254.2日目終了

 2日目の夜、俺たち一行は迎賓館の会議室に集まって今日の結果報告を受けている。

 今日は交流会の試技に参加したリコも参加だ。

 本来ならミリアも参加しなければならないのだが、俺たちが保護者ということで欠席を許してもらった。


「さて、本日の成果ですが非常に好ましい結果になりました」


 外務卿が今日の成果を発表し始める。

 その声は心なしか嬉しそうだ。


「まずは午前の会談。これはつつがなく終了いたしました。こちらが提示した後天性魔法覚醒施設の金額もマルティン王には快諾いただけましたからな。午後の武術交流会も大成功といえましょう。特に魔法技術の発展を示せたのは非常に大きかった。リコとミリアには感謝ですな」


「あ、ありがとうございます」


「気を楽にせよ。誰も取って食うわけではない」


「は、はぃ」


「そのあと行われた後天性魔法覚醒施設のお披露目もうまくいきましたな。マルティン王が選んだ魔術師10名中7名が回復魔法を取得、あちらの要望でさらに追加した騎士10名も6名が取得できたことでルアルディ王国の財務大臣も味方につけることができました」


「そうか。それはよかった」


「はい。ルアルディ王国側としても教会との関係……いえ、回復術士の問題は頭が痛かったようですからな。その問題が恒久的に解決するのであれば安い出費と考えていただけたようです」


「しかしよかったのか、フートよ。あの金額で提示して? 今回の販売金額の一割が技術開発協力金としてフェンリル学校に支払われるのだぞ?」


 うーん、理事長としての返答だよな。

 理事会で決まっていることだし問題ないんだけど。


「構いません。理事会でも承認を得ています。我々としても今回の協力金は大部分が別事業の支度金になるのでそこまで多くは望んでおりません」


「フート殿。次の事業とはどのような内容ですかな? 場合によっては国も関わらなければいけませんのでお話いただけると幸いです」


 これも理事会で承認されてるから問題なしと。

 エドアルドさん、さすが商業ギルドのギルドマスターだけあって会議には詳しいな。


「次の事業は『職業訓練校の設立』です。一般市民を対象に有償でさまざまな技術を教える学校を作ることを考えております」


「それもギルド連合の総意ですかな?」


「もちろん。むしろ、ギルド連合の手を借りないとどうにもなりません」


「……陛下。この件、那由他に戻るまでに考えておきましょう」


「わかった。この件はまたいずれ詳しく聞かせてもらう。外務卿本日の総括を続けよ」


「はっ。次に……ルアルディ王国の宮廷魔術師長ですが今回の騒動で更迭されるそうですな。さすがにこれ以上の恥はさらせないという判断でしょう」


「まったくだ。なにを考えていたのだ、あの男は?」


「軍務卿、考えるだけ無駄ですよ。元素魔法狂いが精霊魔法であれだけ見事な技を見せつけられたのです。それでなくても第一王女側に付いていたというだけで失点があった。挽回しようと必死だったのでしょう。……まさかルールすら無視すると思いませんでしたが」


「次の話だ。あれの話をするだけ時間の無駄だからな」


「はい。最後に晩餐会ですが、基本的にはこちらも問題なかったと言えるでしょう。両国ともに大きな問題もなくスムーズに終えることができました」


「よろしい。最後に今日の総括だが、皆よくやってくれた。那由他の魔法技術の発展と後天性魔法覚醒施設の有用性を十分に知らしめることができた。これは今後の会談にも大きく影響するであろう。まだまだルアルディ王国との折衝は続くが、気を引き締めて望んでほしい」


「「「ははっ」」」


「よろしい。では、会議を終了とする。皆もゆっくり休むといい。『白夜の一角狼』と軍務卿、外務卿、宮廷魔術師長、フローリカは残れ」


 国王陛下が解散の指示を出したことで集まっていた文官や騎士たちが続々と会議室を退室して行く。

 リコもその中に含まれているが、念のためにテラを同行させたので問題ないだろう。


「さて……まず、フートよ。お前んとこの学生、デタラメ過ぎるぞ?」


「すみません、俺もそう思います」


「フート殿、原理を説明していただけますかな? あのような現象、初めて見ましたぞ!」


 うわー、宮廷魔術師長の目がキラキラ輝いているよ。

 さてどうやって説明したものか。


「えーと、基本的には学校対抗戦で使ったマルチバレットの発展系なのはおわかりいただけますよね?」


「ええ、もちろん。それがどうしてあのような動く砲台に?」


「結論から言いますが、あれにはミリアの目的意識が非常に強く植え付けられています。今回で言えば『的を破壊する』ですね」


「ええ、わかりますとも。それがどうしたのですか?」


「その意思を精霊たちが強く読み取り行動した結果が今日のマルチバレットです。つまり、ミリアが下した命令は『的の攻撃』、『移動』のふたつだけです」


「……それはいろいろまずいんじゃねぇか?」


「ええ、まずいです。あれを真似できる人間はそうそういません。ですが、悪用されれば非常に危険な魔法になります」


「対処法はねぇのか?」


「精霊の玉とはいえ魔力の塊です。魔法をぶつけて破壊してしまえば問題ないのですが……自律行動しているのでかわす可能性もあります」


「厄介だな、おい」


「ええ。ますますミリアを手放すわけにいかなくなりました」


「どーすんだよ、あの才媛」


「どーしたものでしょうねぇ……へたに街へだすわけにも行かないですし、かといって束縛するのもフェンリル学校の理念に反しますし」


 少しの間、部屋に沈黙がおとずれる。

 みんなよい案はないようだ

 そんな中、宮廷魔術師長が急な申し出をしてくる。


「……ふむ、それでしたら私の養女にいただけませんかな?」


「ランダルさん?」


「実は私の家には子供がおりませぬ。妻は私よりもかなり若いのですが……私はもう歳ですからな、子供に恵まれるとは思えません。なので私の養子として迎えることができればと思いまして……」


