BEYOND THE STORY
Sunny Sunny Sunny
第1章
第1話 百万 一与 ①
序章
神の力か偶然か、何かの力が働いたのかはすでに知る者はいないが、膨大な時の流れの繋ぎ目に、一粒の
滴は同じ時を
水は透き通り、地は雄大で、万物は生命に溢れ、およそ世界が望むものは天から与えられ、説明などつかないほど美しく調和のとれた平和な世界が、そこにはあった。
いつしか世界の望みは膨らみ『欲』が生まれた。
同じくして天からの恵みも止んだ。
天は閉じ、木々は枯れ、地は剥がれ、水は裏側を忘れた。
奪い、争い、それでも欲は膨らみをやめることはなく、美しかったその世界は、今では
『
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空に終わりなどないかのような、雲ひとつない晴れ渡った青空の下、豊かな自然に囲まれたその戸建の中、一階から二階へ繋がる階段、
その先の部屋へ繋がる閉ざされた戸は、
——
「イチっ! な・ん・か・い・呼べばあなたは来るのー!」
最近の嬉しかった事は、宣伝文句通りに、化粧のノリが良くなった化粧水と出会えた事。
「え? あ、ごめん、すぐ行くよ」
そしてこの母親の睨みも凄みも引き継がれなかった、どちらかといえば人前で何かを強く表現するという事は苦手で、人の顔色を見ては、遠慮気味に日々を送るという
「イチはいつも時間通りにご飯食べてるんだから、必ず返事だけはしてちょうだい! 毎回二階に上がるのも大変なのよ …… 」
「ごめん、聞こえなかったんだ …… 」
「声は部屋まで届いてるでしょ …… いつもそれに集中しすぎなのよ!」
「ごめんなさい …… 」
「すぐ来なさいね!」
和式六畳の一般平均男子に似つかわしいこの部屋が、イチの部屋になる。
この時代、娯楽も勉強もパソコン一台あれば充分なのだろう。机の上には余計なものもなくすっきりと片付いている。
三面一杯にガラスケース棚が並び、中には多種多様にお決まりのポーズで静止したキャラクターフィギュアが丁寧に整列されて、和式六畳の多くを占めている。
特に最近ネット追跡広告の誘惑に三時間で負け購入した
母親の呼び声など届かぬほど集中して眺めていたのは、先日発刊された黄金解決ブルジョワン358巻の電子書籍。
度々出て来るこの黄金解決ブルジョワンとは、初版から350年以上たった今尚続く作者不詳のベストセラー小説だ。
主人公ブルジョワンが金に物を言わせ強引華麗に事件を解決していくという、イチの年頃にも似つかわしくない内容でもある。
机の上のパソコンを閉じ、席から立ち上がると、部屋一面に飾られたキャラクターフィギュアを見渡し、ガラスケースの中にわずかに空いているスペースを見つけると、何ともいい難い口角だけは上がっている笑顔を浮かべる。
「次のブルジョワンの相棒、ハイソサエティの首輪がジルコニアリミテッドエディションはここに飾ろう!」
イチが階段を降りリビングに出ると、母親の作る野菜スープと果物ジャムを始めとした、いつもの優しい匂いに包まれる。
チンッという乾いた音と共に、香ばしい小麦粉の香りを漂わせるトーストが三切れ顔を覗かせると、イチはさもタイミングを測っていたかの様に、三切れ全てを手に取り、決められた階段近くの席へと座る。
テーブルには茹で卵と色とりどりのジャム瓶が並ぶ、よく見ると瓶の中では
この世界でも珍しさを感じるには充分の品であるが、トーストには自然とバターを塗るように、ここでは自然と日常に溶け込んでいる。
イチはどれも手に取らず、横の甘い香りのチョコレートカブジャムのスープに、先ほどのトースト三切れを千切っては、じゃぶじゃぶとつけ始める。
——
「兄貴早起きなのに、いつも遅刻ギリギリになるのどうにかなんないのぉ?」
隣の席には起きたばかりで、髪も表情もまだ定まっていない妹の
「遅刻は一回もしていないよ。問題はないだろ」
イチはビシャビシャになったトーストの染み込み具合を確認すると、ボウルによそられた殻付きの茹で卵に手を伸ばす。
両手に一個づつゆで卵を持つと、テーブルの上でコロコロと同時に転がしながら殻にヒビを入れていく。
「そういう意味じゃないのぉ。相変わらずエンプティオーラ読まないなぁ」
イチは構わず両手で器用に茹で卵の殻を剥き取っていくと、準備の整ったビシャビシャパンと茹で卵二個を、調和もなく不規則に平らげていく。
そこへ母親が追加のジャムを差し出しに、瓶を抱きかかえるように一歩づつ丁寧にテーブルへ近寄る。
色は違えど先ほどのテーブルに並ぶジャムと同じように、淡く輝くようなそれからは、小瓶の割には両手で抱えなければならない義務感を負わすような重さを感じる。
「ハレヒメ、行儀が悪いわよ。シャンとしなさい」
「お母さん何それ? 重いの? もしかしてお父さんまたジャム送ってきたの?」
「お隣さんに勧められたんだって」
「お父さん家の隣って果物屋じゃん。何個ジャム買い続ける気よぉ。毎回見た事もない果物ジャムばかりだし、このテーブルのエンプティオーラ読んで欲しいわぁ。」
「いいから、二人ともそれ食べたら早く
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