インデペンデント・その解
「所長…アンタってほんとサイテーっス」
「…そーいう意味でいったわけじゃないから」
「そなの?」
「…『アメリカ独立宣言の日』のことだ。同名の映画は一切関係ない」
「あんね…仮に無意識だったとしてもその言葉のチョイスが最低なんスよ」
「肝に銘じておく。
…さて、話の続きだ。これは「彼女」の独立ではない。「強いて言う」なら『我々』の独立というべきだ。我々の間に血縁関係はない。であれば彼女を「母」と呼ぶのも無理があるというもの。…いや、すまん。逆だった。
「血縁関係『しか』ない」のだ」
「そーいうのいいから。
るみたんるみたん、こっちおいで。
おねーさんが抱きしめてしんぜやう」
「まー。子どもみたいにキュンキュンくる泣き方しちゃって
…しょーがないか。
さては瑠美ちゃん、本当のお母さんもういないね?」
「いまのは君も最低だな」
「バッチコイよ」
「早良くん、哭いていいんだぞ
誰も咎めない。俺も謝罪する。だから泣いていい。権利がある」
「やれやれっスねェ~ッ こんな簡単なことに気づかなかったなんて」
「見てくださいこの顔!
耳まで真っ赤じゃないスか、これもうアタシたちの声聞こえてないっスよ
『ないていい』とか…フッ。
チアノーゼ起こすほど既に泣いてるお子に向かって言うセリフじゃないっスね」
「子どもって押し殺すように泣くようになるんスよ。
おかあさんが好きすぎて、おかあさんが困らないようにって声を殺して泣くんです
だから「これ以上なく泣きたい」っていうときにこそ「聞こえない泣き声」を選ぶ。
・・・ギャン泣きすりゃそりゃあ親じゃなくても寄ってきますよ
泣き声ってそういうもんだから」
「でもね、本当の親子だと違うんス。
聞こえないように、でも泣くのは避けられないから声を殺して泣く。
これはね、本当の親以外には聞けない泣き声なんス
なんせ初めからそばにいるから、唯一気付けるのが母親ってだけだけど
でもまあレアっスよ超レア。本来他人なら絶対聞けないっスからね
そのぐらい瑠美が純粋なんだって証拠っスよ」
(発音は「レ→ア↑っ→スよ↓超↑レ→ア↓」
「…君は」
「本で読んだだけっス。役に立てて光栄っスよ」
「いや。あえて言わせてもらう。
…パラドックスだな、これは…なぜこんな習性のある生物が
『子を産み、手ずから育て、いずれ旅立たせる』という方法論でもって
現在のように隆盛したのだろうか」
「グ~ゼンじゃないっすかァ~?
運が悪かったら逐一死んだんじゃないのぉ~って思いますよアタシは
実際「彼女」は子育てなんかしてないっぽいし、それでもアタシたちは成長してる
つまり最初っからパラドックスなんか起きてないっス
『衰えたな、所長…』(フッ)」
「…きみ俺の全盛期とか知らんだろう多分」
「興味もないっスね」
「結構だ。」
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