お題:アルビノ

 青天の通学路で、ひとつの日傘が揺れる。

「ねぇあの男子、白髪だよ」

「肌も真っ白……外国人?」

「あれだろ。アルビノってヤツ」

 絶え間なく向けられる好奇の目。隣を歩くあたしは、庇うようにその視線を遮る。

「ありがとう。慣れてるから大丈夫だよ」

 彼は小さく袖を引いて、微笑んだ。心配させまいとするいじらしさが、儚さを際立たせる。

 女子のあたしより華奢で、日光を浴びただけですぐ火傷してしまう身体。幼馴染として過ごしてきても、心配が尽きることはない。

「……やっぱり、入学しなくていいんじゃないか? お前はあたしと違ってすっげー頭いいし、通信教育でも卒業できるって」

「ううん。僕はきみと一緒に学校に行きたいんだよ」

 お世辞でなく、本心なのだろう。

 自分を理解してくれる幼馴染についてくる、アヒルの子。

「あたしはお前が思うみたいなヤツじゃない」

 優しくもない。人の気持ちがわかる女でもない。

 小さな頃からアルビノの美少年にずっと惚れてて、彼の好きも嫌いも知り尽くしただけのガサツな女。他に友達ができないから、あたしに懐いてくれてるだけだ。

 いつか必ず、あたしの嫌な部分を知られてしまう。そうしたら、彼はあたしを見限ってしまうだろう。

「あたしみたいなのが幼馴染で残念だったな。あたしより綺麗な女子はいくらでもいるのに、幼馴染ってだけでお前はずっとあたしについてくる。視野の狭いお前が可哀想でならねぇよ」

「僕は幸せだよ」

 これは彼の口癖だ。何もかもが、いまが幸せだと言うのだ。

 家が近かった。親が仲良しだった。そんな偶然の幸運に縋ってばかりのあたしに対して、『きみと幼馴染で幸せだ』と抜かすのだ。

 あたしがいなければ、彼はもっとたくさんの友達がいたのだ。端整な顔立ちに見合う美人の恋人だっていたかもしれない。もっと優しくて、甲斐甲斐しく尽してくれる相手がいたかもしれない。

 過保護で嫉妬深いあたしが幼少期の彼につきまとって、孤立させたりしなければ、彼があたしに依存するようなこともなかったのに。

「……早く友達作れよ。あたしなんか放っておいてさ」

「きみがいるからいい」

「っ……」

 清廉な声でそんなことを言うな。

 勘違いしてしまう。自分がかけた呪いを、純粋な好意とはき違えてしまう。

 嫌ってくれ。あたしなんて忘れて、どこかへ行ってくれ。

「ずっと、一緒だよ」

――これ以上、あたしをお前に依存させないでくれ。

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