057 グレン対クリス
俺のいるデビッドソン組とクリス組との戦いは、一番レベルの高い俺のターンから始まった。まず俺は自陣営に商人特殊技能【
続いて俺は刀を大上段に構えた状態で、クリスの目の前に走り込む。そして左手で刀を持ち、それを素早く下ろすと右手でクリスの口を塞いだ。
「!!!!!」
目を丸くしてこちらを見るクリス。何が起こったのか分からないようだ。
(こういう顔がかわいいよな、コイツは)
そう思いながら口を塞いでいると、クリスの白い頬が赤らみ、丸かった琥珀色の目でこちらを睨んできた。睨むその顔も美しい。だがそんなこと思っている場合ではない。俺は素早く後ずさりし、刀を両手で持って大上段の位置に構え、自分のポジションに戻った。
「ギィヤァァァァ!」
その瞬間、前方からトーマスが斬り込んできた。俺はかわすことができず、その攻撃をモロに受ける。やはり名のあるキャラは違う。打撃力は、これまでのモブから受けたものとは段違いだ。
俺が攻撃を受けている間、リディアが【魔法結界】を唱える。これで我がパーティーは【防御陣地】と併用し、強力な対魔防衛陣を構築した。続いてフレディが回復魔法を唱えて、俺の体力を全快に戻してくれる。後方で常時回復魔法を唱えてくれるのは、やはり心強い。
一方、相手側はクリスが魔法を詠唱できず、こちらを睨んだまま立ちすくんでいる。役に立ちそうもない商人特殊技能シリーズの一つ【塞ぐ】。口を物理的に塞いで相手が魔法を唱えられないようにするという、なんとも古典的な技なのだが、クリスの強力な魔法には強力打となったようだ。これは使える。
シャロンが【防御の盾】を唱え、クリス組の物理打撃を抑えにかかってきた。これは俺対策だろう。見ればシャロンもレベル二十四、やはり高い。従者だからといって侮ることはできない。俺は【浮上】を唱え、パーティー全員を床から浮かせた。これによって、床から受ける魔法攻撃のダメージを抑えるのだ。
俺は大上段の構えを取ったまま、再びクリスの前に立ち、先程と同じ様に右手でクリスの口を塞ぎにかかった。もちろんクリスの詠唱を潰す為である。
「同じ手は食らわなくてよ!」
クリスは俺が口に手を添えようとした瞬間、睨みつけながら俺の右手を叩き祓った。直感的にこれはマズイと思い、刀を大上段の構えに戻して元の位置に帰る。クリスに同じ手は通じないか。さすが主要キャラだ。そう思っていると、俺の頭上に巨大な火球が現れた。
(これが【
ハッとして、思わず天井を見上げた瞬間、俺の体を炎が包み込む。ゲームの技を身体で体験する恐怖。目の前に炎の膜が見える。こんなの初めて見た。が、熱くはない。そして思ったよりも打撃を受けなかった。これはおそらく俺の【浮上】とリディアが構築した対魔防御陣が効いているからだ。
(やはりそうか)
【
「ダァァァァァァ!!!」
そんな事を考えている間にトーマスが斬り込んできた。もちろん避けることもかわす事もできないので、攻撃を受けるしかない。その間、リディアが【防御の盾】を唱え、物理攻撃の防御力を上げることに成功する。雷撃魔法でシャロンが攻撃してきたが、こちらは軽微な打撃に留まった。フレディが俺に回復魔法を唱え、俺の体力はもとに戻る。
(圧されてやがるな)
俺の方が圧倒的にレベルが上のはずなのに、その差を全く感じさせないクリス組の戦いぶり。主要キャラとモブ以下の埋めようがない差を思い知らされる。しかし今、そんな事を考えていても仕方がない。俺はフレディに【機敏】を複数回唱えながら、【渡す】で俺の使わぬ魔力を移し、回復に万全を期す。そのとき、異変は起こった。
(なんだこれは!)
俺たちを覆うシャボン玉のような膜が溶けていくように無くなっていった。
「な、なんで!」
「どういうことだ!」
リディアとフレディが
「【
クリスは琥珀色の勝ち気な目をこちらに向けて呟いた。そんなバカな。聞いたことがないぞ、そんな魔法。ゲームで出てきてないじゃないか! どこからそんなもの仕入れてきたんだよ、クリス! この状況にリディアとフレディが硬直している。立ちすくんで動けていない。その間、トーマスが俺に襲いかかってきた。
「トォォォォォォ!!!」
もちろん避けられるはずもなく、俺はダメージを受ける。だが、それは一番初めのそれと同じレベルのものだった。
(ん? どういうことだ?)
