青春のゆくえ

和希

第1話 ついえた夢

「……え? 大会が中止?」


 未知のウィルスの影響による休校がようやく解け、ほっとしたのも束の間。

 高校に久しぶりに顔をそろえた私たちを待っていたのは、あまりに無情な通告だった。


 放課後、私たち競技かるた部員は教室に集められた。そして、顧問の市原先生に告げられたのだ。今月に予定されていた県大会は行われない、と。


 市原先生が気の毒そうに話を続ける。


「県大会だけじゃないわ。今年は全国大会も中止よ。あなたたちがどんなに望んでも、近江へは行けないの」

「そんな……」


 県大会で優勝した学校は、七月に近江神宮で行われる全国大会へと駒を進めることができる。

 だから、私たちは県大会の突破を目標に、みんなで力を合わせて必死に部活に励んできたのだ。


 突然休校になった春までは――。


 教室は重い空気に包まれ、すすり泣く声が聞こえてきた。

 一つ下の後輩、川崎美鈴みすずちゃんがマスク越しに涙声をふるわせ、市原先生にたずねた。


「それじゃ、祥子しょうこ先輩たちはどうなっちゃうんですか? もう祥子先輩と一緒にかるたを取れないんですか?」

「かわいそうだけど、そういうことになるわね」


 私たち三年生にとって、今度の県大会は高校最後の大会だった。

 勝ち残れば、夢にまで見た全国への道が開かれる。けれども、負ければ即引退。それだけに、今度の大会にかける思いは強かった。


「祥子先輩ぃ……」


 美鈴ちゃんが、あふれる涙をぬぐいもせず、私にしがみついてくる。


「あー、よしよし。泣かないの」

「だって、こんなのあんまりです! うわあぁ~ん!」


 美鈴ちゃんは感受性が豊かなのか、日ごろからよく泣いた。

 一年生のころなんか、試合途中でも劣勢になるとぽろぽろと涙を流しはじめたっけ。

 私はなにかと美鈴ちゃんの相談に乗り、励まし、また練習相手をよくしてあげた。おかげで今では実の妹のようになつかれている。


 私は泣きじゃくる美鈴ちゃんの髪を優しくなでてやった。


「大丈夫。美鈴ちゃんには来年があるじゃん」

「祥子先輩と一緒じゃなきゃ嫌なんですっ! なんのためにここまで頑張ってきたんですか~っ!」

「……まったく。なんのためだろうね」


 そんなの、こっちが聞きたいよ。


 市原先生が私に労いの声をかけてくれた。


「鹿島さん。一年間、部長としてよく頑張ってくれたわね。ありがとう」

「はい。ありがとうございました」


 こうして、ずっと部活にかけてきた私の青春は、唐突に幕を下ろしたのだった。


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