第22話 素材回収

 七羽のアンゴルクロウは黒い矢になって僕に襲い掛かる。

これ、大丈夫なのか? 

僕がオートシールドで防げるのは一面だけだ。

正面の敵を押さえている間に左右に回り込まれたら……。

と、その時、アンゴルクロウの側面から五本の魔法と矢が飛来した。

てか、一本は僕の方に飛んできているぞ。

オートシールドで防いでいるけど、あれはたぶんタオの撃ったやつだ。

危なく流れ矢でけがをするところだった……。

攻撃を受けてのたうち回るアンゴルクロウに更なる矢と魔法が飛んでくる。

レノア先輩は剣を抜いて飛び出していた。


 僕らは七羽のうち四羽のアンゴルクロウを仕留めた。

残念ながら残りの三羽は逃げている。


「いいね、いいね、幸先のいいスタートだ」


 レノア先輩は満足げに頷きながら剣についた血を拭っていた。

これは戦闘が終わるごとにやらなくてはならないそうだ。

さもないと血脂で剣が切れなくなってしまうらしい。

武器を使えない僕には知らないことばかりだ。

まあ、魔物の血が付いたままの剣なんて気持ちが悪いよね。


「さあ、魔結晶を回収しましょう」


 シャロン先輩の指示にみんなが解体用のナイフを取り出した。

おいおい、なんか忘れていませんか?


「その前にロープをほどいてくださいよ」


 僕はいまだに上半身裸で縛られたままだ。


「あ、じゃあ私が……」


 ルルベルがすぐにやってきてくれた。

見た目通りに優しい女の子だ。

でも、裸の僕を見て顔を真っ赤にしている。

そういえば男が苦手だってララベルが言っていたな。

動揺で手が震えているのか、結び目がうまくほどけないようだ。

なんだかこっちが悪いことをしているような気になってしまった。


「あの、緊張するようならタオに代わってもらえばいいから」

「大丈夫、アスター君は頑張ったんだもん。今度は私が頑張らなきゃ……」


 いやいや、そんなに頑張るようなことじゃないと思うけど。


「それに、私だっていつまでも男の人が苦手じゃいけないと思っているの」

「そうなの?」


 ルルベルの瞳は真剣だ。


「だって社会に出たらそんな甘えは許されないですから。いつまでも厨房の奥にこもって料理だけをしていればいいというわけにはいかないし……」

「偉いなあ、ルルベルはそんな先のことまで考えているんだ」

「あっ、いえ、そんなしっかりとしたものじゃないんです。ただ漠然と……。それに、アスター君は喋りやすいっていうか……一緒にいてもあんまり緊張しないの」

「人畜無害そう?」

「そ、そうじゃなくて……、優しいから……かな?」


 僕が優しい? 

そんな自覚はないけどなあ。

ひょっとするとユンロン・エラッソとの件があったからそう感じているのかもしれない。


(ララベル・パットンの好感度が上がりました。ポイントが10付与されます)


 あ、また好感度が上がった……。


「ほら、いつまでボーっとしている。早くこっちに来て解体を手伝え」


 レノア先輩がナイフを振り回しながら呼んでいる。

僕の手のロープはようやくほどけていた。



 魔結晶は魔物の眉間部分にある小さな石だ。

その名の通り魔力の結晶で魔道具のエネルギー源などとして利用される。

アンゴルクロウの魔結晶は麦粒ほどの大きさで、一つにつき500レナウンほどの価値がある。


 みんながナイフを使って魔結晶をほじり出している間、レノア先輩はノコギリでアンゴルクロウの左脚を切断していた。


「先輩、何をやっているんですか?」

「アンゴルクロウは害獣だから、駆除すると国から報奨金が出るんだよ。1匹1000レナウンだ」


 ということはこれで全部で4000レナウン、魔結晶も入れたら6000レナウンほどを稼いだわけだ。

裸で頑張った甲斐があったというものだ。


「すごい、すごい! どんどん稼ぎましょう!」


 ララベルは小躍りしながら喜んでいる。

まだまだ探索は始まったばかり。

これならもう少しは稼げそうだ。



 周囲のアンゴルクロウは駆逐してしまったので、僕らは移動することにした。


「さて、どちらの方向へ行くかだが、ララベルはたしか『探索の風』を使えたな?」

「任せてください!」


 ララベルは元気よく返事をして、ポケットから小さな杖を取り出す。

杖は魔法を補助してくれる魔道具である。

杖の力を借りれば出力は5%ほどアップされるというのが定説だ。

高級品になればなるほどその効果は大きくなるけど、値段もそれ相応に跳ね上がる。


 ラッセルの話では出力を25%もアップさせる杖があったそうだ。

オークションでの落札価格は1億レナウン。

学生に手が出せる代物ではない。


 ララベルはクルクルと杖をまわして呪文を唱える。


「風よ、吹き抜ける風よ、大地を撫ぜる風よ、雲を運ぶ風よ、我がもとに集まり、この世界の断片を知らしめよ」


 ヒューヒューと音を立てて、四方八方からララベルのところに風が集まっている。

ララベルは目を閉じたまま少しだけ顎を上げて、風の匂いを嗅いでいるみたいだった。


「どうやら、西の方により多くの魔物がいるみたいです。北の方は全然ですね。といっても私がわかるのは半径1キロくらいのものだから……」

「それだけわかればじゅうぶんさ。よし、みんな西へ移動するよ! ロウリーはいつでも服を脱げる準備をしておくように」


 えっ、またやるの!? 

アンゴルクロウを狩るのには有効な手段ということは証明されてしまったけど、これが常態化するのはちょっと嫌だな……。

突然、シャロン先輩が身を寄せて、僕の腕にそっと自分の手を乗せる。


「アスター君、頼りにしているわ。これからも私たちを守ってね」

「はい!」


 僕、ちょろすぎですか?

だってさ、普段はクールなシャロン先輩なのに、その眼差しがいつもより熱かった気がしたんだもん。



名前:ロウリー・アスター

特殊能力:塔マスター(レベル8)

魔法:身体防御(プロテクト)ストーンバレット 

身体能力:自己治癒力

エクストラギフト:オートシールド×2枚 落とし穴

タワー構築(基底部~3F)・部屋作製・小砦(しょうとりで)(15)

保有ポイント:51


好感度・親密度

 ラッセル・バウマン  ★★★★★★★★★★

 アネット・ライアット ★★★☆☆☆☆☆☆☆

 タオ・リングイム   ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ララベル・パットン  ★★☆☆☆☆☆☆☆☆

 ルルベル・パットン  ★★★☆☆☆☆☆☆☆

 レノア・エレノイア  ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 シャロン・ギアス   ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る