CHASER

追佐龍灯

プロローグ

プロローグ 泉 由香

東京トーキョー 上下田カミシモダ

政府の命令により東京湾は世界最大級の埋め立て地となった。

当時は「未来を変える。」などともてはやされ、「夢の大地」とも呼ばれていた。

上下田が完成してから、約一世紀。

上下田の細部まで治安維持は行き届かず、麻薬の売買から殺人、強盗etc…

「夢の大地」などと呼ばれていた頃が懐かしく思える。今はもう「夢の大地」などではなく、名付けるならそう、「終焉の町」


2219/3/28イズミ 由香ユカ


「卒業おめでとう。泉君。」

「ありがとうございます星野さん。」

「もう今度からさん付けは辞めておいた方がいいかもネ。」

「失礼しました。」

星野純良ホシノスミヨシは滑るような立ち回りで横を向き、左ポケットからケースを右ポケットからライターを取り出し、タバコをふかしはじめた。

「君、今幾つだったけ?」

「26です。」

「そうかぁ…まだそんなに若いんだねぇ。」

口許から灰が落ちるのを目で追った後、今度はカバンの中から携帯灰皿を取り出し、右足で少し赤光りする灰をジリジリと踏みつけにした。

「君のような子は珍しいよ、なんてったって警察学校卒業と共にへの配属が決まったのだからね。」

「正確にはです。」

「おぉおぉ…そうかスマンね。」

星野は少しクッと笑った。

「よく思わん連中も多いだろうが、頑張りたまえよ。」

「そのお言葉、有り難く受け取らせて頂きます。」

「フッ、かしこまちゃって。」

星野はほぼ吸い切ったタバコをぐりぐりと灰皿の中にねじ込むと、自分の向いている方向とは反対方向に足を進めた。

「君の代、警察学校を辞めさせられた生徒が二人いるね?」

「………はい。」

「君、その子等と仲が良かったそうじゃないか。」

「………えぇ、お恥ずかしい限りですが。」

「何も恥ずかしがることじゃぁない。その子たちに適性が無かっただけの話だ。」

「………。」

「君の配属はおそらく一か月後に連絡が行く。配属までの二か月ほど、最後のバカンスだと思って楽しみたまえよ。」

星野は「じゃ、また。」と言って去っていった。

「バカンス………。」


配属がどのあたりになるかもわからないので、引っ越す気にもなれず、自分は実家に帰った。

家に帰ると早速母が出迎えてくれた。

「お帰り。」

「ただいま~。」

仕事ではがちがちと固まりっぱなしだが、家に帰ると気が抜け一息ついてしまう。

「随分と疲れてるみたいだな、由香。」

「お父さん。」

「まぁまぁ親父、東京から新幹線のってびゅーんと帰ってきた娘だ。労いの言葉をかけてやりなよ。」

「うわ、お兄ちゃん…。」

「うわってなんだよ、うわって。」

久々の家族団らんの食事だテレビをつけてニュースを見る。」

『現在、警察による捜査が続けられていますが、犯罪組織JUGGERジャガーは、未だ一人も捕まっておりません。犯人の足取りもつかめず、警察は上下田内での外出自粛を呼び掛けています。』

「あら、怖いわねぇ。また上下田?」

「全く、過去の遺物を律儀に残さんでも、もう取り壊してしまえばいいものを。」

「そんなことできるわけないだろ、親父。あそこには国内最大級の大手会社が所狭しと本社を建ててるんだからさ。」

「そんなものどかしてしまえばいいだろ。」

「今ニュースでやってるようなテロ組織が阿保みたいに上下田の取り壊しを止めるように呼びかけているから、そんなことしたら本社がテロでもされかねないのよ。まぁでも上下田なんか近づかなければどうってことないわ。上下田に面するところは殆ど警官が見張ってるから入るのにも一苦労なんだから。」

「由香は警察の肩持ちすぎだろ。」

「だって警察だもん。」

「ッ………このヤロー。偉そうにしやがって……。」

「なんか文句ある?公務執行妨害で逮捕も出来るわよ。」

「職権乱用って言うんじゃないかしら、それ?」

家族四人での楽しいひと時は進んでいく。

二か月ほどだが、久しぶりに長期間実家にいる。お母さんとお父さんは変わらないけど、お兄ちゃんは少し大人になったような気がする。最後に私が大学に通うために家を出て行ったときは、お兄ちゃんは家出して所在が分かんなくて、私が警察学校に行っている間に帰って来ていた。

実は、お父さん以外の私とお母さんはお兄ちゃんの家出中、こっそりお兄ちゃんに会っていた。やりたいことを脈々とやっていて、私とお母さんは何度も不安になったが、まぁ結局今こうして生きているんだから別に大したことじゃぁない。

しかし、私が実家に帰って来てからの兄の行動は不規則で、恋人に会ってくるとか言って出てったら二日後に帰ってきたり、一日中自分の部屋から出てこなかったり。

両親はもう慣れたと言っていたが、自分は怪しくて仕方がない。感じる怪しさも普通じゃぁない。何かこう、警察学校で学んだ、人を見る目がズキズキと呼応するような感じで、お兄ちゃんがお兄ちゃんではなく、怪しい何かに見えるような気がする。

私は満を持してお兄ちゃんを尾行することにした。

家を出て、電車に乗り、お兄ちゃんはある場所へと足を進めていた。

上下田。

『…………………か。』

「いえ、彼どころか奴らの 情報もつかめません。」

お兄ちゃんと誰かが話している話し声が聞こえる。

「彼、泉 文則イズミフミノリの行方が。」

文則…!?

私は飛び出すしかなかった。

ドタンッ!!

「!?…お前、いずっ…」

「あなたは何者ですか!?」

『どうした!何が起こったんだ!』

電話口から大きな張り声が聞こえる。

「彼女と直に話してください。」

お兄ちゃんは携帯電話をこちらにスライドさせた。

私はそれを受け取り、電話を口許に近づけた。

「もしもし。」

『君は…誰だい?横谷君じゃぁないね。女性だ。」

「泉 文則の妹、泉由香です。」

『…!?……そうか、君か。話には聞いていたんだがね。そうか。』

「兄は、文則は、ここにいるのは文則ではないのですか?」

『…そこにいるのは、探偵の横谷ヨコタニ君だ。』

「…どういうことですか。彼は私の兄に間違いない。声も。顔も。」

『君は、カルマと言うのを知っているかい?』

「カルマ…?……業、ですか?」

『英訳では、そうとも言うね。』

「カルマとは何なのですか?」

『昔、ある国で劇薬が開発された。その劇薬は、飲んだ人に、人外の力を与えた。それがカルマだ。』

「………。」

『彼のカルマは自分の姿を誰かに似せられるカルマ。』

「そんなこと…ひ、非常識です!ありえるわけがない!」

「それがあり得るんだよ。」

先ほどまでそこにいたお兄ちゃんは居ない。そこには全く知らない顔の男がいた。

「この場所、上下田ならな。」

カミシモ…。」

『君のお兄さんはある犯罪集団を追っている間に失踪したんだよ。私は彼と親友だった。彼はよく無茶な捜査をしていた。』

「兄は…兄は何をしていたのですか。何の仕事をしていたのですか。」

『警察の、公安の仕事さ。』

「私と……同じ…。」

『君は努力家らしいね。君のお兄さんは…文則はよく君の話をしていたよ。』

「あなたは…」

公安上下田対策第七班班長コウアンカミシモダタイサクダイナナハンハンチョウ深津フカヅだ。』

「深津…さん。」



2218/4/24

「いやぁ、まさかこんなところからお呼ばれがかかるなんてね。」

星野はクックッと笑った。

「君はこんなところでよかったのかね。」

「はい。お呼びがかけられて光栄です。」

「では、失礼します。」

私は扉を閉めた。

閉めた扉の内から声が聞こえるが、どうせ嫌味だ無視して行こう。

私の進むべき道は、決まっている。

「泉 由香、公安第七班配属…か。」

「アンタ、なんであの子を止めなかったのさ。」

「そうっすよ。止めればよかったのに。」

「これ以上、あのフカヅとか言う子を暴れさせるつもりなのかい?」

「深津は良いものに目を付けた。泉 由香…。鬼が出るか蛇が出るか。」

「どっちもアンタの好きなものじゃないっすか。」

星野はクッと



プロローグ 泉 由香 end

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