8話

 さっき、駅で婆ちゃんに道案内したらお金を出してきた。

 お礼の気持ちだってのは解る。

 感謝しているのも解る。

 老いも若きも資本主義国家の人間でお金が欲しくない人は少ない。

 でも、断った。

 別に、正義の味方ムーブしたとか、善人ぶったとか、簡単な道案内で金を貰う訳にはいかないとか、そう言う訳じゃ無い。




 単に厭だった。

 悲しかった。

 道案内なんて、毎日ここらをフラフラしている俺にとっては庭を案内するようなものだ。

 でも、婆ちゃんを見かけて、困っているのだろうかと考え、あちこち案内板を見回して辺りをフラフラと歩いているのを見てそうだと確信して、勇気を出して声を掛けた。

 周りが婆ちゃんに気付かず通り過ぎるなかで、人の波に逆らって、他人ひととは明らかに違う、言うなれば異常行動をする勇気。

 だから、婆ちゃんには『有り難う』と言われるだけで十分なんだ。

 金を渡され、それを受け取ったら、俺はその勇気に値段を付けなきゃならない。

 俺の勇気を、国家が認めた紙切れで測られたくなかった。

 だから、測れない『ありがとう』の言葉は貰った。





 うん、俺の勇気は人から『ありがとう』と言われるだけの、十分な価値があるんだ。

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