8話
さっき、駅で婆ちゃんに道案内したらお金を出してきた。
お礼の気持ちだってのは解る。
感謝しているのも解る。
老いも若きも資本主義国家の人間でお金が欲しくない人は少ない。
でも、断った。
別に、正義の味方ムーブしたとか、善人ぶったとか、簡単な道案内で金を貰う訳にはいかないとか、そう言う訳じゃ無い。
単に厭だった。
悲しかった。
道案内なんて、毎日ここらをフラフラしている俺にとっては庭を案内するようなものだ。
でも、婆ちゃんを見かけて、困っているのだろうかと考え、あちこち案内板を見回して辺りをフラフラと歩いているのを見てそうだと確信して、勇気を出して声を掛けた。
周りが婆ちゃんに気付かず通り過ぎるなかで、人の波に逆らって、
だから、婆ちゃんには『有り難う』と言われるだけで十分なんだ。
金を渡され、それを受け取ったら、俺はその勇気に値段を付けなきゃならない。
俺の勇気を、国家が認めた紙切れで測られたくなかった。
だから、測れない『ありがとう』の言葉は貰った。
うん、俺の勇気は人から『ありがとう』と言われるだけの、十分な価値があるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます