第10話 火災。

「私はギリギリまでジェイドと居るね〜」

ジルツァークがそう言ってセレストとミリオンに手を振る。


「ジルも無理しないで良いぞ?」

「私はさ、夜は居られないルールだから良いの。

ジェイドの事は私にも責任があるんだから気にしないで良いんだよ?」

ふわふわと浮かぶジルツァークがジェイドに語り掛ける。


「あんな事は誰が想像する?ジルの失態ではない。人間の闇…それだけだ」

そんな言葉を聞きながらセレストとミリオンは歩く。


「ジルツァーク様の責任?」

「人間の闇?それが亜人達を倒す障害になるの?」


謎ではあるがジェイドが穴に入る前には言うと言っていたのだから今は信じて待つしかない。


日が沈んだ後、城に戻ったセレスト達はブルア王に事情を説明した。


「ふむ…、わからない事だらけだな。

グリアの王子には何か事情がありそうだ。

だが無事に救出が出来たことは良かったと思う。

今宵は疲れを癒し早く休むが良い。

翌朝グリアの王子が訪れた時に今後の話をしよう」


ミリオンは客間に、セレストは自室に戻って疲れを癒しながらこれから先の事を考えていた。


そして虫の知らせなのだろうか…昼間スライムから助けた男を見たジェイドの「嫌な予感」と言う言葉が引っかかっていた。


夜更け。

突然遠くから聞こえる悲鳴でセレストは目が覚めた。


「どうした!」

慌てて兵に確認を取ると街で大規模な火災が起きたと言う。


「被害は?」

「不明です。ただ火災は一軒ではなく何軒も起きていて兵達が対処に当たっています」

兵士たちが慌ただしく消火準備をしながらセレストの質問に答える。


「僕も行く!」

そして身支度をして廊下に出ると「セレスト!」と言ってミリオンがくる。


「ミリオン!」

「私も魔法で消火を手伝います。行きましょう!」

セレストとミリオンは街に行くと避難指示をする兵士を抜けて火災現場に到着する。

火事は想像以上に酷く既に火元がわからないくらい周囲の家を燃やしていた。


「くそっ…延焼が酷い」

「水魔法で消すにしてもこの燃え方では…」

そこに外套を深く被ったジェイドが走ってくる。

兵士がジェイドを止めようとするがセレストがそれを制止する。


「お前達!良いところにいる!セレスト、勇者の剣、「真空剣」は使えるな?まだ燃えていない周りの家を破壊して燃え移らないようにしろ!

ミリオン!お前のウオーターボールの規模は?街を覆えるか?」

ジェイドが2人に指示を出していく。


「ジェイド…」

「え?」

また自分たちの技や魔法を知っていたジェイドに驚いてしまう2人は何も言えない。


「良いから答えろ!人命がかかっているんだぞ!」

ジェイドの必死の声に2人は現実に引き戻される。


「…真空剣だな!わかった!」

セレストが周りの家に向かって風の刃を飛ばすと家に切れ目が入って行く。


「全部じゃなくて良い!半分でも壊して火の勢いを止めろ!」

「任せろ!」

セレストは防人の街以降ジェイドの指示が的確であることを知っているので躊躇なく実行に移す。

ジェイドは風の刃を見て満足そうにミリオンを見る。


「ミリオン!」

「え!?あ…街を覆えるわ!」


「よし、それなら合わせ技だ。ウオーターボールの中心にミドルボムの魔法を出して弾けさせるんだ。

細かく散らしすぎては消火にならないが散らす量が甘ければ水の重さで家が壊れるぞ!」


魔法の合わせ技を要求されることも意外だったがやれと言われているのでやるしかない。


「わかった!ウオーターボール!ミドルボム!」

ミリオンの魔法は街の上空に巨大な水の塊を出してそれを爆破してさながら大雨の様相で街の火災を消火した。



「消えた…」

「良かった…助かったよジェイド。今の家屋からは人も無事に逃げ出せたと聞いているし…」


そう言った時、群集の中からナイフを構えた男がミリオンに向かって走ってきた。

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