第陸話 【 諦めない心 】

 言ノ葉が一人お風呂から灰夢の部屋に帰ると、

 灰夢は牙朧武と九十九の三人でゲームをしていた。





「おぉ、帰ったか……なんだ、どうした?」

「氷麗ちゃんを、怒らせちゃいました……」


「なんと。言ノ葉殿にも、愛想を尽かす者もおるのじゃな」

「優しさだけでは、人の心は動かぬか……」

「…………」

「んで、あの子はどこに行った?」

「帰りました、一人で……」

「……そうか」


 灰夢が手招きをして、言ノ葉を近くに呼ぶ。


「……なんです?」

「間違ったことをしたんじゃねぇんだ、そんな暗い顔すんなよ」

「そう言われましても……」

「何か、元気になるものは無いかのぉ……」

「相手の方も気になるのぉ。その小娘も、相当病んでそうじゃ……」


「なんか、お二人共、お兄ちゃんに似てきてますね」

「……おい、それはどういう意味だ?」

「……な、なんでもないです」



「それなら、良い話があるよっ!」



 その言葉に振り向くと、部屋の入口に蒼月が立っていた。


「そ、蒼月のおじさん……」

「その良い話ってのは?」

「来週、近くで夏祭りがあるんだよね」

「あぁ、あの梅雨明けなんたら祭ってやつか」

「そそ、だからそれに誘ってみたら?」


「言ったところで、来てくれますかね」

「むしろ、言わなきゃ絶対来ないでしょ?」

「それは、そうですけど……」

「蒼月、その紙見せてくれ……」

「ほいほ〜い……」


 灰夢が夏祭りのチラシを受け取り、その内容をじっくりと見る。


「これなら、子狐共も喜ぶか」

「灰夢くん、だんだんパパみたいになってきたね」

「誰がパパだ、せめて兄とかにしろよ」

「まぁ、本音言ったら中身おじいちゃんだけどね」


「ちょっと、今は氷麗ちゃんとは顔を合わせずらいです」

「まぁ、今すぐってのは少し気まずいな」

「でもこれ、来週だよ? どうするの?」


 灰夢は少し考えて、大きくため息を吐いた。


「はぁ、しゃあねぇか……」

「お兄ちゃん、どうするんですか?」

「これを渡してくっから、氷麗とやらの住所教えろ」

「灰夢くん、ほんとにお節介だよね」

「梟月からの依頼だ。じゃなきゃ、手なんて出さねぇよ」


「ごめんなさい。わたしが、余計なことをしたばっかりに……」

「だから、お前は間違ったことはしてねぇって……」

「でも、わたしには何も出来ませんでした……」

「…………」

「ヒーローぶって、結局、怒らせちゃいました」


 そういって俯く言ノ葉の頭に、灰夢がポンッと手を置いた。


「なぁ、言ノ葉……」

「……はい?」

「前に俺が言ったこと、覚えてるか?」

「……なんですか?」



























 「 『 一発で上手くいくわけねぇ 』って、教えたよな? 」



























 そんあ灰夢の言葉に、言ノ葉が目を見開く。


「……そう、ですねっ!」

「まぁ、招待は俺がしてくる。お前は祭りの計画でも立てとけ」

「はい、頑張るのですっ!」

「ふっ、その意気だ……」

「あっ、お兄ちゃん。住所はここです」


 そういって、言ノ葉が住所を紙に書いて渡す。


「よし、わかった……」

「灰夢くん、また凍らされないようにね」

「そうだな、不死身ってバレねぇようにしねぇと……」

「やっぱコンビニの件、お兄ちゃんじゃないですかぁ……」

「俺らになんか、深く関わらねぇほうがいいんだよ」


「それ行ったら、私はどうするんですかぁ!!!」

「お前はここに生まれちまった時点でアウトだっ!」

「ぴえぇぇ、理不尽なのですぅ……」

「だから、普通にこうして、お前と話せるんだけどな」

「その言い方はズルいのです、お兄ちゃん……」

「大人はみんなずるいんだ、覚えとけ……」


「最悪の宣言だね、灰夢くん。僕も巻き添えにしないでよ」

「お前は俺よりズルいだろっ!」

「失礼だなぁっ! 兄弟子に向かってっ!」

「老骨同士に兄弟子もクソもあるかっ! それに、歳なら俺の方が上だっ!」

「確かに……。灰夢くん、僕の倍以上は生きてるんだもんね」

「はぁ……。なんか、自分で言ってても哀れだな」


 そんな二人の言い合いを見て、言ノ葉は笑っていた。


「そんじゃ、とりあえず行ってくる。晩飯には帰る」

「了解、いってらっしゃ〜い」

「わらわたちも行こうか?」

「いや、一人でいい。お前らは言ノ葉の気分転換にゲームの相手でもしとけ」

「うむ、了解じゃ……」

「吾輩たちは、ここで帰りを待つとしよう」


「……お兄ちゃんっ!」

「……ん?」



























   「 氷麗ちゃんを、どうか助けてあげてください 」



























     その言葉に、灰夢はそっと笑みを浮かべた。



























       「 ……あぁ、わかった 」



























      「 ……約束、してくれますか? 」


























  「 あぁ、約束だ。必ず、あいつを暗闇から連れ出してやるよ 」



























 灰夢は、迷うことなく言ノ葉に告げると、


          影に潜って、氷麗の家へと向かっていった。

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