160話 シルバーシスターズ

「だ、誰ですか! ヤニングスは私が倒すんです!」

「あんた、相変わらず頑固よね」


 どこからか突然現れた少女。アメリアは乱入してきた彼女に文句を言うが、少女はため息をつくばかりだった。


 銀色に輝くロングヘアをなびかせる少女は、子供らしさを残した幼い顔立ちながら、この混乱する戦場にあっても己を一切見失うことのないと思えるような自信溢れる表情を見せている。

 一方で体つきは年齢相応で、女性的な曲線をほとんど描いていない幼児体型。どちらかと言えばロッタのそれに近いが、彼女より背丈は若干上だった。

 しかし、魔法を扱っているにも関わらず、少女は白地に青い袖のパーカーに灰色のプリーツスカート、ハイソックスにスニーカーと、明らかに地球の現代文明に即した格好をしている。


「ま、いいわ。それよりも、アイツを倒すんでしょ? 協力してあげるから、一緒に戦いましょ」

「いえ、ですから……」


 銀髪少女は魔法防壁を解放しながら言うが、アメリアには全く飲み込めない。そもそも、どこの誰かもわからない人物に乱入されて協力を持ち込まれても困惑するだけだ。


「させません」

「っと、いきなり危ないわね!」


 もちろん、ヤニングスはおいそれと2人の協力関係を認めることはなかった。銀髪少女に剣を向けると、背後に魔法陣を展開して加速、自身が槍となり超高速の突きを放つ。

 だが、銀髪少女はサーベルを手で掴み取り、彼の突進を強引に抑え込んだ。


「まさか、あなたまで!」

「ああもう、じれったい! そうよ、アタシはまーくんよ、ネズミのまーくん! 覚醒したアメリアの魔力を3分の1くらい貰って人族の体を作り出したのよ! これで納得したかしら!?」

「アメリアの魔力を掠め取ったというのですか! しかし、それでこの力とは……」


 ヤニングスは銀髪少女のカミングアウトを聞くなり、更に目を見開いた。アメリアと同じく覚醒を経た能力者辺りだと思っていたのだろう。


「え、まーくんですか……?」


 ヤニングスもむしろ、アメリアの方が遥かに強い衝撃を受けていた。

 まーくんと言えば、アメリアが飼っているペットのネズミのことだ。一切素性の知れない少女がいきなりその名を出したことは、アメリアを大いに混乱させている。


「そ、それが本当だとしても、まーくんはオスのはずですけど……」

「違うわよ! メスよメス! 最初からメス! あんたが読んだ図鑑が間違いなのよ!」

「あ、そうだったんですね……残念です」

「ええ全くよ、あんたの性癖が残念だわ!!」


 少女はヤニングスのサーベルを振り払いながらも、何が気に入らないのか激しく怒鳴り散らしていた。一方でアメリアはため息をつき、心底残念そうにしている。


「うう、まーくんとバラ色結婚性活がぁ……」

「この状況で発情してんじゃないわよバカ! ウサギかあんたは!」

「全く、あなた方はどこまで手前を愚弄すれば気が済むのですか」


 さすがに我慢の限界が来たのか、ヤニングスは魔法防壁を完全に解放、深紅のオーラを放ち始める。それに加えて、左手でレイピアを抜き、異なる刀剣の二刀流スタイルを取った。

 サーベルを抜いたところさえ目撃されていなかったのが、今回はその先を行くサーベルとレイピアの二刀流と魔法防壁の完全解放。本気で戦う気になっていることは確かだ。

 さすがに危機感を覚えたアメリアは、自身の頬を叩いて気合を入れ直す。


「ごめんなさい、もう大丈夫です」

「もう……バカは大概にしなさい」


 アメリアは苦笑いして誤魔化そうとするが、銀髪少女はため息をつきながらも真面目な表情を崩さない。

 いつも眠ってばかりのまーくんだが、いざという時には役に立ってくれる。瀬里奈の逃亡だけでなく、今回もそうだ。

 アメリアは闘志を湧き立たせる少女を横目で見ると、心の中で感謝の言葉を述べた。


 本当にありがとう。いつもそばにいてくれて。


「まーくん、私の魔法は光の力、闇を照らす灯火です! 必ず勝って、ヤザワさんたちに道を開きましょう!」

「そんなの承知の上! さあ、行くわよ!」


 アメリアと少女は互いに激励を送り、戦闘への意欲を高め合う。

 倒すべき敵だけを一点に見つめて。

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