第39話
フスカルにて【チョコミント応援団】の緊急会議が行われていた。
そこで雛山は、明の過去を知ることになる。
※シリアス展開な為、オマケつけてます。
39
フスカル
「えぇ!鷹頭ってそんな奴だったの!?」
フスカルの中で響く女性の声。
BOXの四人席に居る由美に、店内の常連客は皆興味津々だ。
本日はバイト生が居ない、雅だけの日。
男ばかりの店内に、たった一人女性の姿。
つい10分程前に桃と雛山と一緒に現れた彼女は、かなりのテンションの高さで客達は目が点。
女性入店禁止ではないが、古びたビルの6階にあるゲイバーに一見で女性が入ってくる事は無い。
フスカル初の女性客が、由美だと言う事になるが・・・・
どうやらただ酒を飲みに来た訳ではなさそうだった。
BOX席の一角で桃と雛山と三人で顔を見合わせ、込み入った話をしている。
雅はそんな三人を、呆れた顔で遠巻きに見ていた。
「許せない!いい?雛山君、今度何か言われたら私に言いなさいよ。頭ひっぱたいてやるから」
雛山が虐められていた事を初めて知った由美は、本当に頭にきているようで目が血走っている。
そんな彼女の様子に、雛山は嬉しくも恥ずかしそうに「はい」と返事を返す。
「けど何でその鷹頭が、愛野君に交際申し込むのよ。彼もゲイだったって事?」
「そうじゃないとは思いますけど」
「いや、案外そうかもしれないわよ。過剰に反応してピヨちゃん虐めてたのも、同族嫌悪ってやつかも。まぁ私の勝手な想像だけどね」
「けどそれなら、明さんと白田さんにも同じ様な反応しませんか?」
「ピヨちゃん・・・酷いこと言うようだけど、ピヨちゃんがひよこだとしたら、あの2人は孔雀と鶴よ。喧嘩売るならどっちに売るか・・・解るわよね」
「はい・・・身の程を知らず、すみませんでした」
「で話の続きだけど、彼(雅)から聞いた話だと。ピヨちゃんが虐められている現場に、明ちゃんと白ちゃんが現れて。鷹頭君の初キッスを明ちゃんが奪ったのよね」
「うそ・・・えっ・・・あぁ、そういう事ね意図は解ったわ」
由美は驚いて目を見開くが、鷹頭に対して暴力じゃなく辱めた明の狙いを察した。
「それで明ちゃんのキステクにメロメロになって、交際してくださいっ!ってなったと」
「白田さんが明さんと付き合ってるから、諦めろって鷹頭君に言ったんです。それで諦めたと思ってたんですけど・・・あの写真を送ってきて、本当に白田さんと付き合ってるのかって疑ってて」
そこで「何の写真?」と言う桃に、雛山は鷹頭から送られてきた隠し撮り写真の画像を見せる。
「彼女、誰?」
「愛野君の幼馴染です」
「あぁ、日富美ちゃんって子ね。話では聞いてたけど・・・ねるほどね、確かにただの幼馴染には見えないわね」
「明さんって・・・日富美さんの事、本当は好きとかじゃないんですか?」
「とても大切に思ってるけど、恋愛感情は無いの・・・なんていうか〜〜〜家族・・・・妹・・」
「依存よ」
明が日富美に対する気持ちを、どう表現していいか解らない由美。
それを桃が上から被せる。
「依存ですか?」
「ある事件があって弱った明ちゃんの側に、ずっと付き添って支えてくれてたのよ彼女。立ち直った今でも、彼女が居ないと不安になっちゃうんじゃないかしら。元の自分に戻るんじゃないって・・・」
「事件って何ですか?」
「そうね・・・・ピヨちゃんは知らないもの。由美ちゃんは何処まで知ってるの?」
「私は、彼が集団面接で話したのを横で聞いてただけです。仲良くなってからも、悲惨な事件だったから・・・あまり触れない方がいいと思って私からは何も訊いてません」
「まぁ私は彼から聞いたんだけど・・・流石に又聞きの話を暴露するのはね。だけど沢山の人の前で明ちゃんが口にした内容なら、ピヨちゃんに話しても大丈夫じゃないかしら」
2人の話から、そう軽い話ではない事を察した雛山。
由美の真剣な表情に、雛山はゴクリと息を呑み彼女の言葉を待つ。
「もう10年程前の事件よ、私と同じ年の子が被害者だったから覚えてるわ・・・。男子高校生5人が、近くの女子校の女の子を拉致して・・・集団でレイプした事件よ」
説明する由美の声は暗く、表情も硬い。
雛山も思った以上に、惨たる事件に顔を顰める。
「愛野君といつも一緒に居た友人達が起こしたの。主犯格は愛野君とされ、身柄を拘束され少年房へと入れられた。その後アリバイを証明する人が現れたから、愛野君は釈放されたわ。勿論愛野君は、やってない。事件時刻は既に仲間たちと別れて、別行動してたらしいの」
「そんな事が・・・・」
雛山は許容範囲を超えている話の内容に、それしか言葉が出てこない。
ニュースで知るだけと、身近な人が体験した事とは全くの別物。
被害者の顔も名前も解らないのに、胸が苦しくなる。
そして明も10代にして友人達が起こした事件に巻き込まれた事を想像すれば、不憫すぎて悲しみが込み上げてくる。
