レイン・ウェディング

春嵐

第1話

「雨が綺麗に見えるところがいいなあ」


 結婚式場を決めるときに、彼がそう言った。

 最初は意味が分からなくて、ふたりの晴れの日なんだから晴れでしょと思ったけど。

 それからしばらくして、彼は消えた。

 部屋には彼の私物がまだある。いくつかは意を決して捨てたけど、彼が着ていたものや食器は、どうしても捨てられなかった。彼が、いつか戻ってくると、心のどこかで思ってしまう。

 彼の部屋の机のなかに、封筒に入った百万円ぐらいのお金があった。数えてみたら、ちょうど式場のキャンセル料と同じ額だった。彼が本気でキャンセルを考えていたのかと思って、ちょっと安心した。わたしは捨てられたわけではなくて、彼が消えただけ。そう思うことができたから。

 キャンセルの電話を終えて、遂に、彼の服と食器を捨てた。

 もう彼はいない。いないから。

 ひとりだけの部屋になる。

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