そう思っている間にシャロンが再び雷撃魔法を撃ってきた。先程よりもダメージ自体は受けている。だが軽微であることに変わりがない。もしや・・・・・
(【
クリスの【
「おい! リディア! 目の前のフレインを攻撃しろ!」
リディアに対し、戦士の従者トーマス・フレインと戦うよう檄を飛ばした。
「フレディ! 全員の体力を回復させ続けるんだ、いいな!」
一方、フレディには回復魔法を唱え続けるよう念を押す。
【一喝】によって混乱から帰ってきた二人は、「え、ええ!」「ああ!」と
戸惑いながら俺の問いかけに返してきた。それを確認した俺は、大上段に構えた刀でトーマスに全力で斬り下ろす。
「ギィィィィィィヤァァァァァァ!!!!!」
【防御の盾】上であるとはいえ、会心の一撃であることは手応えでわかる。
「トーマス!」
シャロンの叫びが聞こえる中、頭上に炎が現れた。【
シャロンが回復魔法でトーマスを回復させている間に、フレディもこちらの全員を【
「グレン。クローラルを潰しましょう」
なるほど、最初に黒髪の従者シャロン・クローラルを潰しに行くか。悪くはない手だ。リディアはシャロンめがけて勢いよく短刀を突き立てる。俺は帰ってきたリディアに大きく頷いた。いいじゃないか、この空気。ちゃんとパーティーになっているぜ。
俺は自分自身とフレディに【機敏】を唱えつつ、シャロンの目の前に奇声を発しながら飛び込み、大上段から刀を振り下ろす。すると目の前に、いつの間にかトーマスが立ちはだかり、結果として刀をトーマスに振り下ろす形になった。
(【かばう】だ!)
ゲームの戦闘シーンにも度々出てきた特殊技能【かばう】。戦士属性が持つ特殊技能だが、リアルで見たのは始めてだ。まぁ、トーマスがシャロンを守るのに全力という姿は容易に想像できるのでいいとして、【かばう】は確か、通常の打撃よりも大きいはず。こうなってくるとリディアの助言は益々有効。相手の弱いところはどんどん突いていくべきた。
フレディが【
当初、【
そう思っていたら俺たちの頭上に炎の球が現れた。【
俺は【機敏】を自身に複数回詠唱し、【渡す】でフレディに魔力を移した。俺の魔力はまだまだある。フレディは存分に使って回復に全力を挙げてくれ。そう思いながら奇声を発してシャロンを斬り込みに行く。
するとトーマスが【かばう】で割って入り、再びトーマスを斬る形となる。だが俺は脇目も振らず、再び大上段に構えを戻し、もう一度振り下ろした。
「きぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
今度はトーマスも庇いきれず、シャロンに俺の刀が直撃した。
「なにぃ!!!」
その直後、俺は信じられないものを見た。俺の脇から槍先が出てきて、黒髪のシャロンを刺したのだ。
「フレディ!」
「千載一遇の好機だ! 回復より優先させてすまん!」
「いや。ナイス判断だぜ、フレディ!」
「シャ、シャロン!」
トーマスの叫びも虚しく、シャロンは膝から崩れ落ちた。見ると体力はゼロ。戦闘不能だ。その瞬間、頭上に【
「ディィィィヤァァァァァ!!!!!」
よろめくトーマスを俺は見逃さなかった。刀を大上段の構えからトーマスめがけて一気に振り下ろす。
「トーマス!」
クリスが叫ぶもトーマスはリングに倒れて動かなかった。俺は間髪入れずクリスに襲いかかる。
「ダァァァァァァァ!!!!!!」
奇声を発しながら大上段の構えをとって、刀を一気に振り下ろした。
「つ、つう・・・・・」
クリスは呻くが俺は異にも介さず、刀を大上段に戻して振り下ろす。しかしクリスはよろめきながらも、倒れることはなかった。俺の渾身の一撃を連続して受けても倒れないとは! オリハルコン製の防具の力があるとはいえ、名のある奴の強さは尋常じゃない。
俺は自分のポジに戻ると、フレディの唱えた【
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