「そして面接の時、彼はこうも言ってた。釈放された時、太郎さんが外で泣きながら物凄い笑顔で待っててくれたの。愛野君が捕まっていた間、無実だって毎日毎日警察署に訴えに行ってたみたい、殆ど家に帰ってなかった愛野君は、息子を心配するあまり髪も抜け落ちて一気に老け込んだお父さんを見て、生まれてはじめて今までの自分を反省したんだって」
小学校の入学式の写真から、20年経った太郎の姿。
異様な老け込みなのは、そういう事だったのかと雛山は納得する。
そして太郎の懐の暖かさや、気が弱そうで明を思う気持ちに胸が熱くなる。
「そしてフローラは7年前に男性化粧品を取り扱い出し、男性用育毛剤の研究も始まってた。明君は自分のせいで剥げたお父さんの毛根を復活させてやりたいって、フローラに就職志願したのよ」
「それ笑っていいのか、悲しんでいいのか・・・」
最後の下りは笑いを誘うモノだったが、明にしてみれば大真面目でフローラに就職を希望したのだろう。
今まで苦労を掛けた分、これから精一杯親孝行しようと言う決意の表れに感じる。
そして雛山は、事件の事で気になっている事が1つあった。
「その〜〜被害者の女性って・・・どうなったんですか?」
「確か、発見者がいて命に別条はないって報道されてたと思う。何せその後被せるように大きな事件が起きたから、報道がそっちに流れちゃって・・・」
「それじゃ、無事だったんですね。良かった」
こういう事件は発覚を恐れて、女性の命を奪うケースが多い。
雛山は最悪な事を想像していたが、無事に生きている事にホッと胸を撫で下ろす。
「・・・・・・・・・」
だが桃は黙ったまま、悲しそうな表情で俯いている。
「だけど・・・明さん、事件後にお父さんの為にも立ち直ろうとしたんですよね。そこに日富美さんが・・・?」
自分の行いを反省し父親の為に前に進もうと自ら前向きになったと、今の話の流れだとそう感じ取れる。
ただ話を端折っているのか、それともまだこの後に何かあるのか・・・・・釈然としない表情で雛山は首を傾げる。
「由美ちゃんが知ってるのは、明ちゃんが釈放されたところまでなのね」
「えぇそうです。・・・その後も何かあったんですか?」
「事件の事は調べれば解ると思うけど・・・・・ごめんなさい、やっぱり私からは話せないわ」
桃が話せないほど、重く闇が深い話。
雛山は少しだけ明の過去に触れたのに、嬉しさなど全く感じなかった。
知らなければ良かったと思う反面、どうか今が幸せであってほしいと心から願う事しかできない。
「さて、この話はもう終わりましょ!今はその鷹頭君の事よ。日富美ちゃんと明ちゃんが、恋人同士じゃないって事を証明しなくちゃならないでしょ?」
何とか今までの重い雰囲気を取り払おうと、桃はわざと明るい口調で話し始める。
「そうよ!そうそう。けどどうやって?わざわざ、日富美とその鷹頭を会わせるとか・・・出来ないわよね。会社も違えば、部所も全く接点ないし」
由美も話の問題を思い出したかの様に口を開き、その場の空気を変えようと桃と同じ口調で話す。
そんな2人に雛山も「ふぅ〜〜」と一呼吸置き、3人揃って「ん〜〜〜あ〜〜〜」と唸りながら頭を悩ます。
そんな時、雛山はある行事を思いだし「あぁァァ!!そうだ!!!」とソファから勢いよく立ち上がる。
近くに座っていた2人の視線もそうだが、あまりの大きな声に店内の客の視線も集めてしまう。
「今週の日曜日!今週の日曜日ですよ!!!」
そんな視線など全く気にならないほど、雛山はいいアイデアを思いついたとばかりにテンションはマックスになっていた。
40へ続く
今回も重くなってしまったので、ほんのちょっとのオマケです。
↓
↓
『その時、白田仁は!?』
シャワーを浴び終えて、改めて以前と変化が出ている自分の肉体をマジマジと鏡で見た。
ストイックに生活していた成果が表れた事が嬉しくて、思わず上半身裸で自撮り。
それを明がどう反応してくれるか期待大で、送ろうとした。
だが自分の中のまともな部分が、「引かれるから止めろ」と制止する。
もうそこからは頭の中で、送る送らないの葛藤が始まった。
裸で髪も乾かさず、ずっとスマホとにらめっこ状態。
無駄な時間が過ぎていき「白田さん30分経ちましたよ」とトレーナーが呼びに来た声で、我に返った。
「すぐ出ます!」と慌てて服を着始める。
そして「どうせなら完成形を見てもらおう」と言葉にして呟くと、ニヤニヤが止まらなくなった。
カッコいいって言ってくれるかな・・・・
それとも見惚れちゃったりして・・・・
自惚れの自分ばかりが先行し、さっきまで頭の中でまともな事を主張していた白田は消え去った。
はたして、白田の完成形の裸を見せつけられた明は、一体どんな反応をするのだろうか・・・
【完】
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