第46話「キーちゃんの予言」

「ホウライサン、ジュウニン……」


「お姉ちゃん、何言ってるの?」


「なんだろうね? キーちゃんが言ってたの」

「誰、キーちゃんって?」

 妹のサトミがサトコに聞いている。

「この子」

「……誰もいないよ」

「ほら、これだよ!」

 サトコが自分の頭の上の方を指さしている。

 サトミは、ジーーッとサトコの指さしたあたりを見つめている。

「う〜〜ん、影のような?」

「コウモリじゃない?」

「形はわからないな〜 影みたいな、何かがゆれているような?」


「そっか、あたしは見えるけどね。形はコウモリなんだけど、大きさはアゲハ蝶くらいなんだ」

「なんなの、それ」

「何だろうね、ノインの周りにいっぱいいたんだけど、一匹、ついてきたのよ」

「ノインさんが飼っているのかな?」

「たぶんね。これ、しゃべるんだよ」

「本当?」

 サトミが影の方に耳をすませている。


「何も言わないよ」


「さっき喋ってたんだよ。キー、キーって言ってたから、キーちゃんって名前つけちゃった」


「それで、そのキーちゃんが、ほうらいさんって?」

「そう、言ってた」


「ほうらいさんね……」

 サトミが辞書を引いている。この時代(昭和62年)まだスマホはない。

蓬莱山ほうらいさん、仙人が住むという伝説の山だって」

「なんじゃ、それ」

「もう、寝よう」

「うん」

「電気消すよ」


「キーちゃんは、いる」

「天井に逆さにぶら下がっている、やっぱりコウモリみたいだ」


「喋るかな?」

「聞いてみようか……キーちゃんはコウモリですか?」


「キー、カゲモリ」


「カゲモリって言った。サトミ、聞こえた?」

「え〜〜っ、聞こえない……」

「そうなの? カゲモリってなんだろ、サトミ辞書で調べてよ」

「いゃ……眠い、おやすみ」


 ❃


 翌朝、新聞を見ているサトミ。

「お姉ちゃん、中華料理屋の蓬莱山ほうらいさんが30周年記念イベントだって! チラシが入ってる」

「このことを言ってたのかな?」

「たぶんそうじゃない、キーちゃんは?」

「いなくなっちゃった」

「何だったんだろうね、幽霊?」


「ノインなら知ってるはずたよ。電話してみようかな?」

「お姉ちゃん、ノインさんの電話番号知ってるの?」

「うん、何かあったら電話してくれって番号書いてくれた」

「見た目は怖いけど、いい人だね」


 さっそく電話をするサトコ。

「もしもし、ノイン? あたしサトコ」

「あぁ、どうかしたか?」

「ノインの周りにいたコウモリみたいのが、一匹ついてきたんだけど、あれ何?」

「あぁ……見えたのか? あれは、普通は見えないんだが……」

「いっぱい見えたよ!」

「お前には見えるかもしれんな……あれは影の蝙蝠こうもりで、オレ(ノイン)らはカゲモリと言っている。オレの家は代々忍者でな、スパイ活動に使うんだ」

「ほうらいさんって喋っていたよ」


「ほうらいさん? あーっ、あいつか!? カゲモリの中には予言を言う奴がいるんだ。当たるんだが、どうとでもとれるような言い方なんで、たいがい何を言ってるのかわからないからほったらかしてる。後になったらわかるんだがな……」

「へ〜〜っ、予言なんだ。でも、いなくなっちゃった」


「カゲモリは日が登ると見えないぞ、夜とか蛍光灯の下なら見える奴なら見えるけどな」

「じゃあ、まだいるのかな? あれ、喋るから面白いんだ」

「普通の奴には聞こえないがな……」

「これ、ノインが飼っているの?」

「あぁ、カゲモリはオレらが飼っているんだ。でも、気に入ったんなら、そいつやるよ」

「本当!? ありがとう!」


 キーちゃんが気に入ったサトコだった。


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