第25話 怪しい二人
夜。
昼に散歩したりしたせいかまだ一〇時くらいだというのにいい感じに眠たくなってきた時のこと。
ヴヴヴ。
スマホが震えた。すぐに止まったのでメッセージとかだろうけど、こんな時間に珍しいな。
翔助辺りがくだらないことを報告してきたのか、なんて思いながらスマホを見るとメッセージの相手は深雪さんだった。
『明日、何か予定あるかな?』
アルバイト先の相手なら確実に怪しんでしまうような内容が送られてきた。
なんだろ、雑用でも押し付けられるのかな? 面倒だけど、断るのも気が引ける。
実際予定がないのでより一層気が引ける。
『特にないですけど。何かありました?』
そもそも、何でわざわざメッセージで言ってくるんだろうか。そんなまどろっこしいことしなくても、部屋まで来ればいいのに。
深雪さんからの返事はすぐにきた。
『よかったら明日ちょっと付き合ってくれないかな?』
「……なんだろ」
買い物に付き合うとかそういうことかな。荷物持ちのパターンが濃厚か。だとしても深雪さんと出掛けるなんてレアなケースだし、十分に行く価値がある。
翔助との予定をキャンセルしてでも行けるな。
『いいですよ』
ヴヴヴ。
『それじゃあ明日の一〇時に駅前に集合ということで。よろしくね』
なんで待ち合わせなんだろ。
一緒に家出ればいいのに。
「まあ、別にいいけど。そういうことならさっさと寝るか」
喉が乾いたので水を飲もうとリビングに行く。するとそこにはえらく上機嫌な深雪さんがいた。
「鼻歌なんか歌って、何かいいことでもあったんですか?」
リビングに入るとビクリと体を震わせて焦った表情でこちらを向く。何か変なことしてたわけでもあるまいし。
鼻歌は歌ってたけど。
「べ、べべ別になんにもないけど? 変な言いがかりはよしてほしいかな!」
「……はあ」
そんなに慌てることもないだろうに。鼻歌聞かれたのがそんなに嫌だったのかな。
冷蔵庫からお茶を出し、コップに注ぎながら横目で深雪さんを見るとスマホとにらめっこしながら楽しそうに笑っている。
「そういやなんでさっきメッセージ送ってきたんですか?」
「ん? だめだった?」
「あ、いや、直接部屋に来ればいいのにと思って」
「たまにはそういうのもいいかなーと思って」
「たまには、ですか」
理由はよく分からなかったけど深雪さんなりに何かを思ってのことなら別にいいのだ。
「俺もう寝ますね」
「今日はなんだか早いね」
「昼に動いたりして疲れたのか眠たくて」
あくびをしながら言う俺を深雪さんはおかしそうに見てくる。
そんな感じで終始上機嫌な深雪さんと挨拶を済まし自室に戻る。布団の中に入り目を瞑ると驚くほどすんなりと眠りについた。
そして翌朝。
起きれる自信がなかった俺はスマホのアラームを何重にもセットしていてようやく目覚めた。
何でもない予定ならともかく深雪さんとの約束に寝坊なんてナンセンスだ。
「あ、悠一さん。おはよーございます」
リビングに入ると花恋ちゃんと紗月が朝食を取っているところだった。花恋ちゃんはともかく日曜日のこの時間に紗月が起きているのは珍しい。何か予定でもあるのだろうか。
「あなたも何か食べますか?」
目玉焼きを口に運びながら不機嫌そうに紗月が言ってくる。
俺は時計で時間を確認する。深雪さんとの待ち合わせまで三〇分。あんまりゆっくりしている余裕もないか。
「いや、今日はいいや。ありがと」
「いえ、別に」
「雪姉といい、今日は珍しいね」
「深雪さんは?」
確かに見当たらない。
「出掛けましたよ。少し前に」
「どこに行くの? って聞いても、散歩としか答えなくて。そのわりにはご機嫌だったんだけど」
あまり見ない光景だったのか、紗月と花恋ちゃんが怪訝な表情でそんなことを言った。
内緒にしているのかな?
してないなら別に俺と出掛けるといえばいいだろうし。
「悠一さんはどこか行くんですか?」
「あー、まあ、散歩かな」
逆に怪しまれる返事をして、俺は反撃をくらう前に早々にリビングを出た。
家から駅までは歩けば少しかかるので俺は早めに家を出る。道中走りたくはないからな。まだ夏本番ではないとはいえ、ゴールデンウィークを終えてからは段々と暑くなっている。
そんな感じで歩きながら向かい、駅に到着したのは集合時間の一〇分前。
だったのだけれど……。
「早いですね」
既に深雪さんが待っていた。
白のワンピースの上からカーディガンを羽織り、小さなカバンを手に持って腕時計を確認しては辺りを気にしていた。
いつもは下ろしている長い髪は、今日は二つ括りで纏めている。いわゆるローツインテというやつでツインテの中では大人っぽさがある種類だ。
「あ、悠一くん。早いね」
こっちのセリフなんですけど。
一応早めにつくようには家を出たし、現に早めについたというのにそれでも彼女には及ばなかった。
まあ俺よりも早く家を出ているので順当といえばそうだけど。
「いつから待ってたんですか?」
「私もさっき来たとこだよ」
それが本当か確認する術はない。
大丈夫だろうけど三〇分くらい前から待たれていてもおかしくない。
「そっすか。それで、今日はどこに?」
俺が聞くと深雪さんは思い出したようにカバンの中から何かを取り出す。それはさながら青いネコ型ロボットのような手際だった。
「ここ」
二枚のチケットをひらひらと揺らし、深雪さんは短く言う。よくは見えないけど映画とかのチケットか?
「それは?」
「遊園地のチケットです」
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