聖女なのに勇者に追放されました。だから魔王のお嫁さんになろうと思います!

ひるね

第1話 突然の追放宣告

「リディ、お前、いい加減邪魔なんだよね。早く聖女の座を降りてくれない?」


 レベル上限解放の儀式を行うために久しぶりに勇者さまが帰ってくると聞いて、胸をときめかせて訪問を待っていたわたしに対する勇者さまの第一声がこれだったものだから、お出迎えの笑顔のまま、わたしはその場で凍りついた。


「お前がいるから、ミーシア王女が聖女の座に就けないってみんな困ってるんだよね。そういう空気、感じないわけ?」


 ミーシア王女はこの国の第一王女で、少しキツい印象を与える美貌と、くるくる巻いた赤毛と、グラマラスな肢体を持つお方だった。国内外にファンが多いが、決まった恋人を持たない、という噂でも有名だ。


「ミーシア王女が、聖女に……? そんなお話、初耳です」


 最初の衝撃から未だ抜け出せず、震える声でそれしか言えない私を侮蔑するようにひと睨みし、勇者さま、ドーハート・イーンさまは低い声で唸る。

 それはまるで、怒鳴りつけようとする声をむりやり押さえつけているようで、私はそれだけで委縮してしまう。


 勇者さまは、怒っている? 何に? わたしに? どうして?


 心あたりはまるでなかった。あの日、孤児院で初めて出会った時から、わたしはずっと勇者さまのために尽くしてきたつもりだった。

 孤児院の暮らしは飽き飽きだ、と語る彼のために神殿の奥深くに収められた聖剣の場所まで道案内し、見事彼が聖剣に選ばれたあとは神殿長や、王家にも取り継いで彼の修業環境を整えた。勇者の修業は厳しくて辛いと彼が言えば何度でも励まし、ようやく迎えた旅立ちの儀のあとは聖女の倣いに従って毎日彼のために祈っていた。だと、いうのに。


「昔から空気読めないよな、リディは。嫌がる俺に無理やり聖剣抜かせた時もそうだった。勇者の務めなんてまっぴらごめんだってバックレようとしたら、その度聖女の祈りとかでオレを見つけ出して連れ戻した。結局オレは、この城下町から旅立ってようやく、お前から自由になれたんだ」


 聖女として生まれ、その瞬間から神殿で暮らしてきた。世間知らずな面があることは否めないけれど、空気が読めないなんて言われたのは初めてだ。


 ああ、主神よ。聖女の務めは勇者を見つけること。勇者を支援し、この世界をあるべき姿へ導くこと。聖女として見出されてから十六年、私はそう信じていました。そして十年前、孤児院でドーハートさまを見つけた時、わたしは彼だ、と思いました。彼こそが、世界を導く新しい希望だと思いました。そして、その予感は的中し、彼は聖剣に選ばれました。

 なのに今この人は、わたしが邪魔なのだと言います。わたしが彼のためと思ってしてきたことは、全て裏目だったのでしょうか?


 現実逃避するかのように茫然として神に祈るしかできない私を見ると、勇者さまはツンツン立たせた黒髪をかきむしってから、物憂げにため息をついた。


「ぶっちゃけ、オレ今ミーシア王女と付き合ってるから」

「はい?」

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