第41話 似た者同士?
「暇だ……」
友達って何なんだろう。
連れを一人残してナンパに出掛けるようなクソ野郎を果たして友達と呼べるのだろうか。
俺のもとから旅立った翔助を見送り、俺は一人となった。
臨海学校、二日目の昼は海水浴だった。特に指定も縛りもないシンプルな遊びである。
もちろん、度が過ぎた行動は罰せられるだろうけど、ここまできてそんなバカなことをするやつはいないだろう。
「他のグループに入れてもらうのもなんか違うしな。こんなことなら翔助以外にもコミュニティを作っておくんだった」
ナンパに一緒に行こうと誘われはしたけど、そこでよし行くかとなるほどの度胸は持ち合わせていない。
ていうか、あいつ意中の相手いるんじゃねえのかよ。
ぼーっと座っていても何もないので、暇つぶしがてら散歩することにした。
海できゃっきゃっとはしゃぐ人達を見ていると胸の辺りがモヤモヤするしな。これがあれか、嫉妬ってやつか。
「あの、通してくださいっ」
海の家に行けば美味しいものがあるかもしれないと思い寄ろうとすると、聞き覚えのある声が、聞いたことあるようなセリフを吐いていた。
「……あいつ」
逢坂紗月がまたしてもナンパまがいに男に声をかけられていた。
見た目だけはいいから、男に目をつけられやすいのだろう。紗月をある程度知ってる奴なら男嫌いだと分かっているから大丈夫だが、知らない相手は普通に声かけてくるもんな。
翔助といい、こんなときくらい身内で楽しめよな。
「あ」
助けてやろうか、と考えていると紗月が先にこちらに気づいた。断りながら、何かないかとずっと周りを気にしていたのだろう。
「すいません。わたしはあの人と約束があるので!」
ビシッと俺の方を指差しながら紗月が大きな声を出す。すると紗月を囲っていた男二人は後ろの俺を振り返る。
偏見だと言われるとそれまでだけど、二人ともナンパしそうなチャラさを備えた容姿だった。
金に染められた髪、なぜか長い髪、サラサラの髪。俺はどうにもあの類の男は好きになれない。
もう一人は短髪黒髪。筋肉質なので何かの部活に入っている可能性がある。ケンカになれば間違いなく負ける自信がある。
「なので!」
紗月は無理やりに二人の間を割って抜けて、俺の隣に駆け寄ってくる。
「ごめんなさい」
そして、ぺこりと頭を下げる。男嫌いと豪語しながらも、非情にはなりきれない。それが紗月の悪いところであり、ある意味良いところなのかもしれない。
「チッ。彼氏連れかよ」
「冴えねえ男。こりゃ女の方も知れてんな」
案の定の捨て台詞を吐きながら、男二人は歩いて行ってしまった。よかった、ケンカとかにならなくて。
「助かりました」
「いや、俺は別に何もしてないけど」
謙遜とかじゃなくて、まじで何もしていないのだから、本当に礼を言われることはない。
「通りがかってくれただけで助かりました。しつこくて困っていたので」
「もっとキツく言い返せばいいだろ」
「……あの人達が本気で襲いかかってきたら、わたしは何の抵抗もできないじゃないですか」
そう言って紗月は表情を翳らせた。
だから、あまり強くも言えなかったということか。俺でもあのタイプの男は怖いのだ、紗月が怖くないはずはないよな。
「ところで」
切り替えたのか、俺の顔を見上げたときにはさっきのような暗さはなかった。
そこで改めて紗月の全身が視界に入る。どんな水着を着ているのかは分からないくらいに大きな水色のラッシュガードを着ている。
太もも辺りまで裾があるので全て隠れているのだ。
そして、長い髪はポニーテールでまとめている。
「あなたはなぜ一人なのですか? 鳴子くんは?」
「翔助は今もどこかで戦いを繰り広げているだろうな」
「……何のですか」
ナンパ、とは言わないでおいてやる。そんなことをしていると知れば紗月の評価が下がるやもしれんからな。
「お前こそ、三船と一緒じゃないのか?」
「凛花はどこぞのイケメンにふらふらとついて行ってしまいましたよ。今どこで何をしているのかは知りません」
「へえ」
ああ、そういうことか。
俺の前で「ナンパ行くぜい!」と宣言した翔助はどこかヤケクソのように見えた。あれが大人ならやけ酒とかに走るんだろうなとか思ってたけど、三船がイケメンと歩いているところでも目撃してしまったのだろう。
翔助、ドンマイ。
「で、一人なのか」
「そんなところです。凛花以外に仲のいい友達はいませんし。ですが、そういうあなたも一人のように見えますが?」
「まあ、翔助以外に仲のいい友達いないからな」
言い返すように言ってみると、紗月がくすりと笑う。俺の前で笑うことが今までなかったような気がする。
彼女の放つ雰囲気がどこか柔らかくなったように思えるのは、恐らく気のせいではないだろう。
「お互い苦労しますね。なら、少し付き合ってください」
「え?」
まさかの言葉に俺は驚きの声を漏らす。
「あなたでもナンパ避けくらいにはなるでしょうし」
「……どこかで聞いたことあるようなセリフだなそれ」
あれはゴールデンウィークだったか。商店街で男に絡まれていた紗月を助けた後に同じようなことを言われたのだ。
「そうでしたか?」
にやっと目を細めながら言うが、それは覚えている奴がする顔だぞ。
「で、どうですか? 忙しいなら仕方ないですが、あそこで何か奢るくらいはしてもいいですよ」
言って、紗月は海の家を指差す。
「予定はないし、何なら海の家には行こうとしてたしな。奢ってもらえるなら喜んでお供するよ」
まさかこんなことになるとは思ってもなかったけど、こういう過ごし方もまあ悪くはないな。
そんなことを思いながら、先を歩く紗月についていく俺だった。
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