第40話 研究室とかレベルアップとか

 冒険部のみんなと一緒にローレライの森へと戻ってきた。

部員たちは霧の晴れた森をきょろきょろと見回している。


「アスター君、幽霊って本当にいるの?」


 シャロン先輩が恐る恐るといった感じで訊いてきた。

意外にも先輩は幽霊が苦手なようだ。


「噂だけだと思いますよ。僕はここに住んでいますけど、そんなの見たことがないですから」

「そうなんだ……」


 ホッと息をつくシャロン先輩が可愛く見えてしまう。

普段のシャロン先輩はクールで理知的で、こういう姿はあまり見せない。


「なんだ、幽霊はいないのか」


 逆にタオは残念そうだ。


「幽霊を見たかったの?」

「女子なら幽霊であっても愛せるからな。告白されたなら、ぜんぜん付き合えるぞ」

「タオはポジティブだよな」

「あっ!?」

「どうした?」

「幽霊が相手だとエッチができないんじゃないか!?」


 実体がなければどうしようもないかもしれない。


「そういうことは諦めないとね。手を繋ぐことも、キスも無理じゃないの?」

「やっぱり幽霊との恋愛はなしだ。死霊とかならワンチャン……」


 君の欲望に完敗だよ。


 くだらない会話をしていると、すぐに塔についた。


「ちょっとだけ待っていてください。先に研究室を設置してしまいますので」


 好感度やレベルアップの影響で保有ポイントは159まで増えている。

その他にも暗闇でもよく見える『夜目』という身体能力を手に入れた。

これはルアーム迷宮では本当に役に立っている。


 塔の中に人がいると改修はできなくなる。

みんなにはその場に待機してもらって、大急ぎでステータスパネルを操作した。

研究室を設置するにはポイントを5消費するだけだ。

僕は間取りを考えながら決定ボタンを押す。

と、ここで少々の見得が働いた。

どうせなら立派な部屋を作って部員たちを驚かせたい。

ポイントはたっぷりあるから実験室レベル2に、広間のレベルも上げて、応接室も作ってしまおう! 

僕はポイント22を消費して、それぞれの部屋を用意した。


「ロウリー、まだかい?」


 待ちきれないと言った具合にレノア先輩が訊いてくる。


「お待たせしました。もう入っていただいて大丈夫ですよ」


 僕は正面の扉を開いて、みんなを塔の中に招き入れた。



「広いなぁ!」


 真っ先に入ったレノア先輩が感嘆の声を上げる。

レベルを上げたせいで石の床には赤く巨大な絨毯が敷かれ、部屋の隅には休憩用の椅子やサイドテーブルが置かれていた。


「お城みたい……」


 ルルベルは天井を見上げて一回り大きくなったシャンデリアに目を細めている。

きらめく明かりは弾けて散らばり、千万の光の粒が室内を煌々と照らしていた。


「砦よりずっと大きいとは聞いていたけど、ここまで広いとは思わなかった」


 ララベルは広間が広すぎて落ち着かないようだ。

それはそうだろう、住んでいる僕だって落ち着かない。


「一人で住むにはちょっと大きすぎるんだけど、屋上に家庭菜園とかもあって便利なんだ。どうぞ、研究室はこっちです」


 右から三番目の扉を開けて、できたばかりの研究室へみんなを招き入れた。


「すごい! すごいわ! 実験器具にこの本棚! えっ? これは『魔法薬学大辞典』じゃない!! こっちは『本草綱目素材大全』!? 『魔女の大鍋』に『ヒポポゴラス秘伝』まである! なにこれ? ここは楽園なの!?」


 シャロン先輩がトロンとした目つきで部屋を眺めまわしている。

よほどこの研究室が気に入ったようだ。


「隣には工作室もあるので、いろんなものが作れますよ」


 研究室と工作室は行き来がしやすいように室内にも扉をつけた。


「はあ……ここで暮らしたい……」

「おい、シャロン。それだとロウリーと同棲したいって言っているように聞こえるぞ」

「は? そういう意味じゃないわよ。私はこの研究室に住みたいだけなんだから! ねえ、ロウリー君」


 僕に同意を求められても困るんだよね。

ただ、シャロン先輩がここを気に入ってくれたのは素直に嬉しい。


「住むのはどうかと思いますが、気に入ったのなら、先輩が好きな時にいつでも使ってくださいね」

「本当に!? 棚の蔵書も読んでいいの?」

「もちろんです。ちょっと待ってくださいね」


 僕はポイントを1消費して部屋の隅に読書椅子を作り出す。

よく磨かれたマホガニーの枠に濃紺の革が張られた重厚な椅子だ。

これなら長時間座っていても疲れないだろう。


「これを使ってください。研究の助手がほしいときも手伝いますので、いつでも声をかけてくださいね。僕も興味がありますから」

「ありがとう、アスター君!」


(シャロン・ギアスの好感度が上がりました。ポイントが10付与されます)


