第18話 君と僕の関係
僕はみんなを見回してから自己紹介を始めた。
「ロウリー・アスターです。得意魔法というか、まともに使えるのは土魔法系で、ストーンパレットをよく使います。それから不得意なのはその他全般です」
場が静まり返る。
「えーと、噂によると、君はあのラッセル・バウマンの弟子なんだよな?」
レノア先輩の質問が耳に痛い。
「まあ……」
「それなのに、得意な魔法がストーンパレットだけってどういうことだ? ……あ、わかった! 私みたいに身体強化魔法と近接戦闘が得意なのか?」
なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
「武器を使った戦闘はやったことがありません」
「え……」
せっかく盛り上がっていたのに、僕のせいで場が白けたムードになっている。
なんとかここは盛り上げなくては。
「でも、防御は得意なんです!」
「ほ~ん……」
レノア先輩は信じてくれていないようだ。
「証明してみせます。何でもいいので僕を攻撃してみてください」
「攻撃っていってもねえ……。こんなんでいいの?」
隣に座っていたレノア先輩の手刀が僕の脳天に向かってゆっくりと振り下ろされる。
カンッ
乾いた金属音が資材倉庫に響いた。
レノア先輩の攻撃は突如空間に現れた大盾によって防がれていたのだ。
「な、なんだこれ!?」
その場にいた全員が円卓から立ち上がっていた。
「僕の特殊能力であるオートシールドです」
「オートシールドですって!? まさか本物を見るなんて思ってもみなかったわ」
声を上げたのはシャロン先輩だ。
マイナーな能力だけど、博識そうなシャロン先輩は知っていたようだ。
まさにクールビューティーの
「オートシールドってなんなんだよ?」
「あらゆる攻撃を自動で防いでくれるんです」
レノア先輩が今度は水平に手刀を振るってきた。
しかもさっきより速い。
カンッ
だけど、先輩の攻撃はまたもや盾に阻まれる。
「アスター……、こいつの性能を試させてもらってもいいかい?」
レノア先輩の目がネコ科の猛獣のように輝いていた。
「いいですけど……」
「それじゃあ遠慮なくやらせてもらうぜ」
先輩は壁に立てかけてあったブロードソードをつかむ。
これがこの人のメインウェポンか。
「うりゃあっ!」
高速の踏み込みと共に水平の抜き打ちが飛び出してきた。
これは抜刀術?
太刀筋が速すぎて見えなかったぞ!
まあ、攻撃は防いでいるのだけど……。
「へえ、こいつも防ぐのかい!」
「先輩、嬉しそうなのは結構ですけど、もしも防がなかったときのことを考えなかったんですか?」
思いっきりきてたよ。
直撃してたら僕は死んでたと思う。
「ん? いや、大丈夫なんだろう? さらにいくぜ!」
反省はないようだ。
レノア先輩は淀みのない連続攻撃をしかけてくる。
近接戦闘の経験がない僕にはよくわからないけど、すでに学生レベルを超える実力の持ち主なのだろう。
だけど僕のオートシールドはそのすべてを防いでいた。
「セイッ!」
鋭い掛け声とともに別方向から魔法攻撃が飛んできた。
大盾が防いだのはシャロン先輩が放ったマジックアローだ。
こちらはちゃんと手加減をしてくれたみたいだな。
もっとも、資材倉庫の中で大掛かりな魔法を撃てるわけもないか。
部屋の中が大惨事になってしまう。
(レノア・エレノイアの好感度が上がりました。ポイントが10付与されます)
(シャロン・ギアスの好感度が上がりました。ポイントが10付与されます)
(タワーマスターのレベルが上がりました)
一気に二人の好感度が上がった!?
