第39話 肝試し


 お風呂の時間を終え、食事を済ますと残す最後のイベントが待っていた。

 肝試し、である。

 高校生にもなって肝試しなんてどうなんだとも思うけど、ゲームとかでも鉄板のネタ故バカにはできない。

 とはいえ、全クラスを同時に行うと人の数が凄いことになるので今夜と明日の夜で半分に分け、さらに一クラスこどに時間で分けるようだ。

 そして、ようやく俺達のクラスの順番になったので、翔助と共に集合場所へと向かった。


「くじ引き?」


 集合場所に到着するや否や、クラス委員長が箱を差し出してくる。どうやら男女ペアで参加するらしいのでそのペア作りのためのものだろう。


「そー、早く引いてくれ」


 俺も翔助もさっと引き終わる。くじ引きなんて気合いどうこうで変わりはしない。

 そもそも、望ましい相手だって別にいないのだし。


「……」


「どうした?」


 翔助がえらく落ち込んだ様子でくじ引きの結果を見ていた。


「おい悠一、お前何番だ?」


「え、七番だけど」


「チッ、ちょっと待ってろ」


 言って、翔助は走ってどこかへ行ってしまう。一人になってしまった俺は相手でも探そうかと思ったが、翔助に待てと言われていたので待つことにした。


「やっほ、間宮。何番だった?」


 ぼーっと待っていると誰かに肩を叩かれた。振り返るとその正体は三船だった。

 さすがに浴衣のまま肝試しに参加することはないようで、薄いロンTとジャージに着替えていた。

 

「え、ああ。七番。お前は?」


「二番」


「そう簡単に同じペアにはなんないな」


 特別誰がいいとか、そういうのはないけどどうせ二人ペアで移動するのから見知った相手の方がいい。

 喋らない女子と二人は気まずいしな。


「ほんとにね。残念だよ」


「三船の相手は誰なんだ?」


「んー、それがまだ見つかってなくて。間宮かなーと思って声掛けたんだ」


「そっか」


「うん。というわけで、あたしは運命の相手を探すための旅に出るよ」


「おー、頑張れよ」


 何を頑張るのかは分からないけど、とりあえず適当に言って見送る。その後、程なくして翔助が帰還する。


「おかえり」


「おい悠一。七番を寄越せ」


「え、なんで」


「いいから寄越せって。悪いようにはしないから」


「……まあ別にいいけど」


 何を企んでいるのかは知らないが、あまりにも真剣な顔をしているものだからそれに負けて俺は紙を差し出す。


「運命ってのはな、確かに決められたもんなのかもしれねえ。でもよ、抗えば未来は変わるんだよ。運命なんてもんをぶち壊すことだってできんだ!」


 よく分からないことを言いながら翔助は再び俺の前から立ち去って行った。何がしたいんだろうか。


「間宮くん」


「ん? おう」


 一人になったところで今度は紗月に声をかけられた。


「あなたは何番でしたか?」


「あー、今はないけど一応七番」


「どういうことですか……」


 何言ってんだこいつ、という目をこちらに向けてくる。それが事実であり全てなのだから他に言いようがない。


「紗月は?」


「八番でした。正直言って男の人と二人で回るなんてごめんです。ですがイベントならばどうしようもないですし、ならばせめてあなただったら幾分かマシだと思ったのですが」


「結果ひどい言われようだな」


 そこは素直にあなたがいいと言えばいいのに。とはいえ、それが紗月の本音である。それが分かっているので取り繕われても困るか。


「もういっそのこと、体調不良で見学しようかと思って」


「うちのクラスは男女比が同じだから、お前がそんなことをしたら男が一人余るぞ。さすがにそれは可哀想だと思うけど」


「……」


 罪悪感はあるので、そこまではできないのだろう。しかし、男性不信の紗月からすれば男と二人きりという状況は酷か。

 深雪さんとの約束もあるし、ここは俺が相手になれればいいのだけど、くじ引きの結果である以上どうしようもない。


「あなたの言うことも最もなので、仕方なく相手を探してきます」


 はあ、と盛大に溜め息をついて紗月は言ってしまう。荒療治かもしれないけど、こういう機会に少しでも男性不信が改善されればと思う。

 でも、そうだな。

 ちょっと話したいこともあったし二人になれるのならそれはそれでありがたかったけれど。


「ただいま、悠一。ほら、これ返すぜ」


 再び帰還した翔助が俺に紙を返してくる。


「何してたんだよ」


「まあ、いろいろな。運命を変えるために奔走していたのさ」


「はあ……」


「というわけで俺はペアの相手のところへ行ってくるぜ」


「お前何番だったの?」


「ああ? 結果、二番だ」


「へー」


 じゃあな、と言いながら翔助はさっさと走って行ってしまう。忙しい奴だな。風呂上がりなのに汗かいてたぞ。

 二番ってことは、翔助の相手は三船じゃないか。いいなあ、羨ましいなあ。

 三船でもなく紗月でもないなら、他はそんなに親しさは変わらない。


「俺も相手を探すか」


 言いながら、俺は翔助から受け取った紙を開いてもう一度確認する。


「……八番?」


 あれ、俺は確かに七番だったはずだけど……ああ、そういうことか。翔助の奴め、くじ引きにおける不正を働きやがったのだ。

 三船とペアを組みたかったから二番を探したら、七番となら交換してやるとか言われたのだろう。たまたま俺が七番だったから巻き込まれたと。


「あいつ、三船と組みたかったのか」


 それはどういう意味でなんだろ、なんて思いながら騒がしい翔助の方を見る。

 既に三船と合流した翔助は二人でいつものように騒いでいた。あの二人はお似合いっちゃあお似合いだと思うけど。


「そんなことより、相手を探さないと」


 俺の番号は八番。

 つまり、相手は紗月である。

 結果的に言えば悪くない交換だと思う。翔助が悪いようにはしないと言っていたけど、こういうことか。


「ううう、わたしの相手はどこに……」


 涙目になりながら相手を探す紗月を見つける。探している間に紙の交換が行われたので、そりゃ見つからないわな。


「おい」


「ひゃあ!?」


 そんな紗月の肩を叩く。

 聞いたことのないような可愛らしい声を上げた紗月は涙目のままこちらを振り返った。


「なんですか?」


「あ、いや、なんと言うか」


 どう説明していいか悩んだので単刀直入に紙を見せた。


「あなたは七番なのでは?」


「いろいろあって八番になったんだ」


「……まさか、あなたもあのジンクスとやらを」


「ジンクス?」


 ぶつぶつと何かを言っている紗月に怪訝な視線をぶつけると、彼女はハッとして我に返る。


「いえ、何でもないです。よくわかりませんけど、結果的に相手があなたで助かります」


「そりゃ俺は無害極まりない男だからな」


 冗談めかして言うと、紗月はむうっと不満げな表情を向けてきた。俺何か変なこと言ったかな?


「別に、それだけではありませんが、もういいです」


 何故かちょっとだけ不機嫌になった紗月とスタート地点まで向かうのだった。

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