藤色の方(RESURRECTION・四郎)

1 藤色の方 四郎


「只今 帰りました」


ジェイド宅... 現在は、私の自宅でもある玄関の扉を開け、帰宅の挨拶を致しますと

「おう」「おかーりー」など、兄様方の声が

返って参ります。


学校の指定靴を脱ぎ、カバンを 二階への階段下に置きますと、まず 手を洗いに洗面所へ向かい

それから リビングに入るのです。


「今日は どうだった?」

「隔週、土曜も学校ってなぁ... 」


時刻は、昼過ぎで御座いますが

兄様方は 朝、私に

『おう、行って来い』『頑張って来いよ』と

挨拶をして下さった後、二度寝なさるので

現在、寝起きといった御様子です。


ジェイドと 朋樹は、シャワーを済ましており

泰河の姿が見えぬ という事は、シャワーなのでしょう。案の定、首に手拭いを掛け

「おう、四郎」と、湯気の見える脱衣場から

出て来られました。


「特に 変わった事も御座いませんでしたが

楽しかったです」


「ん、そっかぁ」と、ルカがシャワーに向かい

「オレンジソーダがあるよ」と ジェイドに勧めて頂いたので

「では... 」と、台所の冷蔵庫から ソーダを取り

着替えに 一度、二階の自室へ向かいます。


自室は、元々 この家で暮らしておられた神父パードレ

書斎にしておられた部屋で、大きな木製の机と

壁の 一面には、本棚が御座いまして

何と、ぎっしりと 本が詰まっておるのです!

端から読んでおりまして、上から二段程は 読破致しました。現在、三段目の右から五冊目に差し掛かったところ。楽しいです。


四の山や 家の裏に面する窓には、水色のカーテンが掛かり、窓際の寝台ベッドには 紺の寝具です。

壁の色は、茶に近い べーじゅの色であり

温かみがあり、心の落ち着く色なのです。


くろーぜっと なども御座いますが

壁の衣紋えもん掛けには、私が蘇った際に身に着けておりました、白地の 袖口が浅葱に染まった小袖や

濃紫の袴、赤い羽織にひだ衿を掛けており

隣に、今の時期で御座いますと、制服のズボンや

サマーベストを掛けるようにしております。


初めての学校で、初めての夏休みを終え

新学期が始まり、最初の週を終えました。

外は まだ暑く、いつか 本当に、凍える程 寒くなりましょうか?... といった具合です。


オレンジソーダの缶の蓋を開け、一口飲むと

腹から空腹の音が鳴り、一人 ほんのりと、顔を熱くした次第。


紺に、さんみげるの絵画が ぷりんとされたシャツと

膝下の丈の 黒い かーごぱんつ などを選び

スニーカー用の短い靴下に履き替えますと

スマホに 充電のこーどを差し、メッセージの有無の確認を致します。


メッセージは、大抵は 涼二からで御座います。

又は、高島と真田。同じ学級くらすの学友も ちらほら。

しかし、個別のメッセージとは別に

グループトークなるもの... 複数人でメッセージのやり取りをするものも御座いまして

これは、学級のものと 先に名が出ました私共四人で やり取りしておるものです。


して、四人で やり取りをしておる場所に

メッセージが入っておる と、通知が出ておりました。


『これ、どう思う?』


真田のメッセージです。

真田は自身の あいこんを、人参にしております。

御母上が購入されたものでしょう。三本入りです。南瓜の時や法蓮草の時も御座いましたが

皆、触れぬようにしておるのです。

本人は楽しいのでしょうし、特に害も御座いませんので。

そうした本人の印象は、すらりとしており

なかなかであると思うのですが...


やや 脱線いたしましたが、メッセージの下には

記事が添付されておりました。

記事を開いてみますと、私が 愛読しております

都市伝説サイトのものです。


“納涼祭” と ありまして

暦が変わりましても、まだまだ暑う御座いますので、肝試しなどは如何か... と

心霊スポットを紹介する特集で御座いました。

はて、夏の始めにも お見掛け致しましたが...

