第8話 結界不法侵入
男とダンジョンコアは、何やら薄暗い場所にいた。
「誰か、ここを明るくしてくれ。」
男が指示を出す。
「ちょっと疲れた・・・」
「しばらく休ませて・・・」
「わかったー!ってあれ?魔法が出せない・・・」
魔法が出せないのは当然である。ここはダリア王国の王都内部であり、厳重な結界が貼られている。魔法は誰であろうと使用することができないとされている。ここに転移できたのは奇跡といえよう。あの魔法でなぜ結界を飛び越えられたのか、まったくもってわからないが、とにかく素晴らしいことだ。
かつての魔王城の跡地に作られた王都。勇者の残した巨大な結界の恩恵によって繁栄を続けている王都。魔法に関する才能がなかったダリアにとってこの上ない場所であっただろう。それ以外にも、ここが王都とされているのには理由はあるが・・・
「明かりを探してくる。」
どうやら男が動き出したようだ。
(明かりを探すといったはいいが、見つかるのだろうか。)
間違いなく見つかる。男がいる場所は王都にある貿易港の倉庫内で、十歩ほど先に出入口がある。鍵はかかっていない。
「ん?なんだこれは。」
男の足元に何かがあったようだ。
「缶詰?いや、まさかこの世界にあるわけ。」
そのまさかである。この世界の民生技術は非常に発展している。分野によっては、男の出身地を上回るものもあるだろう。これもすべて、魔法文明の優秀さがなせる業だ。
「もしや、この世界は科学技術が発展しているのか?」
魔法技術だ。断じて科学ではない。確かに、錬金術師の連中が発明した技術を多少は使っているが、その缶詰を溶接しているのは魔法によって生み出された炎だ。
「おぉ、もしかしたら他にも地球からきた転移者がいて、内政チートで頑張っているのかもしれない。」
ありえない話である。確かに、転移者である勇者がこの世界にもたらした技術が現在の魔法文明の基礎をなしている面もあるが、大抵の転移者は何も成し遂げられていない。それに、勇者が生み出した戦争の災禍は現在まで後を引いているのである。当時の魔王は若かったこともあり多少残虐な面があったが、それでも、勇者がもたらした破壊の爪痕には及ばない。この王都の結界も、その爪痕の一つだ。魔法が全く使えないというのには悪い面がいくらでもある。例えばケガをしたとき、回復魔法を使えず多くの人が原始的な科学とやらに頼らざるを得ないでいる。回復魔法さえ使うことができれば体を開いた後にまたつなぎ合わせるといった恐ろしい行為をなさずに、一瞬で元通りだというのに。この世界は勇者の負の遺産で満ちているのだ。
「なんか、この世界って魔法とかのご都合主義で溢れているんだと思っていたけど、案外しっかりしてるんだな。」
ご都合主義・・・だと?
そもそも魔法も使えずに何かをなせるようになっていることこそがご都合主義なのだ。もし、勇者によって現在の科学技術がもたらされなければ、圧倒的な魔力適性をもつ魔族はいずれ世界を支配していたであろうに。
「お兄さん、なんかいったー?」
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