 よっぽどここが気に入ったんだな。

シャロン先輩は滅多に見せない満面の笑顔で喜んでいた。


「それじゃあ、そろそろ魔香油を作る準備をしようか。とりあえず材料だよね」


 僕はタオに確認を取る。


「必要なのは、獣脂、ノビールの球根、人間の体毛、魔物の血液、魔結晶の粉末、蝋、あればブランデーも」

「獣脂はヘット(精製した牛の脂)でもいい?」


 ヘットは先日冷蔵庫から出てきて、炒め物をする時に使っている。


「それで構わない」


 ノビールの球根はローレライの森に生えていたので採ってきた。

草の部分はネギと同じ味なので刻んでスープに入れてしまう予定だ。

それから魔物の血液も冒険の最中に採取してある。


「魔結晶の粉末は自分たちで作らないとダメだね。道具は棚にあるけど」

「だったら私に任せとけ!」


 さっそくレノア先輩が身体強化魔法を使ってハンマーを振るってくれる。

これならすぐに粉末になりそうだ。

なんて勢いだろうね、先輩は。

ガン ガン ガン!

勢いのあるのは良いことだ。

いいことなんだけど、ハンマーを振るうと、その反動でどうしても胸まで揺れてしまう……。

あまりにダイナミックな動きに僕とタオはタジタジだ。

実物を生で見ている僕はどうしても想像をたくましくしてしまうわけで、粉末作りは先輩に任せてその場を離れた。

当然、タオの襟を引っ張って。


「蝋はロウソクのカスを学園で集めておいたわ」


 ルルベルとララベルが袋を渡してくれる。


「ブランデーはどうする? なくても作れるけど、あった方が効果は高い」


 タオもここにブランデーがあるとは思わなかったようだ。


「あるよ。僕が買ったんじゃなくて、師匠がしまったまま忘れてしまった物だけどね」


 小屋の倉庫を片付けていたときに出てきたのがこれだ。

数十年前の代物だけどブランデーだから大丈夫だよね?


「よし、あとは人間の体毛だけど……」

「僕の髪の毛を使う?」


 ラッセルと違って僕の髪には余裕がある。

一本くらい抜いたところで――。


「いや、ロウリーのじゃだめだ。材料は乙女の体毛と決まっているからな!」


 その場の全員がタオを疑わし気な目で睨む。


「本当なんだって! コレクションとして持ち帰る気なんてないから」


 必死で言い訳するタオが哀れになってきた。


「ここはタオを信じましょう。どなたか髪の毛をくれませんか?」

「あ、私ので良ければ」


 人のいいルルベルがすぐにピンク色の毛を切って渡してくれた。

タオは憮然とした顔でそれを受け取る。


「髪の毛か……」


 他の毛がもらえると思ったのか!? 

でもこれで、すべての材料が整った。

あとはタオが錬成を成功させればいいだけだ。

タオは集めた材料を同じボールに放り込む。

そして呪文を唱えて錬成を開始した。


 錬成には10分弱かかったけど、ついに魔香油は出来上がった。


「なんだかロウソクみたいな形をしているのね」


 ララベルが赤い魔香油の匂いを嗅いで顔をしかめた。


「使い方もロウソクと一緒だよ。これに火をつければ香りが漂ってアニマル型のドライドがやってくるって寸法さ」


 明日は再びニグラダ平原だ。

今度こそアニマル型のドライドを捕まえてやるのだ。



特殊能力:塔マスター(レベル12)

魔法:身体防御(プロテクト) ストーンバレット 

身体能力:自己治癒力 解毒体質 夜目

エクストラギフト:オートシールド×2枚 落とし穴×2 

タワー構築(基底部~3F)・部屋作製・小砦Lv.2(30)

保有ポイント:146


■所有ガーディアン

ソードマンLv.2 ×1

アーチャーLv.2 ×1


好感度・親密度

 ラッセル・バウマン  ★★★★★★★★★★

 アネット・ライアット ★★★★☆☆☆☆☆☆

 タオ・リングイム ★★★☆☆☆☆☆☆☆

 ララベル・パットン ★★★★☆☆☆☆☆☆

 ルルベル・パットン ★★★★☆☆☆☆☆☆

 レノア・エレノイア ★★☆☆☆☆☆☆☆☆

 シャロン・ギアス ★★★☆☆☆☆☆☆☆


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