第18話「あっさり入学できたのには理由があったらしい」
ミゲルの自己紹介にクロエは怪訝そうにしたものの、他の生徒は特に何も感じなかったようだ。
「じゃああいてる席に座って」
そのことに彼は安心して、フィアナに言われるがままあいてる一番後ろの廊下側の席に腰を下ろす。
隣は空白で、前に男子生徒という位置だ。
(まあ横が五列で縦に四人って並びだったら、こうなるよな)
と彼は思う。
フィアナの指示はどの列の最後尾がいいか選べという意味だということだろうと解釈する。
「新しい仲間が増えたけど、授業の進みに変わりはないわ。ミゲルくん、がんばって追いついてきてね」
「はい」
とミゲルは返事をした。
(最高峰アカデミーだけに、転入生や遅れている人間への配慮ないってことか)
それもまたカッコイイなと彼は思う。
さっそく授業がはじまったところで、ミゲルは気づいた。
(やばい、魔法以外がやばい)
魔法理論はよくわかるし、一般教養もまだ何とかなる。
だが、それ以外がきつかった。
「何で魔法アカデミーなのに、歴史と数学があるんだよ……」
昼休み、彼はぐったりと机の上に突っ伏して弱音を吐く。
魔法の暗記と詠唱なら丸一日やっても平気な彼だったが、普通の勉強は十分で限界が来てしまうのだった。
「歴史は知っておいたほうがいいし、数学を知っておくと魔法演算にも有効らしいよ?」
様子を見に来たらしいクロエが説明してくれるが、何のなぐさめにもならない。
「知らなくても俺、魔法使えるのに」
ミゲルはささやかに抗議してみる。
「ミゲルくん、転入生だよね? 次の定期テストしだいでは退学かもよ?」
クロエの心配そうな声に彼は愕然とした。
「え、まじで?」
「誰かの推薦だけで入ってきたパターンは、結果次第ですぐに退学。だから比較的入る難易度は低いんだよ」
「知らなかった……道理であっさり入れたわけだ」
ミゲルは思わず納得してしまうが、一気に不安が高まって頭をかかる。
「うーん……」
クロエはうなってすこし迷ったが、すぐにニコリとした。
「それなら手がないわけじゃないよ」
「え、何か方法があるのか?」
彼女の言い方にミゲルは希望を見いだす。
「魔法実技で圧倒的にいい結果を出せば、特別生あつかいになって他の成績が悪くても免除される制度があるの」
「そんな神みたいな制度があるんだ!?」
クロエの説明にミゲルは立ちあがって、猛烈に食いつく。
「う、うん。あくまでも優秀な魔法使いを育てるのが目的だから、魔法使いとして優秀ならいいかなって理由みたい」
彼の剣幕にたじろいた彼女は後ずさりをする。
「『圧倒的』じゃないとダメって話だよ。たしょうの差での特別あつかいは不公平だって」
とクロエは言った。
「そりゃそうだよな……圧倒的ってどれくらいなんだ?」
ミゲルは納得して席に座り、腕組みをしながら考え込む。
「ええっと」
クロエも釣られて考えはじめたとき、彼の前の席の男子が立ち上がって話しかけてくる。
「おい転入生、新入りのくせにイキがってんじゃねえぞ」
彼は逆立てた赤髪と爬虫類のような鋭い金色の目が印象的だった。
「Eクラスに配属される奴なんてのは、例外なく落ちこぼれなんだ。てめえごときが特別生になれるなんざ、ただの思い上がりなんだよ!」
彼はシャーシャーとかん高い威嚇音を出す。
蜥蜴人が怒っているときの動作に、クロエは顔をしかめる。
「単に制度を説明しただけじゃん。そんな怒ることじゃないでしょう」
「横から入ってきたあげく、いきなり因縁をつけてくるってこの男もコミュ障っぽいよな。魔法使いなら普通なの?」
ミゲルは興味がこもった目で、蜥蜴人の男子生徒を見つめた。
「て、てめえ、上等だ! 決闘しやがれ!」
興奮した蜥蜴人の皮膚が桃色に染まる。
「お、決闘? つまり君の魔法を見せてもらえるってことかな?」
決闘という部分にミゲルは勢いよく食いつき、一気に蜥蜴人との距離を詰めた。
「な、何だてめえは!?」
蜥蜴人は意表を突かれ気勢を削がれたが、周囲の視線に気づいて再び闘志を燃やしてミゲルをにらむ。
「魔法の決闘ならやるよ。ぜひやろう。いますぐやろう」
ミゲルはおかまいなしにまくし立て、クロエは「あちゃー」と頭を抱える。
「な、何だこいつ……」
蜥蜴人の男子は今度こそ引いてしまった。
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