[No.25] 帝国航空竜騎兵団による航空祭 空を舞う飛竜に観衆熱狂

 《ゼルキィーン市》で、帝国ていこく航空こうくう竜騎兵団りゅうきへいだんによる航空祭こうくうさいが開催された。同市においては最大規模の行事ということもあり、市民はもとより飛竜ひりゅうファンが各地からつどって毎年にぎわいをみせているが、今年は過去最高の集客を記録したようだ。

 ふだんは国境防衛任務にいている航空竜騎兵団の飛行隊員たちが集い、飛竜(ニーズヘック、ヴィーヴル、サラマンダーなど)に騎乗きじょうし、訓練展示くんれんてんじ機動飛行きどうひこう披露ひろう。大空を縦横無尽じゅうおうむじんに、そして華麗かれい妙技みょうぎ。十メートルをもえる飛竜が吐き出す、迫力満点の火球かきゅう火炎放射かえんほうしゃあつまった人々は一様いちように空をあおぎ、圧巻あっかん演目えんもくの数々に歓声かんせいを上げていた。

 航空祭の目玉といえば、曲技飛行きょくぎひこう専門の広報飛行チーム〝ヴァイスインプリズ〟による展示飛行だ。彼らは、六体のホワイトドレイクに二名ずつ騎乗して、一糸いっしみだれぬ編隊飛行へんたいひこうやアクロバットを行う。二名のうちの一名は〝空絵士そらえし〟などと呼ばれ、飛行中に魔法を使用して、カラフルなけむり(スモーク)を引き、絵を描くのである。青空をキャンバスに描かれるハートマークや五芒星ごぼうせいが人々をとりこにしてやまない。

 しかし、今年の主役は違った。

 もっとも歓声がおこったのは、ワイバーンに騎乗する第3飛行隊による展示である。第3飛行隊と聞いてピンときた方はおられるだろう。『第100回帝国剣術武闘大会・男女混合の部』で、女性初となる優勝をおさめたイザベル・ワーナー少尉しょうい(18)が所属する部隊である。今や一躍いちやく時の人となった彼女が、ゼルキィーン市の空を舞い、航空祭での初飛行を華々はなばなしくかざったのだ。

 イザベル少尉は搭騎とうき前から脚光きゃっこうを浴びた。この日彼女が着用していたのは、戦闘用の甲冑かっちゅう装備ではなく、航空祭のために用意された特別装束とくべつしょうぞくだったのだ。全身の曲線にぴったり密着みっちゃくした黒色のラバースーツである。

 ワイバーンにまたがったイザベル少尉は、同飛行隊員とともに訓練飛行をおこったあと、単騎たんきによる展示に入った。銀髪をなびかせながらワイバーンの巨体を颯爽さっそうあやつる姿に、人々は感嘆かんたんの声をもらした。〝ゴー・アンド・バック〟という戦技せんぎ披露では、どよめきが起こった。飛行中のワイバーンの背中からイザベル少尉が離れ、空中落下をしながら再びワイバーンの背中に戻るという、読んで字のごとしの離れわざである。

 展示を終えたイザベル少尉に話を聞くことができた。

「ラバースーツと呼ばれるものを初めて着用したが、空気抵抗がおさえられ、身動きもしやすく、騎乗時の姿勢が安定した。一部やぶれた箇所かしょなどの耐久性たいきゅうせいを向上させれば、戦闘服としても十分流用可能であることがわかり、補給班ほきゅうはん打診だしんしようと思う」

 と、つねに実戦を念頭ねんとうに置いた、彼女らしい感想をいただけた。

 以下は、航空祭の観客の声をひろったものである。

「ドラゴンを初めて見た。大きくてびっくりしたけどかっこよかった」(6歳・少年)

「ヴァイスインプリズの演技はいつ見ても感動されてくれるわね」(52歳・女性)

「やっぱ咆哮ほうこうはワイバーンが一番だよな。あの濃灰色のうはいしょくうろこもクールなんだ」(35歳・男性)

「ドラゴネット(竜の子供)のえさやり体験がよかったよ。かわいい~」(20・女)

「どこが破れたんだ……もっと早くから並んで近場で見るんだった」(18歳・男性)

「あんなに大きな生き物に乗って空を自由自在に飛ぶイザベル少尉にあこがれました。私も大きなったらドラグーン(竜騎兵)になりたいです」(10歳・少女)

 帝国航空竜騎兵団による航空祭は、各地で行われており、次は《リパーフート市》でもよおされる。イザベル少尉も飛行する予定だ。


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