それによってレベルもアップしたようだ。
『落とし穴』なんていう新しい能力も習得したぞ。
「おいおいおいおい! すごいじゃないかロウリー! 我が部はとんでもないタンクを手に入れちまったようだな!」
「驚いたわ、アスター君。これなら週末の冒険も安心ね。頼りにしているわ」
さっきまでのムードが嘘のように盛り上がっている。
両先輩がずっと身近になった気がするぞ。
「今年は私一人で前衛をやるかと思っていたけど、アスターがいて助かったぜ!」
「そうね、レノアとアスター君が前衛、一つ下にリングイム君、その後方にパットン姉妹と私が並ぶフォーメーションでいけると思うわ!」
シャロン先輩の提案通りに並んでみたけど、しっくりくる陣形だった。
「よ~し、外で模擬戦をやってみようぜ。戦闘演習場へいくぞ!」
冒険部は日が落ちるまで訓練をし、週末の冒険に備えた。
少し疲れたけど充実した気分でローレライの森へと帰ってきた。
辺りは薄暗くなっていて森の中は暗い。
暗くなっても歩けるようにランタンなどを用意しておいた方がよさそうだ。
たしかポイント1を消費して手に入れることができたはずだ。
先輩たちの好感度が上がって保有ポイントは27になっているからためらうことなくポチってしまおう。
なんてことを考えていたら、不意に人影が動くのを感じた。
「うわっ!」
まさか、幽霊!?
……じゃなくて、アネットだった。
「びっくりした。いるんなら声をかけてくれればよかったのに。心臓が止まるかと思ったよ」
「……」
アネットは暗い表情で僕を睨んでいる。
「どうしたの?」
「放課後は一緒に図書館で……」
「え?」
アネットの声は小さくて聞き取りにくい。
「一緒に勉強しようって言わなかったっけ?」
そういえば、婚約者のふりをすると決めたときにそんな話も出ていたような……。
もしかして、ずっと僕を待ってくれていた!?
そして、ここまで僕を探しに来たに違いない。
これはまずい……。
「ごめん、きちんと日取りを決めたわけじゃなかったから……。それに、今日は冒険部の活動日だったんだよ」
「……」
「悪かった。明日は君の教室まで迎えに行くから許してくれないか?」
「別にいいわ、どうせふりだけの婚約者だし……」
無表情になったアネットはそのまま立ち去ろうとする。
たしかに僕らは偽物の婚約者だ。
言うなればラッセル・バウマンの娘と弟子、それだけの関係でしかない。
でも。こんな彼女を見ていたら、僕は引き止めずにいられなかった。
「待って、これからはきちんとスケジュールをアネットに伝えるよ。もっと、婚約者らしく振舞う。だから許してほしい」
アネットは黙って僕の顔を見つめる。
「本当に?」
「ああ、約束する。もっとアネットに優しくするよ」
「や、優しくって……」
急にアネットがオタオタしだした。
「そこまでは求めていないわよ! もっとこう、普通でいいから……、いえ、まあ、優しくしてくれるのならその方がいいけど……」
夕闇が濃くなってアネットの表情は見えずらい。
でも、張り詰めていた空気は薄らいでいる気がする。
「明日は教室まで迎えに来てくれるの?」
さっきまで怒っていたけど、今は上目遣いのアネットが可愛い。
これなら頼まれなくても迎えに行きたくなってしまうな。
「うん、お昼になったら行くから」
「そうしてもらえるなら……私も助かる……」
ふぅ……、なんとか機嫌を直してくれたぞ。
あれ、僕たちなんか本当の恋人みたいになっていない?
「今日はもう帰るわ。そろそろ寮の門が閉まっちゃう」
「うん、送っていくよ」
僕らは並んで、闇に包まれつつある森の道を歩いた。
名前:ロウリー・アスター
特殊能力:塔マスター(レベル6)
魔法:身体防御(プロテクト)ストーンバレット
身体能力:自己治癒力
エクストラギフト:オートシールド 落とし穴
タワー構築(基底部~3F)・部屋作製・小砦(しょうとりで)(15)
保有ポイント:27
好感度・親密度
ラッセル・バウマン ★★★★★★★★★★
アネット・ライオット ★★★☆☆☆☆☆☆☆
タオ・リングイム ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ララベル・パットン ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ルルベル・パットン ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
レノア・エレノイア ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
シャロン・ギアス ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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