全国津々浦々の厳選最恐スポットが記載されておりますが、その中には やはり、我等が 二の山の洋館が載っておるではありませんか。


私共が暮らす 六山内では、こういった場所は

此処しか御座いません。

古い洋館で御座いまして、兄様方も “前から有名” と 仰られていた場所なのですが

霊が集中する因も判明し、取り除かれました。

しかし その後は、妖しの皆様の棲家となったのです。

この夏の肝試しも、大盛況であった事でしょう。


『何も出ないって』


高島です。色男で御座いまして、背丈もあり

女子おなごに大層人気があります。

あいこんは、本人の後ろ姿です。

解っておるのでしょう。

おお、高島がおるので、すらりとした真田が目立たぬ... といった具合です。今 気付きました。


高島は、“目に見えぬものは存在せぬ派” で

御座います。

霊などの話で盛り上がっておりましても

“錯覚”。“自分で作り上げた記憶”。... と

自身の理解が及ぶ範囲に 当て嵌めます。


しかし、“肉体が死したらば無である” などと

霊魂あにまそのものを否定する といったものでもなく、

そのようなものは “地上におらぬ” というのが

持論で御座いまして、

“肉体を離れた魂は、全て例外無く 地上を離れ

即座に 別の場所へ行く”... といった考えです。

そうであるから “おらぬ” と。


『出る出る! 絶対出るって!』


涼二です。あいこんは、この夏より

トントンミー... ミナミトビハゼ です。


涼二と私は、背を伸ばす ということに関しては

“あれを食べたら伸びるって!”

“成長ホルモンが分泌される時間に睡眠を取るのが良いと”... と、情報共有し合う仲でもあり、

“夏の間に 2センチ伸びた!”

“私は 3センチです!”... いった 好敵手らいばるでもあります。

現在、私共の背丈は 170センチに及ばぬ程度。

しかし 涼二は、現代に蘇りました私の 親友で御座います。


くっきりとした眼をしており、出会った頃に比べますと、少々 顔の輪郭が伸びた気が致します。

兄様方が、“リョウジくん、ちょっと大人びた?”

と 申されました際、私は 実のところ

“なんと”... と、微かな焦りを感じたものです。


またもや脱線致しましたが

涼二は、妖物や未確認生物などに関しましては

明らかに笑いを狙った動画 などでない限り

“真っ向から全肯定派” で御座います。


これは、自身の経験も大きいのでしょう。

繭に包まれ、まさに羽化せん... となったこともあり、私の蘇りの折には 血肉を分けられまして

首も落ちた次第でありますから。


さて、この辺りで 私も

『兄さんたちは、出た って言ってたし

動画には、ボールも映ってた』... まで 入れまして

語尾に迷いました。

“だろ?” が よろしいか “よね?” が よろしいか...


いや... “よね” は、文字に致しますと

女子おなごのようであります。

考えてみたらば 実際にも、“よね” と 申したことは御座いません。

ですが、“じゃん” は 遠いように思うのです。

そういった雰囲気は 持ち合わせておらぬ気が致しますので。


ここで私は、ぐるぐると

兄様方の話し方を反芻 致しました。


朋樹、泰河、ルカ... ならぬ気がします。

ボティス等にも “手本にならん” と 言われておりますので。 とすれば、ジェイドでしょう。

何ということか、南蛮の方が手本とは...


しかし、“じゃないか” と 語尾を足し

送信 致しました。

あいこんは バリ猫です。当たり障り無く。

そして私も 全肯定派なのです。

何せ、自らの存在が 存在で御座いますので。


天草 四郎時貞。

過去の世に於きましては、切支丹一揆 総大将。

蘇りで御座います。


私は、総大将として 火煙の原城にて首を落とされ

出島に晒された折より、世を呪うており

復讐の機会を虎視眈々こしたんたんと...

などと いったこともなく、現代に立った折には

“はて ここは、何処なのでしょう?” と

ぽやりと思うたものです。


現在は、雨宮 四郎 で御座います。

私立 明月あかつき学院 高等学校、1年1組3番。

朋樹の親戚である となっておるので

雨宮姓を名乗っておりますが

“親戚” が、“兄弟” と 何時いつぞか すり替わっており

“兄ちゃんは 朋樹なのに、四郎は 四郎なんだ” と

不思議がられたことが御座いました。


この時、私は頷いて返しましたが

朋樹の兄弟名と共に 並べてみたものです。


“雨宮 透樹、朋樹、晄樹、四郎”...


何で御座いましょう...

こうして見てみますと、味噌っかす感がいなめず

“かわいそうな子なのかな?” など 噂されましたが、涼二や真田等は、“だって四人目だから!” と

大笑いしており、私も 何か可笑しゅうなって

やけに笑うた次第です。


おお、大変長々と 無駄話などしてしまい

誠に申し訳なく...

数百年の時を越え 蘇り、まだまだ驚くことの多い日々ですが、私は このように しあわせであり、

少々 浮かれてもおるようです。


... おや、メッセージの通知音が鳴りまして

『行ってみる?』と、人参が申しております。

二山の洋館です。


『いいぜ』と 高島の背中。

『出ても余裕ッスよ』と トントンミー。


バリ猫である 私も『何時にする?』と 送信し

“21時に、学校の近くのコンビニ前 集合”... と

なりました。


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