第52話 再交渉④
「それから?」
「湊さんを勧誘しない限り私は野球部も普通の桜風学園の部活動の1つとして応援しますので、どうか湊さんの勧誘だけはしないようにお願いします」
前に華菜1人で生徒会室に乗り込んだ時に比べると随分丁寧な言い方ではあるものの、そこには強い気持ちがこもっているように感じた。結局、生徒会長の懸念事項はその部分だけにあるのだろう。
ただ、残念ながら華菜が野球部を作るための理由は、ちょうど生徒会長が反対する理由と同じなのだ。
「あの……」
やはり華菜は確認せざるを得なかった。曖昧にはぐらかされるとしても、その関係性を尋ねない訳にはいかなかった。
「生徒会長って由里香さんと仲が良いんですか?」
「あなたには絶対言いたくないって前も言いましたよね?」
「それってつまり仲良しってことなんでしょうか?」
関係がないのならただ否定すればいいだけなのに、断固として否定しないのは、多分そういうことなのだろう。
華菜が一歩踏み込んで尋ねると、生徒会長が不快そうな表情をして華菜の方をみた。
「だったらどうするんです? 別に私と湊さんが知人だろうと、そうでなかろうとあなたには関係ないことじゃないですか?」
「そうですよね。変な事聞いてすいませんでした」
あまり深く追求して生徒会長の気が変わったら困る。華菜はこの辺りで話を切り上げることにした。
「いずれにしても野球部は承認しましたからもう出ていってください」
「ありがとうございます」
華菜と千早は頭を下げてから出ていった。
緊張感のある生徒会室から一歩外に出ると、解放感と野球部を認めてもらえた喜びとで、思わず生徒会室の前で飛び跳ねて千早とハイタッチをしてしまう。
「やったー!」
「これで堂々と活動できるし、あと4人の勧誘もしやすくなるね!」
2人で喜びを分かち合っていると、ドアの向こうから生徒会長の「廊下で騒がないように!」という不機嫌そうな声が聞こえてきたので声を潜めた。
「早く野球部部室(仮)に戻ってみんなに報告しないとね!」
「もう今から(仮)じゃなくなるけどね!」
華菜と千早は大急ぎで旧第2校舎へと向かった。
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