第6話「地下室で修行ってカッコイイ」
「ついてきてくれ」
と言われたミゲルが父のあとについていくと、書斎へとやってきた。
怪訝そうにする彼をよそに父は机の前の床に手を伸ばす。
ゴトンという低い音が聞こえると床が外れて地下へ続く階段が現れる。
「すごい! 地下の部屋!?」
秘密基地みたいでカッコイイとミゲルは興奮で目を輝かす。
「ああ。ついておいで」
父はそう言って先に地下の階段を降りていく。
うす暗くて歩きにくいが、何とか彼もその背中のあとに続いた。
地下には庭よりも広いスペースが広がっている。
(ここでならスリーオンスリーじゃなくて、普通にバスケもできそうだな)
とミゲルは感心した。
「わぁ、すごい」
「喜んでくれてうれしいぞ」
父は言うとランプに明かりをともす。
「実のところ、この地下室を作ったせいでローンの支払いが……こほん」
言いかけたことを中断して咳払いをする。
事情を打ち明けようとしたわけではなく、単に口をすべらせただけらしい。
ミゲルは父の表情からそう推測し、聞かなかったことにする。
「ここでなら自由に修行していいぞ! ただし、ちゃんと休憩を入れろよ。お前はまだ小さいんだから」
と父は言う。
「うん、ありがとう、父さん!」
ミゲルは大喜びで周囲を飛び跳ねてから父に抱きつく。
そして何度も礼を言った。
「喜んでもらえたら何よりだ」
父は満足そうな顔で息子を抱きとめて答える。
「大丈夫だと思うが、あんまり魔法を当てるなよ? しょせんうちの家計で作ったものだから、強度には不安が」
「う、うん。家が壊れたら困るもんね」
ちょっと情けない顔をした父の頼みごとにミゲルはうなずいた。
(そんなことないと思うが……どうやらいまのところ俺は優秀なみたいだから、一応気を付けておくか)
と内心考える。
規格外の実力ながら自覚していない主人公のアニメも、彼は好きだった。
だから「うっかり」でどんな事件が起こるのか、イメージはできる。
それにアルンドと呼ばれて悪者に狙われやすくなることは知らなかった。
「じゃあ父さんは仕事に戻るよ」
と言って父は出ていき、あとには彼だけが残される。
「異世界には異世界なりの危険があるってことだもんな。まあそりゃそうだし、仕方ないよな」
書斎を閉める音が聞こえたところで彼はぼそっとつぶやく。
彼の物わかりの良さは両親からすればありがたくも奇妙で、とても年相応とは思われないのだが、本人はまったく自覚がなかった。
「それにしても」
彼はもう一度地下室を見回す。
「地下室で秘密の修行って、これカッコイイシチュエーションじゃないか!?」
そして目を輝かせて叫ぶ。
父の手前ぐっと我慢していた喜びを、ひとりになったことで爆発させる。
「隠していればいいんだったら、もっといろいろと練習もできるよな!」
興奮を抑えられず、彼は早口にまくし立てた。
父の言ったことの意味をしっかり吟味していない。
「まずは七位階と六位階を全部覚えて、それから五位階魔法にも挑戦してみようかな」
今後のプランを簡単に立てる。
六位階を習得することは可能だとわかったのだから、七位階の習得に戻ってもいい。
彼の目的は強くなることではなく、上の位階の魔法を覚えることでもなかった。
「他の魔法を全部覚えてないと覚えられない魔法だってあるかもしれないしな!」
彼が思い描いたのはとある作品に登場する魔法だが、こちらの世界にないとは言い切れないと考える。
「えーと、じゃあまずは闇属性からやっていこうかな」
何となくだが闇との相性がいい感覚を彼は持っていた。
「まあ一番カッコイイ気がするからだけど」
彼は前世の日本で言うところの「中二病」だし、卒業する気はまったくない。
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