クレイジー・ダイヤモンド:ドラゴンロード( 最終話)
「思うに
…彼女はいずれ、あの娘の母親になるはずだったのではないか」
「はい。ふたりとも…とても仲良しそうでした」
「そんなこと今更知って何になるっていうんだよ」
「…次に所長はこう言う
『彼女は始めから嫁になる予定だった』と」
「ほう。経験が生きたかな?
後で何か飲み物でもご馳走するよ。紅茶とかな。
これはまあ、ただの推測だ。婚姻可能な年齢の女性に片親の少女。
この組み合わせでそう連想するなというのも無理な相談と言えよう。
そして継母の条件は唯一、子供を愛し愛される女性であることだ。
そして、たとえそれが叶わなくとも妻として迎えてしまえば戸籍上の義母として振る舞い、義務を果たすという形で愛することに務めることは可能だ。さらに言うならば結婚すらできず…父親を失ったとしても、少女を主として立て、半永久的に仕えることを妨げるものはない。それはまさに子に奉仕する母のようなもので、騎士そのものだ。彼女らは我々が出会う前から完璧な二人だったのだ。
…いや、出会わなければ、というべきか」
「やめろよ」
「…この世に完璧なものなんて、ないです」
「否。完璧だったのだ。それ以上と言ってもいい。
家族関係はいずれ解消されるものだが、主従や血縁は永続するものと考えるべきだ。
血の続く限りいずれも絶える必要はなく、ならば親子とは遺伝子の封建制度と言っても過言ではない。そこには唯一、まったく完璧ではない人類種に与えられた絶対的な楽園の可能性が存在する。子は何も恐れず母を信じ、母は子のために命を投げ打つ。
これは究極の幸福であり、また何者にも脅かされることのない独立性と蓋然性を持つ
…矛盾がないのだ。あまりにも完成されすぎており、検証可能性すら排除して無限に人口に膾炙し続け立証され続ける。人はこれを信じるしかなく、また信じなければ人は生きて行けず死ぬしかない。それを…
…それを彼女は恥と取ったのかも知れない。ただ従うだけでなく、より進歩的に少女と構築された関係を求め…悲劇に、至ったのだ」
「聞きたくねえ」
「聞くんだ。
我々にはその義務がある。楽園が我々によって破壊されたと言うならば、葬儀もまた我々の手によって行われなければならない。竜殺しの罪は我々の責であると理解せねばならん。だから、聞くんだ。」
「聞かされっぱなしは納得いきません。質問があります。」
「早良くん。…いいだろう、訊きたまえ」
「…”竜の血”は、なぜあの娘に流れていたんですか。
矛盾がないと言いましたが、所長の言うとおりなら外科手術や薬学的処置で彼女をドナーにすることもできたはずで…
…え?」
「…察しのとおりだ。
やはりその疑問には”献体”という概念が一番効く。
彼女が始めから竜の花嫁として舞台に上がったならば、それはすなわち同時に騎士であり、献体でもあったということを示唆している。
竜は騎士に討たれるもの。しかしながら竜は騎士を喰らい脅かすことで初めて竜として、驚異として成立する。相互作用と言うより、これはループなのだ。母が子を成し、その子がまた母になる、連続したドラマの象徴として、騎士、竜、その血液が役者に数えられたと見ていいだろう。
…楽園と言ったな。
やはりそうなのだ。母と子の関係性があるかぎりループは止まらない。そして人が人の子である以上止めてはならない。竜の血によって騎士は不死となり楽園を守り続け、楽園の構成物として存在しつづけるのだ」
「めでたしめでたし、でスかね?」
「お伽噺なら、まあそうだ。
しかし、我々もまた役者なのだ。
我々は既に竜の血を吸った。故に今度は我々が楽園の守り人として振る舞わなくてはならない。竜の道の担い手として、彼女らの犠牲に報いなければなるまい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます