第2話 まさかの勇者誕生!?

「……な、何だ今のは……っ!?」


「ディ、ディラン様……!」


「……」


 やっと思い出した。「違和感」の正体はこれね。

 わたしには前世がある。その記憶が、この剣を引き抜いたせいで全て思い出した。


 先程までは記憶を完全には思い出していなかった。だから2つの意識があるような感覚がおぼろげにあり、特に前世があるという自覚もなかった。全てを思い出した今、その意識は自然と1つになった。今のわたしは前世と今世が混ざっている。


 そして、今世の自分が誰なのかも。今、何が起こったのかも。全てを、思い出した。


「さあ……」


「っ!」


 わたしが少し動くだけで怯える人々。誰もが私から離れていく。その反応も、当然ね。


「はっ!」


 剣を思いっきり振る。周りには誰もいないので、空振りだ。だが、空振りでは終わらない。


「「「うわああああ!」」」


 たったそれだけで、全員が吹っ飛んでしまった。……知ってはいたけど、凄い。これが、魔力波?


「これは一体何事だ!」


 閉じられていた会場の扉が開き、力強い声が響いた。国王陛下だ。


「申し訳ありません、陛下。わたしのせいなのです」


 現れた陛下はこの惨状に呆然としていた。この卒業パーティには国王陛下も参加されるのだ。

 立っていた人も、全員がひざまずいた。


「何があったのだ、カミラ。……お、お主、その剣は!」


「はい。聖剣でございます」


 わたしは嘘偽りなく陛下に申し上げた。

 わたしが抜いてしまった剣は聖剣だ。勇者だけが抜き、持つことができる剣。

 今日は重大な日、というのはこの勇者を探すためでもあるから。


 でも、わたしがこの剣を抜くことができるのも変ね。勇者というのは全員が男性。

 この世界は実は乙女ゲームの世界。この聖剣を抜くことができるのはそのルートの攻略キャラ、つまり聖女と最も好感度が高いキャラのみが抜ける。その上、歴代の勇者も全員が男性。


 一方のわたしだけど……性別は女性。当然、前世も女性。聖女との好感度? 最悪でしょう。

 だが、この乙女ゲームの悪役令嬢であるカミラとは違って、わたしは嫌がらせを全くしてない。それなのにも関わらず、一方的に嫌われている。

 そもそも、好感度が高いのであればこんなことはしないはず。


「実は、殿下に婚約破棄を言い渡されまして……」


「何だと!?」


 陛下は殿下を睨みつけた。流石、王家の血筋。魔力が多いおかげで、わたしの、正確には勇者のあの魔力波に対しても意識を失わずに済んだようね。残念ながら、立つことはできないようだけど。


 殿下は怯えた目でこちらを見ていた。


「身に覚えのない罪を言いつけられ、更にはその噂を広められ、みながそれを信じてしまったのです。それを理由に婚約破棄を……殿下のご命令で強引に捕らえられそうになり、自己防衛のために剣を引き抜いたところ、それが聖剣だったのです」


「……例の噂か」


「ご存知でしたか」


 当然と言えば当然ね。次期国王となられる殿下の婚約者に悪行など、あってはならないこと。学園中で噂になっていたのであれば、陛下のお耳にも入るでしょう。


「あれは根も葉もない噂ではないか。それを流したのは、お前達だな?」


「ね、根も葉もない噂ではございません! 真実でございます、父上!」


「聖女の話だけを信じ、自分の婚約者の話など耳も傾けていなかっただろう! 故意であるかどうかは別として、それのどこが真実だと言うのだ!」


 陛下は顔を真っ赤にして、大変お怒りね。

 一方で、一気に青ざめていく殿下。やっと自分が何をしたのか、少しは自覚したかな?


 無実の罪で公爵令嬢との婚約破棄を勝手に宣言した上に、その公爵令嬢は魔王から世界を救うための勇者だったのだから。

 たとえ無実ではなかったとしても、報告も相談もせず殿下側で勝手に進めていた。許されるわけがない。


「で、ですが父上! この目でカミラは本当に聖女に対して非道な行いを——」


「お前は国を、いや、世界を滅ぼす気か! なんと軽率な行いをしたのだ! お前達には重罰を与える!」


「父上!」


「お前に『父上』などと言われたくもないわ!」


 殿下はそれ以上、何も言えなかった。何故なら、陛下のお言葉は息子だと認めないということ。絶縁宣言のそれに近いものだから。


 公爵令嬢と勝手に婚約破棄というだけでも内乱の可能性がある。その上、勇者。

 聖女だけではどう足掻いても魔王には対抗できない。聖女は魔王が放つ呪いなどを浄化できる。しかし、そのような後方支援ばかりで攻撃手段はない。だから、対抗できる勇者が必要なのに。


「な、なんだこの音は!」


 突然、どこからか轟音が聞こえた。

 その音を聞いて、次に何が起こるかを察した。この音は聞き覚えがある。


「陛下、わたしの後ろに!」


 この後、更なるイベントが発生する。勇者が現れた瞬間、それを倒そうとする奴が。

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