第23話「馬之助」

 ラーメン屋さんで、サトコは家族でラーメンを食べている。


 馬之助だ! お母さんとラーメン食べに来たんだ。


 馬之助の母は、手作りの野菜や漬け物をスーパーカブに乗せて近所に売っていた。漬け物は美味しくてすぐに売れた。サトコの家にも売りに来て、よく買っていた。

 馬之助とサトコは小学生の時、同じクラスで仲もよかったが、中学生になりクラスが別になるとあまり話さなくなった。


 ある日、中学生のサトコは風呂上がりに玄関に置いてある電話が鳴ったので出ていたら、表の道を馬之助が歩いていた。

 夕方で薄暗かったのでサトコは裸のまま、上にバスタオルを巻いて電話に出ていた。サトコの家の玄関は普通の透明なガラスが入ったもので内側からカーテンを閉めるようになっていた。その時はまだ夕方なのでカーテンは開いたままだった……

 ふと、表を歩く馬之助と目があった瞬間になぜか立ち上がってしまい、バスタオルが下に落ちた。サトコは学校でも評判の美少女だった。

 馬之助は目が点になりサトコの裸を見ていた。馬之助に非はない。しかし、それからサトコは馬之助と話をしなくなった。


「おばさん、こんにちは。また、漬け物持ってきて下さいね」

 帰りがけに、サトコは馬之助のお母さんには愛想よく話しをして、馬之助は無視した。


 ❃


「サトコ……気がついたか?」

 真蔵仙人が寝ているサトコの側にいる。


「あれ? ここは、ラーメン屋さんにいたのに……馬之助は?」

「何を言ってるんだ。覚えてないのか?」

「何をです?」


「お前、また桃を取りにきた天狗を退治しようとしたんじゃ」

「天狗? 覚えてない……」


「だいぶやられているな……カラス天狗も覚えてないか」

「カラス天狗?」


「ぜんぜんダメか、お前は鼻の長い天狗には勝ったんだが、今回はカラス天狗も来ていたんだ。カラス天狗は、天狗の中でも古いタイプで力は弱いんだが、精神汚染の術を使う。お前もそれにやられたんじゃ」


「あっ、思い出した! あたしが技を出して天狗を倒すと、天狗が人間の姿になって死んでいくの、天狗を倒すたびに人間に入れ替わり、子供にも入れ替わって“お前は人間を殺している”と非難されて身動きができなくなったんです」


「カラス天狗はたちが悪い。サトコではまだ無理だな、精神の修行が必要だ」


「どうして馬之助のことを思い出していたんだろう?」

「その馬之助って子が好きだったんじゃないのか?」

「いゃ、いゃ、まさか……」


「その子の名字は何て名前だ?」

「あいつは……ボンクラ馬之助……ちがうな、中牧馬之助だ」

「それだ!」

「なんですか、ボンクラ?」

「ナカマキだ。カラス天狗にはナカマキという姓が多い」


「ナカマキ……それで馬之助のことを思い出してたの?」

「たぶん、カラス天狗が名前を名乗ったんじゃろう」

「そうなの? 全然覚えてないや……」


「今日は休んで、明日から精神の修行じゃ。晩めしは、何か食べたいものはあるか?」


「ラーメンと漬け物」


「昼めしみたいじゃな。まぁ、いい」

 真蔵仙人は壁にかかっている“ひょうたん”を手に取り、ひょうたんの中に叫んだ。


「お〜〜い。ラーメンと漬け物二人分できるか!?」

「は〜い、まいど」

 誰かが返事をしている。


 すると、しばらくして、ひょうたんからラーメンと漬け物が二人分出てきた。


「よし、来たぞ。食べよう」

「はい。その“ひょうたん”は、ずいぶん便利ですね」

「これか、これは食堂とつながっているから頼むだけで、すぐに出てくる。こっちのひょうたんは酒屋とつながってるから酒は飲み放題だ」


「お菓子屋さんとかはないんですか?」

「わしは、菓子はあまり食べないからわからないがあるんじゃないかな」

「なんでもありですね」


「ひょうたんは便利だぞ。水や食べ物が入るしひょうたんの中に入って寝ることもできる。馬を入れいるの者も多い。そういえば馬之助は、その後どうなったんだ?」


「どうなったかな~前に1度、小学校の同窓会があるからって電話したけど来なかったし、あたしがまだ怒ってると思っているのかな」


「お前、怒ると怖いからな」


「あたしは……優しいですよ……」

「お前の裸を見た馬之助は、お前の裸が目に焼き付いてはなれないのだろうな」

「そんなことないでしょう……」


「わしも女性に興味がでてきた時、風呂屋でたまたま知り合いの女の子の裸を見てしまったんだ。あれは衝撃的だった。今でも目に焼き付いておる」


「そういうものなんですか……こんど馬之助に会ったら優しくしてやろう」


 真蔵仙人が冷蔵庫から何かを取り出し鍋で茹でている。


「サトコ、デザートにこれも食べておけ、精神に異常が出た時はよく効くんだ」

「何ですかこれは?」

「な、何でもない、珍味だ……」

 真蔵仙人は小鉢をサトコに渡した。


「ぷるぷるしている。魚の白子かな?」

 スプーンですくって食べてみる。

かな? カラス天狗はたちが悪いっていうシャレでしょう。あたしも家で味噌汁の具に入れて時々食べてましたよ。タラの白子でしょ、美味しいですよ」

 サトコはパクパクと真蔵仙人に渡された物を食べている。


(精神に異常をきたした時は、猿の頭の黒焼きが効くんだが、黒焼きは時間がかかるからな……あれが猿の×××を茹でた物とわかったらサトコ激怒するだろうな……)

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