「ランダル……いいのか、勝手に決めちまって?」


「妻も子供ができないことを気にしていたのです。もちろん帰って妻とも相談いたします。それにミリアの意思も尊重いたします。ご一考いただけませんかな?」


 あー、スラムの子供たちの実質的な里親は俺か。

 困ったなぁ。


「……いい話だと思いますよ、フートさん」


「ミキ?」


「ミリアちゃんの才能は少々目立ちすぎてます。このまま成長していけばよからぬ連中に目をつけられるかも知れません。宮廷魔術師長であるランダルさんの養女となれば話は変わりますよね?」


「もちろんです。このままフェンリル学校には通わせますし、護衛として影もつけましょう」


「いや……さすがに影をつけるのは国王としてもつけさせてもらうぞ? あんなのが犯罪者に渡ったらたまらん」


「ね? 悪い話ではないでしょう?」


 確かに悪い話ではない。

 となるとあとは本人の意思か。


「ランダルさん。後日、ミリア本人の意思を確認してからになりますがよろしいですか?」


「おお、考えてくださるのですね!」


「ええ、まあ……」


「よかった! これで私の研究成果を託せる人材も見つかった!」


「お前、そっちが目当てじゃねえだろうな?」


「もちろん、こちらはついででございます。天の采配に感謝せねば……」


「ふう。じゃあミリアの件はこれで終わりだ。次、フート、明日からの会議はどうする?」


「どうするとはどういった意味でしょう?」


「ああ、言葉が足りなかったな。お前の役目は俺とフローリカの護衛兼後天性魔法覚醒施設のアドバイザーだ。そのうち後天性魔法覚醒施設の方は片付いたと言っていい。あとは護衛なんだが……明日以降の会談はフローリカを同席させない予定なんだよ」


「つまりフローリカ王女殿下と一緒にいてほしいと?」


「そうなる。ついでだから飛行艇でやっていてくれた教育の続きをしていてもらえると助かる」


「国王陛下の護衛は……軍務卿たちで大丈夫ですね」


「もちろんだ。むしろ我らだけで守れなくてはならないのだからな」


「俺にとっての不安要素はフローリカだ。頼まれてくれるか?」


「わかりました。この迎賓館から出ないようにすればいいんですよね?」


「そうしてくれ。お前らからなにか要望はあるか?」


 要望……要望か……。


「俺からは特に。みんなは?」


「吾輩も特にありませんにゃ。できればアキームとバルトの運動不足を解消してやりたいのにゃが高望みですにゃ」


「悪ぃな。教会の連中がお前らを狙わないと言い切れねえから無理だ」


「わかっていますにゃ。なので要望はありませんにゃ」


「私もありません。リオンと同じくバルトに稽古をつけてあげたい程度ですので問題なく」


「私は少しだけ。厨房の使用許可をいただけますか?」


「ん? フートはそろそろミキ奥方の料理が恋しいのか?」


「そうなら嬉しいです。でも、私が借りたい理由はフローリカ王女殿下のためです」


「フローリカの?」


「はい。フローリカ王女殿下はシュークリームが気に入ったご様子ですので」


「ミキ様!」


「ほほう。大抵のものは可もなく不可もなく食べるこいつが気に入るとはさすがだな」


「お褒めにあずかり嬉しく存じます」


「わかった。そういうことなら許可をだそう。明日の朝には使えるようにしておく。……できれば、俺たちの朝食も用意してくんねえか?」


「そんなことをおっしゃっては随行したシェフやコックの皆様がかわいそうですよ?」


「……料理ギルドのババアからお前さんの作ったモンスター肉のシチューを振る舞われてな。あの味がどうしても忘れられないんだわ」


「わかりました。朝からお肉でも大丈夫でしょうか?」


「おお、じゃあ用意してくれるのか?」


「はい、国王陛下のご意向なら。フートさん、鹿肉を使っても問題ないですよね?」


「熊肉でもいいぞ?」


「ん? 熊肉ってなんだ?」


「シックスマーダーのお肉です。……死道にいた頃、私たちがかなり食べてしまったのでそんなに量はありませんが」


「シックスマーダー……旨いのか?」


「あの頃はあまり食材も乏しかったのでシンプルに焼肉でしたが、いまでしたらワイン煮などはいかがでしょう?」


「頼んだ!」


「承知いたしました。付け合わせの食材は……」


「シェフやコックたちから受け取ってくれ。今日のうちにしっかり言い含めておく!」


「かしこまりました。私からは以上です」


「おう。明日からフローリカの護衛、任せたぜ」


 そのあと、ほかの文官や騎士がいない場所でないと話せない話題を詰めて終了。

 翌朝はこのメンバーだけ特別メニューとしてミキのワイン煮が振る舞われたが……一番感動していたのは試食したシェフたちだったそうな。

 ミキもまたどこまで行くのかねぇ。

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