Episode2-A&B エピローグ

 犯罪は突然に襲いかかってくるものなのよ。

 普通の日常を送っていた人が事件に巻き込まれた時、”被害者側”にも落ち度があった、問題があった、なんて言う人や思いたがる人がいるけど、自分自身が同じ目に遭って、同じ立場に立たされることになっても同じことが言えるのかしら?


 そう、”未来の事件”とほぼ同時期に、O市で若い女の子四人が惨殺された事件が起こったわ。

 あの事件だって「四人とも殺されるなんて被害者側に問題があった。あれだけ残酷な殺し方をされるぐらいだから、よっぽど周りからの恨みを買いまくって、調子に乗って生きていた女たちだったんだろう」なんて酷い中傷が一時期、ネット上に流れていた。

 ”未来の事件”とは違って、あの事件の犯人は逮捕、起訴される前に死亡したけれども。

 犯行を知った孫娘によって、家の本棚の下敷きにされて殺害されてね。


 自らも殺人者となった孫娘は『「殺人者の孫娘」「死刑囚の孫娘」という刻印を押されたまま生きていくのは”嫌だから”、警察に捕まる前に事故死を装って死んでもらおうと思った。祖母に死んでもらって、事件を終わらせようと思った』と供述したと……

 まったく、祖母もサイコなら孫もサイコだったのね。


 それに、加害者が死んだからって事件が終わるわけじゃないわ。

 犯した罪は消えることはないし、私たちの苦しみも終わることはない。

 ずっと続くの。消えることも終わることもないの。

 そうよね、未来、明美。

 未来の遺体発見ばかりか事件の詳細を聞かされた時、私の可愛い姪をあれほどまでに残虐に苦しめ抜いて殺した奴らを、この手で殺してやりたいぐらいだった。


 未来の葬儀後、加害者の家族たちが明美の家へと揃ってやってきたわ。

 償えぬ罪を謝罪しに来たのかと思いきや、あいつらは悲しみに暮れる明美たち遺族を罵倒してきた。


 私はその様子を隠し撮りしたの。

 今、思い返せば、あの時、よく冷静にその行動を取ることができたものだと自分でも思うわ。

 そして、私は隠し撮りした動画をネットに流した。


 世の人々は、”未来の事件”も、未来という娘が確かに生きていたことを、やがて忘れていくでしょう。

 でも、永久にネットに残されることとなる、あの動画によって、忘れ去られる時が少しだけ伸びたと思いたいの。

 加害者ならび加害者家族への苛烈極まりない攻撃を、怒りとともに煽ることであってもね。

 

 そんなことをしても、未来も”明美も”、もう戻ってくることはないって分かっているわ。

 でも、胸糞なままにしたくはなかった。

 ただ、それだけのこと。


(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る