紺碧のトリアージ

在原小与

第1話 プロローグ

 ほの暗い洞窟の中で、恐怖と悲しみを押し込め四人の男女が立っていた。


 背の高い少女は気丈に前を向き、洞窟の奥を睨みつける。

 その隣にいる男子は、じっと何かを耐えているが辛そうに目を閉じた。その男子に縋る様に、背の低い少女は腕を掴む。


 そして三人目の少女は、泣き腫らしたせいか目が赤い。

 四人の胸の内には、呵責の念と後悔しかなかった。



 ――助けられない。ただ、それだけしか浮かばなかった。


 時間だけが過ぎていき、闇が更に深くなる。

 灯りはそれぞれが持っているランプと、わずかに差し込む月の光だけ。

 足元を見ると、膝の下まで水に浸かっている。黒い水面は全員の恐怖心を更に煽っていた。


 しばらくすると、お互いが不安げに顔を見合わせる。だが、緊張している状況では誰も声を発しない。


 今、四人がいる場所は、『紺碧の洞窟』

 願いが一つだけ叶う。都市伝説として伝わる場所に四人はいた。

 沈黙が続く中、一人が声を上げた。


「お願い。……助けて」


 目を真っ赤にさせた少女の悲痛な声が響くと、他の三人も祈る様に手を合わせて願い出す。


 助けたかった。どうしても。


『願いが叶うと記憶を一つ失う』そう言われても。それでも助けたかった。

 だから願った。



――彼を取り戻すために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る