第13話 ワイルドゴブリン
ビックマンティスを倒しながら森の奥へと進んで行く。
森は豊満な太陽の光が降り注ぐので、明るく楽しい気分で歩いていた。
「ほっほっほ!」
義母さんは片足で二度飛び跳ね、両足で着地する。
ということを元気一杯でやり続けていた。
モモちゃんはそんな義母さんに呆れながらビックマンティスの首を斬り落とす。
「ママ。そんなことしてたら、またコケて泣いちゃうよ?」
「大丈夫大丈夫。私そんなにドジじゃないもん」
ドジである。
それを理解している俺は義母さんに近寄り、ドジを発動するのを注意深く監視していた。
すると、
「あっ」
案の定である。
足を地面に引っ掛け、前へと体が傾き始めた。
俺は義母さんの後ろから抱き抱え、寸前のところで倒れるのを阻止する。
「ほらっ。言った通りでしょ」
「……私、ドジじゃないもん」
母親のように言うモモちゃんに、プクーと膨れる義母さん。
しっかり者のモモちゃんに、子供っぽい義母さんなんて……立場が真逆にも程があるよな。
義姉ちゃんはビックマンティスを魔術で燃やしていたが、俺が義母さんを抱きかかえたのを見た後、数歩歩いて前のめりに倒れてしまう。
「おいおい。どうしたんだよ、義姉ちゃん」
義母さんを片手に抱えながら、義姉ちゃんを助け起こす。
義姉ちゃんはほんのり顔を染めて俺の首にギュッと腕を回してきた。
柔らかく大きな胸が押し付けられ、クラクラするような甘美な香りが鼻孔を通り抜ける。
「お姉ちゃん、おにぃに甘えすぎ」
「…………」
そんなことをモモちゃんに言われるが、義姉ちゃんは気にすることなく俺に抱きついたままだ。
「甘えるのはいいけどさ、そろそろ強いモンスターが出て来そうだ。あんまり油断しすぎないでくれよ」
「はーい」
義母さんは俺の手から離れ、右手を挙げてそう返事する。
義姉ちゃんも名残惜しそうに俺から離れ、首肯した。
柔らかい土の上をさらに進んで行くと、今回の目的のモンスターが姿を現す。
緑色の肌に筋骨隆々といった体つき。
身長は人間と同じぐらいで鋭い目つきをしている。
武器は所持していないが、これまで人間かモンスターのいずれかを殺してきたのであろう、その拳は血がしみこんでどす黒いものとなっていた。
これがワイルドゴブリンだ。
3級モンスターの上位に認定されている、そこそこ強いモンスターである。
「あれがワイルドゴブリンなんだ……意外と強そう?」
「あ、あんなの勝てるの、ムウちゃん?」
涙声で俺にそう訊く義母さん。
義姉ちゃんはワイルドゴブリンの姿を見た途端震え出す。
俺はそんな二人を安心させるように義母さんの問いに力強く頷く。
「大丈夫。俺たちなら勝てるさ!」
義母さんと義姉ちゃんを背後に、俺とモモちゃんはワイルドゴブリンと対峙する。
「ビックマンティス倒して、こいつまで倒したら結構いい稼ぎになるよね」
「だなっ。借金も少しは減るだろ」
「じゃあ家族のために、ひと頑張りするとし……」
そこでモモちゃんは何かを発見したらしく、ピタリと言葉が止まる。
何事かとモモちゃんの視線の先を追うと、そこにはもう一匹ワイルドゴブリンが佇んでいた。
「おいおい。もう一匹いるなんて聞いてないぞ」
「聞いてないけど、ボーナスみたいなもんだよね?」
「ま、捉え方によったらそうなるのかな?」
「じゃあボーナス確定! さっさと倒してパッと帰ろっ!」
モモちゃんは包丁片手に、手前にいるワイルドゴブリン向かって走り出す。
俺はモモちゃんに続き走り、ワイルドゴブリンの『力の扉』を閉じようとした。
しかし。
「待って! 訓練には丁度いいし、おにぃは手を出さないで!」
「……分かった! 気を付けろよ!」
背後で義姉ちゃんが慌てて魔術の詠唱を始める。
義母さんはオロオロするばかりで動きを見せない。
俺はもう一匹のワイルドゴブリンの『力の扉』を閉じ、短剣で太腿辺りを突き刺す。
「ガァアアア!」
悲鳴を上げて倒れるワイルドゴブリン。
俺はそのまま奴の首に短剣を突き刺し、その命を奪う。
『力の扉』が閉じていればどうという相手ではない。
問題はあっちだな。
モモちゃんに向かって拳を突き出すワイルドゴブリン。
それをかいくぐって相手の横腹に包丁を通すモモちゃん。
しかし、筋肉に覆われたその肉体はとても硬いらしく、思う様にダメージは通らなかったようだ。
「くそっ。もう少し奥まで通ると思ったんだけどな」
振り返るワイルドゴブリン。
そのタイミングで、義姉ちゃんがこわばる手で魔術を解き放つ。
風に乗った炎がワイルドゴブリンの背中を焼く。
痛みにのけ反るワイルドゴブリン。
モモちゃんが追撃に、包丁で膝を斬る。
だが今回も硬い肉質に攻撃を阻まれ、傷は浅い。
ワイルドゴブリンが振り回す腕から逃れ、モモちゃんは俺の方へと飛んで避けた。
「もう! 何よあの硬さは!」
「……モモちゃん」
「何?」
「戦闘に手は出さないけど、モモちゃんが強くなることに手を出してもいいか?」
モモちゃんは怪訝そうに俺の顔を見ながらもコクリと首を縦に振る。
俺はその言葉を聞くなり、彼女の額に自分の額をくっつけた。
「ちょ、おにぃ――!?」
慌て真っ赤になるモモちゃんであったがそれは一瞬のことで、俺は彼女と共に『心の扉』の中へと潜っていく。
俺に対して心を開いてくれている人限定ではあるが、他人の『心の扉』を開くことができる。
モモちゃんにはすでにその話をしていたので、こうして心の奥に潜っていく様子を一瞬驚くも、彼女はすぐに受け入れる。
「これがおにぃの言ってた『心の扉』なんだ。そっか、これで私も強くなれるんだ!」
モモちゃんの心の中だからだろうか。
彼女のワクワクした気持ちが伝播し、俺の胸にも歓喜が広がる。
俺たちは手を繋ぎながら、深く深く沈んで行くのであった。
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