第3話 出会い
「お前は変わらないな」
話を聞いていたと思っていたリーンが突然そう言って、そっとラシェルの頬に触れる。
ラシェルとリーンが出会ったのは十年前。勝手に城を抜け出し森で迷子になっていたリーンを保護したのがラシェルだった。
あの時リーンにはラシェルが二十歳ぐらいに見えた。
リーンはこの十年で背も伸び顔も体つきも大人になった、身長も長身のラシェルにほぼ追いついた、もう少し成長すれば越せるかもしれない。
しかしラシェルはあのころから身長もその美しい姿もちっとも変わっていない。
リーンの指がラシェルのおでこをピシャリとこづいた。
不意をつかれたラシェルが額を抑えながらびっくりしたようにリーンを見詰める。
「支度をしろ、馬を駆る」
脈絡もなく言い放つとすぐに出るといわんばかりに立ち上がる。
そして静止しよう手を伸ばしたラシェルより早く、ふと思い出したように言葉を付けたした。
「光神祭の最中にお前が急にいなくなったから、みんながっかりしてたぞ」
口では非難めかしにいいながら、なぜかその表情は楽しそうだ。
「申し訳ございません。でも帰れといったのはリーン様ですよ」
後ろめたさを感じていることをあえていうなんて、そんなことを言われた後に強く出れるはずがない。恨めしげにリーンを見上げながらため息をつく。
黒曜石のような瞳に透けるように白い肌、その肩に流れるつややかな銀髪は、王が短く切ることを禁じたほどだ。
その美しさは老若男女とわず虜にしてしまう。
遥か遠方の土地からも噂を聞きつけ、一目その姿を見ようと足を運ぶ者も少なくない。そうしてラシェルを見ることが叶った旅人は皆口をそろえてこう言った「噂は嘘でなかった」と。
「早く支度をしろ」
しかしみんなは知らない、この美貌の持ち主がこんなに表情が豊かな人物だと言うことを、ただ一人リーンを除いては。
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