかそれ……」

「天狗に勝つための特殊な仙術だ。行けばわかる」


 ❃


 漬物屋のヨシ子さんの家。

「真蔵仙人から聞いているわ、天狗を倒すのね、あなたならすぐに出来そうだわ」

 ヨシ子さんは高齢のお婆さんである。

「これを渡すようにって……」

 サトコが真蔵仙人からもらったケーキの箱を渡す。

「あら、嬉しいわ。真蔵仙人、私が猫屋さんのケーキが好きだって覚えていてくれたのね。さっそくいただきましょう」


 ヨシ子さんは紅茶の用意をしている。

「サトコさん、紅茶はお好き?」

「はい、あっ、そうですね。紅茶好きです」

「そう、それはよかったわ。紅茶を飲んでから修行をしましょうね」

「あっ、修行するんですか……」

「あなたにとっては簡単な修行よ。自転車に乗る程度のものよ」

「自転車に乗るんですか?」


「例えだけどね。紅茶を飲みながらお話ししましょう」

 ヨシ子さんは猫屋のケーキと紅茶をサトコに渡した。

「猫屋さんは猫さんがケーキを作っているの、猫さんは頭の病気で喋ることができなくなって『にゃー』としか言えないのよ。でも、ケーキはとっても美味しいの」

「仙界にも病気があるんですか?」


「猫さんは桃の当番の時に天狗に頭を割られたんだけど、うまく治らなかったのよ」

「えっ、天狗に……」

「今は桃の当番の前に復活の大釜に登録するようになったんだけど、昔は無かったのよ」

「あたしも天狗にやられました」


「あなたは強力な仙術魔法を使うようになると思うけど、野菜魔法みたいな小技も覚えると便利よ」

「野菜魔法とは? あたしはまったく知らないんですが……」


「例えば、全力で走れば、すぐに体力が無くなるでしよ、それで仙人はマラソンを走るように持久力をつけるように魔力を修行するの。でも、自転車を使えば体力の消耗が少なくて速く走れるじゃない」

「そうですね」

「仙術魔法も野菜を使うことで魔力の消耗が少なくて大きな力を使うことができるの、例えば、このニンジン……」

 ヨシ子さんは、そばにあったニンジンを手に取った。


「ニンジン、剣!」


 ニンジンは剣に変わった。

 サトコの首元にニンジンの剣先が止まっている。

「あっ、これは、不意をつかれますね」

「天狗と戦う時はためらわずに刺すのよ。あいつらは刺されたくらいでは死なないから。でも、刺されると痛いらしいのよ」


「これが野菜魔法ですか……」

「そう。ゴボウを槍にしたり大根を大剣にしたりいろいろあるわ。防御はキャベツやレタスを使うといいわよ」

「これは面白そうですね」

 にやりと笑うサトコ、野菜魔法が気に入ったようだ。


 ❃


 桃の当番。

 サトコは耳をすませて天狗が来るのを待っている。


『カサッ』


 空間が歪む音がした。

 来たな!

 サトコは空間が歪んだ方向に走り出した。

 背中に竹でできたカゴを背負い、カゴの中には野菜がいっぱい入っていた。


「今日は負ける気がしない」


 天狗が現れた。

 二人組で桃を盗もうとしている。

「ニンジン、剣!」

 問答無用でサトコがニンジンの剣を天狗の胸に刺したが硬くて剣が折れた。

「げげっ! こいつ硬い!」

 天狗は反撃で、手でつかもうとしてくる。

「ゴボウ、槍!」

 ゴボウを槍に変えて天狗ののどを刺した。

「ダイコン、大剣!」

 ダイコンは大剣に変わり天狗の左肩を斬ったが硬くて剣が食い込んで動かない。


「力のないあたしの腕では天狗を斬り裂くのは無理だ! どんどん行くか!」

 サトコはゴボウを槍に変えて何本も天狗に刺した。

 天狗は口から火を吐き反撃してきた。

「キャベツ、バリヤー!」

 サトコはキャベツを投げるとキャベツの葉はちぎれて広がりバリヤーとなり天狗の火を防いだ。


 天狗達は逃げていく。

「バナナ、弓! ネギ、矢!」

 バナナは弓となり、ネギはバラバラになって何本もの矢になった。

 矢を逃げる天狗に打ち込みサトコ。


「やった! 天狗が逃げていった! 殺すことはできなかったけど、勝った!」

 大喜びするサトコ。


 ❃


「このどら焼きを二つください」

「にゃ〜」


 猫屋でどら焼きを買うサトコ。

「ヨシ子さんに天狗に勝った報告だ!」


 ヨシ子さんの家に向うサトコ。

 実はサトコはコーヒー好きで紅茶はめったに飲まなかった。

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