第17話 悪党の巣窟
「……なるほどな。そんなにクソみたいな奴なのか」
「ええ……何度も何度もあいつに殴られたわ……お願い、私を助けて、ムウ」
デーモンドにやられたことを悲壮な表情で訴えかけてくるギミー。
そして助けてくれと涙を流し懇願している。
そんなギミーの様子を見て、義母さんがそこそこの勢いで泣き出した。
「ムウちゃん……この子を助けてあげましょう」
「でもママ。こいつ、おにぃを必要ないって追い出したような奴なんだよ。助ける必要は――」
「必要あるの! 困ってる人には親身にっていつも言ってるでしょ」
義母さんの言葉に呆れるモモちゃん。
モモちゃんの気持ちもよく分かるし、義母さんの気持ちも理解しているつもりだ。
ギミーを助ける義理はないが、助けてやらないと可哀想。
となれば、やることは決まったようなもんだな。
「いいぜ。助けてやるよ」
「ちょ、おにぃ!」
「モモちゃんが俺のために怒ってくれてるのは分かる。でも、やっぱ困ってる人は助けてやらねえと。それがマードリック家の鉄則だ」
「はぁ……ほんと、ママの子供だね、おにぃは」
「モモちゃんだって私の子供です!」
「分かってる……ムカつく気持ちもあるけど、助けてあげてもいいんじゃないって思いもある……気が進まないような気もするけど、おにぃの好きにすればいいじゃん」
水を飲み干し、プイッと顔を逸らすモモちゃん。
ギミーは暗い顔を明るくし、俺に抱きつこうとしてきた。
だが寸前のところで義姉ちゃんが阻止する。
「助けるのは認めるけどそれは認めないから」
「そ、そう……」
義姉ちゃんとモモちゃんは何やら同じ気持ちだったようで、二人して俺と接触しようとしたギミーをギロリと睨んだ。
「で、デーモンドはどこにいるんだよ?」
「あ、町の東にヤバくて有名な区域があるじゃない?」
「ああ……そういやそんな場所もあったな」
町の住人はおろか、城の兵士や騎士たちも近づこうとしない町の最東端に位置する場所。
平気で犯罪を起こしたり、人に暴力を振るう悪人と人生を諦めた者たち、さらには堕落した人たちが集う地域。
俺も噂程度は耳にしたことはあるが行ったことはない。
そうか、デーモンドはあそこにいるのか。
義母さんたちはその話を聞き、サーッと血の気を失っていく。
「ちょっとそんなところに行くのは危ないんじゃないかな……」
「そうだよおにぃ。今回の話はなかったことに」
「いや。そういうわけにもいかねえよ。ギミーが困ってるなら助けてやらねえと」
「ムウ……ありがとう」
指を組み、祈るようなポーズで俺を見つめるギミー。
俺は席を立ち、皆に言う。
「じゃあ、ちょっとデーモンドと話をつけに行って来る」
「ちょ、一人で行くつもり?」
「ああ。モモちゃんたちはここで待っててくれ」
モモちゃんは立ち上がり、怒気を含めた声で言う。
「そんな危ないところにおにぃ一人で行かせられないってば」
「そんな危ないところだから、モモちゃんたちを連れて行きたくないんだよ。大丈夫。最悪の場合は空間移動で逃げて来るから。な?」
「私も行くからね、ムウちゃん!」
フォークでウインナーを刺して義母さんは立ち上がる。
義姉ちゃんもワインをくいっと飲み干しコクリと頷く。
「皆がいたら心強いけど、俺一人で十分だ。どれだけデーモンドが強くても俺は負けないさ」
「私たちがいた方が心強いなら、一緒に行けばいいじゃん」
「悪党ばっかの巣窟なんだぜ? モモちゃんたちがいない方が気が楽なんだよ」
「そ、そうよ。あんなところに女が行ったら……どうなるか分からないわよ」
「…………」
ギミーの言葉にすこしだけ俯く三人。
「でも、ムウちゃんが守ってくれるでしょ、お母さんたちのこと」
「そりゃ守るけどさ、やっぱそんなとこに連れて行くのは気が引けるんだよ。だから、義母さんたちは俺の帰りを待っててくれ。バッチリ話をつけて帰ってくるからさ」
「…………」
義姉ちゃんが俺の手を握り、心配そうに見つめてくる。
俺は笑顔を返し、義姉ちゃんの頭を撫でた。
「大丈夫。絶対無事に帰って来るから。心配するほどのことでもないよ」
「……おにぃに何かあったら私、乗り込むから。おにぃに怪我させるような奴がいたら三枚おろしにしてやる」
「おおっ……モモちゃんの方が物騒かもな」
「じ、じゃあ私は悪い人たちにメッってする!」
「発想が子供!?」
「こ、子供じゃないもん!」
モモちゃんと義母さんのやりとりに俺は笑みをこぼし、出口へ向かって歩き出す。
「おにぃ」
「だから大丈夫だって。さっさと話をつけてくるから待っててくれ。ギミー。三人のこと、よろしく頼むな!」
「え、ええ……」
どれだけ話をしても完全に納得しないであろうと踏んで、俺は三人を置いて酒場を後にする。
外はすでに夕暮れ。
真っ暗になる前に帰りたいけど、どうなることやら。
まぁ、話をするか相手を懲らしめるかどちらになるかは分からないけど、俺なら問題ない相手だろう。
そう思案しながら俺は、東に向かって歩き出した。
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