第73話

明のLINEメッセージで、すっ飛んできた白田。

自分よりも明の初めてを奪う鷹頭に、嫉妬がメラメラ燃える。



73



愛野宅



『鷹頭が家にいるから。一応、報告な』


そんなLINEが明から入り、通っていたスポーツジムから白田はすっ飛んで来た。

タクシーを下り、すぐに明の家のドアベルを鳴らす。


一体・・・何故、鷹頭が・・・・


移動中ずっと、その事を考えていた。

そしてLINEに添付されていた画像。

カメラ目線で写っている鷹頭の背景は、明の部屋。

もうそれだけで、嫉妬の炎がメラメラと燃え上がる。

だがその鷹頭も、流石に愛野宅から撤退しているだろう。

ここに来るまで、途中渋滞に巻き込まれ1時間近く経っている。

それでも、居ても立っても居られなかった・・・・明がわざわざLINEで報告するのだから、後ろめたい事はないと解っていたが。


「あれ、白田君」


玄関の扉を開けて現れたのは、太郎だった。


「こんばんは、太郎さん。明はご在宅でしょうか?」


気持ちは呼び鈴も鳴らさずに、ドカドカと家に上がり込みたい。

焦れったく感じるが、ここは社会人として訪問のマナーを守る。 


「あぁ、今ご飯食べてるんだよ。中にどうぞ」


「すみません、夕飯時に来てしまって。お邪魔します」


軽くペコリと頭を下げる白田。

太郎に促されるまま、玄関の扉をくぐる。


「いいよいいよ。あっもうご飯食べたのかな?」


「いえ・・・」


「なら食べるかい?カレーだから、沢山あるんだよ」


「それじゃ、お言葉に甘えさせていただきます」


「うんうん。明は居間にいるからね」


太郎はそう言うと、そのまま真っすぐ台所の方へと向かっていった。

スリッパに履き替えた白田は、そのまま居間の方へと足を向ける。

そして開きっぱなしの扉から、中を覗くと


鷹頭がいた・・・・


明と向き合う様に座りカレーを食べている彼は、廊下に立っている男に気がつくと手を止めてピシリと固まる。


「鷹頭・・・お前っ」


スリッパ毎ドカドカと畳の上を歩く白田。

そのまま鷹頭の頭をワシ掴みにして、「どう言うつもりだ!」と怒鳴る。


「白田・・・ちょっと落ち着け。親父も居るんだし」


何事もないかのように、カレーを食べている明。


「だけどっ。明の部屋に入って、ご飯まで!?」


「後で話すから、とにかく座れ」


明はそう言うと、自分の隣をポンポンと叩く。

異様に落ち着いている彼に、どこか納得出来ない白田。

太郎もいつ戻ってくるか解らず、仕方がない様子で白田は明の隣へと移動すると荷物を置いて腰を下ろす。


「家じゃなかったのか?」


未だスーツ姿の白田に、明は首をかしげる。


「今日はジムに行ってたんだ」


そうテーブルを挟んだ向こうに居る、鷹頭に強い視線を向けたまま答える。


「チッ」


隣から聞こえる舌打ち。

そして白田の顎を掴む明の手、強制的に顔の向きを変えられる。

絡む明との視線。


「親父居るんだぞ、もっと自然にしろ。ピヨ山の同期が、相談に来たって事になってるからな」


「・・・・解った。だけど鷹頭が夕飯まで「親父に見つかって、流れでそうなったんだよ」・・・・そう」


「わざわざ来るとは思わなかった・・・・てっきり電話掛けてくるんじゃないかと思ってたけど、反応なかったし」


「それはっビックリしすぎて・・・・」


明の言葉で、端から電話を掛ける選択肢が無かったと気付いた。

それほど仰天し、気が動転してしまった。

ジムのインストラクターの前で明のLINEを見てしまい、何か変な事を口走ったような気もする・・・・・


「はいはい、お待たせ〜〜。野菜が大きいけど、一口で食べれないサイズはスプーンで崩して食べてね」


「あ?それオレへの当てつけか?」


「違うよぉ〜、野菜ゴロゴロカレー美味しいよ」


「有難う御座います」


お皿に盛られたカレーと、サラダが盛られた小鉢が太郎の手によって白田の前に置かれる。


「そんなにデカイデカイ言うなら、今度ミキサーで全部粉々にしてやるよ・・・」


「え・・・明が作ったの?」


「んっ」


カレーを頬張る明はコクンと頷いた。

確かに太郎の言う通り、カレーの中の野菜と肉は・・・・・どデカイ。

じゃがいもに関しては、半分切っただけにも見える。

主役の筈のカレーが、カレー味の野菜煮込みみたいな感じになっている。


「昨日から仕込んでるから、具は柔らかいからね」


「はい。いただきます」


合掌して、さっそくスプーンを手にする。

明の手作りカレー。

これだけで今日ここに来て良かったと思ってしまう。


「!?」


だが白田はスプーンでカレーを掬った時に気付いてしまった。

俺より先に、鷹頭が食べるなんて・・・・・・

そして意識のない明を運ぶために彼の部屋に入った白田と、明の意思で自室に招かれた鷹頭との差も大きい。

カレーを一口も食べず、落ち込みモードになってしまった白田。

やっと恋人になれて、これから明との初めてを沢山体験しようと意気込んでいたのに・・・・鷹頭の存在に出だしを挫かれた。


「あの〜〜お代わりいいですか?」


そして図々しくもお代わりの要求する鷹頭。

思わず殺気の篭もった目を向ける白田。

その視線に青年はビクリとし体を小さくさせるも、「若い子は沢山食べないとね〜」と嬉しそうな太郎は彼のお皿を受け取る。

なにげに太郎の高感度も上がっているようで、何とも腹立たしい。


「もうさっさと食えよ」


いつまでもスプーンを口に運ばない白田に、呆れ顔の明。

明のカレーの三杯目は俺が貰う!と白田の中で勝手な競争心が芽生えてしまった。



74へ続く

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