老後のおかしなおかしな女学生生活

ミスター愛妻

プロローグ

亡き親友からの手紙


 ここはとある大学病院……

 ある人が夏至の夜に物思いに浸っていた。


 私はもうすぐ死ぬだろう……余命いくばくもないのは自分だからこそわかる……


 私は六十五になるが、ある理由で独身を貫いた。

 遺伝子上は女性だが、外見は男性という女性仮性半陰陽……子供は不可能だからだ……


 弟がいるので、実家は弟が継いでいる、私の少なからずの遺産も受取人がいるわけだ。

 

 それなりに働き、株に投資、困らない生活をし、寄付などもそれなりにしていた。

 少なくとも天国に行けるのではないか?


 それにしても人生の潮時だな……


 思い残すことはない……が、しかし……

 最後にあの男と話がしたかった……


 あの男とは話があった……

 彼との会話は楽しかった……

 彼には私の秘密も打ち明け、ともに酒など酌み交わした仲だったが……


 彼は先に亡くなってしまった……


 そして思いは薄れていく……


 と、目の前に何かが浮かんだ……

 紙?いや、手紙のようだ。


 不思議に手紙の内容が分かる。

 それは亡き親友からの手紙だった。


 ……いろいろと難儀な人生、そして厄介な病のせいで、女性としての幸せは望み薄の日々を送ったのは知っている……

 ……私は神のご配慮により、ある世界に転生した、それなりにエンジョイしているよ……

 ……私は転生したとき、女性となり、不老と引き換えに子孫を残せぬ身となったが、第二の人生を充実して送っている……


 ……私は神様の為に働いたようで、ご褒美をいただけることになった。

 ……そこでだ、私によくしてくれた君のことを思い浮かべるのだ……

 ……私は君のことを神様にお願いした、君の寿命が尽きるとき、私のように転生して第二の人生、それも幸せな人生を送れるようにならないかと……

 ……神様は条件付きで認めて下った、その条件は私は教えていただけなかったが、君の人生の最後の時に、このメッセージが伝わるだろう……

 ……もし、よろしければだが、条件をのんで、人生のやり直しをお勧めする……


 最後に亡き親友の署名があった。 


 そして、頭の中にその条件が示された。

 条件とは、やはり転生したとき、女性となり社会に貢献する事、そして転生する以上、この世界ではないことを承知すること。

 生存は保証するゆえ、あとは当方に全て任せる事。

 

「そうだな、実は心のどこかで……女性として生きてみたかった……神様、どのような条件でも了承します、どうかよろしくお願いします」


 その人が心の中で願うと、意識が薄れていった……


 翌朝、その人は病床で死んでいた。

 体は検体となり、最後まで社会に貢献したようだ。


 弟が喪主となり、葬儀が済むと、その人は多くの人と同じく、誰も思い出すことなどなかった。

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