町田駅

 サッカーファンには攻略しなければならないダンジョンがある。

 曰く、鹿島国。日本国内の独立文明。密輸が横行するこの場で日本の常識は通用しない。ルールを守っていては得られない名物料理がある。

 曰く、等々力迷宮。等々力陸上競技場。その帰り道では人の流れに従ってはならない。人に付いていったその先で待ち受けているのは、帰宅不能の等々力迷宮。独力でこの迷宮を攻略しなければ帰れない。

 そして、天空の城野津田。なぜ人は山を登るのか。そこでサッカーが行われるからだ。野津田市立陸上競技場。それは山頂に築かれた町田ゼルビアの城である。


 繰り返すこと幾星霜。ジェフユナイテッドはJ2の強豪としての地位を確立していた。有名選手が加入しては移籍市場を騒がせているジェフユナイテッドは、この年も同じような迷走を繰り返す。

 期待されたフォワードがいた。かつて代表で名を轟かせた選手がいた。他チームで栄光を掴んだ監督が率いていた。けれども昇格には今一歩及ばない。プレーオフで敗れては他チームの引き立て役となる。今はもう栄光のオシム時代を思い出す人もいない。

 この日、町田ゼルビアはジェフユナイテッドとの試合が組まれていた。ジャージを着込みトレッキングシューズを履いた私は町田駅の出口へと向かった。背負ったリュックサックには懐中電灯と非常食が入っている。

 喫煙所で一服していると声をかけられた。

「サッカー観戦ですか?ご苦労様です。」

「好きでやっていることですので。」

 真夏の盆休み。町田で登山服の格好をした人はサッカーファン意外にいない。

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