第一部 転生したお嬢様の巻
お嬢様になりました
お屋敷
いま私はどこかで見た、ヨーロッパ風の町並みを走る馬車に揺られています。
路面電車が走っていますが、車はほとんどありません。
大八車ですかね、人がひく荷車が、結構行き交いしています。
そういえば、蒸気機関ぐらいしか、存在しないとありましたね、つまりガソリンもディーゼルもない……
電気がある以上、どこかに発電所があるのでしょうね。
蒸気自動車ぐらい、無いのでしょうかね。
私の名前は『朝比奈雪乃』、当年十二歳……この名前?ここは日本?
でも、道行く人はどう見てもヨーロッパ風、違和感満載……
明らかにコーカソイドの内の地中海人種ですね……ブリュネットの髪の方が多い……黒髪もおられますが、よく見るとブリュネットの濃い色です。
でもレッドヘアーもブロンドもプラチナブロンドおられますので、北方人種やアルプス人種なども混じっているようです。
どちらに転んでもコーカソイドというのが納得です……
これから人に会うので、身だしなみを整えようと、手鏡を借りて自分を写してみますと……
髪はプラチナブロンド、瞳の色はアースアイと呼ばれるもので、明るく鮮やかな青眼に、黄色味が強いブラウンが混ざっています。
肌は名前の通り、真っ白でシミ一つないのです。
自分でいうのもなんですが、怖いぐらいの美少女、いや十二歳なので美幼女?ですね。
兵士もいるようですね、小銃など担っていますね。
さっそく小銃を『解析』してみますと、三八式歩兵銃……
本当に大正初期の日本……ということを実感しました。
地中海人種ですから、比較的小柄な方が多く、まぁ三八式歩兵銃であっても、いいのでしょうね。
私を乗せた馬車は、とあるお屋敷の車寄せに滑り込みます。
多くの人が立ち並んでいます。
門に馬車が入ったとき、御者が知らせたのでしょうね。
「お嬢様、お屋敷に着きました、では私はこれで失礼します」
私の認知手続きをした、朝比奈伯爵家のお抱え弁護士事務所の事務員さんは、さっさといってしまい、私は手荷物をもって馬車を降りました。
お母さまは私を生んですぐになくなり、私は産院からそのまま孤児院に……
なんとか尋常小学校を卒業しようとするとき、このお抱え弁護士さんがやってきたのです。
そして高等女学校の奨学生入試を受けさせられ、多分合格したとは思いますが、結果は弁護士さんに通知されるそうで、まだ私はどうなったか知りません。
そして晴れて尋常小学校を卒業、孤児院を後にして、この家の玄関に佇んでいるわけです。
メイドさんのような方が、
「雪乃お嬢様ですか?」
「雪乃です」
「旦那様がお待ちです、お荷物は?」
「これだけですが?」
「まぁ!」
少ないのに驚いたような顔をされました。
私の手荷物って、いわゆる『女児用雑嚢』一つ、ささやかな衣服が入っているだけです。
今着ている服と替えの服、そして幾組かの下着……あとはお母さまの色あせた写真があるだけ……
そうそう、産院発行の私の出生証明書と、認知登録後の戸籍証明、そして孤児院発行の、顔写真入りの身分証明書は大事に持っています。
愛人の娘……どう考えても歓迎されるわけはない……
きっと虐められて、メイドのように虐げられるのでしょうね……
そんな考えが顔に出たのでしょうね、案内してくれるメイドさんが、
「雪乃お嬢様、旦那様はとてもお優しいのですよ、それにお嬢様のことを、大変ご心配なされていたのですよ」
「そう……ですか……」
「こちらです、旦那様、雪乃お嬢様です」
豪華な応接間に案内されると、ありえないほどイケメンな若い青年。
この人が旦那様……
「旦那様、雪乃と申します」
私は孤児院の院長先生に叩き込まれたカーテシーをしながら挨拶しました。
「久光だ、歓迎するよ」
「その……旦那様……ありがとうございました……」
「兄だから、久光でいいよ」
「……久光……お兄様……」
こう言うと、久光お兄様は大変うれしそうにされました。
到着したのが午後の3時半、そのままアフタヌーンティーとなりました。
いわゆる三段のティースタンド、サンドイッチ、スコーン、ケーキが盛り付けられています。
「あの……私は……作法など知らなくて……孤児院では、食べたことが……なくて……」
不思議なことに、恥ずかしいのです……自分が礼儀を知らないということを、恥じてしまうのです……
これって、私が本当の女性になりつつある、ということでしょうか……
「気にすることはない、作法などは後から学べる、雪乃はもっと食べなくては、ガリガリではないか」
「先ほど会った時、余りの細さに涙が出そうだった、ぷくぷく太るのは華族の令嬢としてはどうかと思うが、今はもっと食べて、健康になって欲しい」
久光お兄様はそう云ってくれました。
でもお兄様、私はこれでも健康は神様の折り紙付きなのですが……
つまり、見てくれが貧相なのでしょうね……胸ですか?でもまだ成長途上なのですよ。
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