232.エイス王子、入学試験 2

 2日目、一講義目は講堂でのオリエンテーションです。


 学校長から一週間の予定と学校生活の注意点を説明されました。

 僕たち試験生は緊急と判断される場合以外の校外への出入り、および校外の人間との接触は禁止。

 これらが発覚した時点で不合格です。

 基本的に校外に出入りするための門には門衛がいるので簡単に出入りできるとは思えませんが。

 そのほかであれば基本的に在校生と同じように活動してもらっていいらしいです。


 ギルド実習棟および魔法学科教員棟への出入りは許可なしにはできないそうですが、それ以外の場所ならルールを守れば問題ないとのことでした。

 ということは、訓練場や魔法訓練場も出入りできるのでしょうか?

 いろいろと説明が終わったあと、この一週間のスケジュールが書かれた紙をもらいオリエンテーションは終了です。


 次の二講義目は国語の時間です。


 この時間は主に文字を読めない試験生向けに組まれたプログラムでした。

 文字の読み書きができる人間は好きにしてよいという教師からの指示もあり、ほとんどの試験生は別の授業の準備をしています。

 ただ農村や地方から出てきた試験生など、一定数は文字を読めない試験生もいるわけでして……教師のほかに一部の試験生も加わり文字の読み方を教えていきます。

 僕も教える側にまわりましたが人にものを教えるというのは存外難しいものですね。


 僕たちのようにほかの試験生を手伝っているものを『点数稼ぎだ』と揶揄してくるものもいますが、試験生同士で授業中に教え合うことは加点対象にならないと学校長も明言していましたよ?

 はしませんがしないとは誰も言ってませんでしたが。


 お昼休み……給食の時間を挟んで午後の講義は魔法実習です。


 この実習では最初に教師から説明を受けたあと、後天性魔法覚醒施設に入り新しい魔法属性に覚醒しないかを試すものでした。

 保有属性の多いものは順番が後ろに回されるので三色持ちの僕は最後のようです。

 覚醒施設に入って出てくるものはそれぞれ覚醒したかどうかを申告する義務がありますが、出てきたときの様子を見れば覚醒したかはわかりました。

 この日は多くのものが回復属性が覚醒したようで、それだけでも興奮している試験生が多かったように思えます。

 僕も初めて魔法が使えたときは同じような感覚でしたのでよくわかりますよ。


 さて僕の番ですが……新しい属性は目覚めてくれるでしょうか?

 覚醒施設の中央部まで入るとそこにいる精霊たちの密度がことがよくわかります。

 僕の離宮にあるものと同じ第四号後天性魔法覚醒施設のはずなのにこの違いは驚きですね。

 ともかく精霊に祈りを捧げて新しい属性を覚えられるか確認しましょう。


「すべての母なる精霊よ。僕に新たなる息吹をお与えください……」


 僕の祈りはあたりに響き……なにもおこりませんでした。

 やはり四色以上は難しいのでしょうか?

 そう考えていたそのときです、僕の体が赤い光を発したのは。


「え……?」


 赤い光は少しずつ輝きを増し、やがて消えていきます。

 ……赤い光ということは、火属性に目覚めた?

 僕は急いで外に戻り担当教師にいまの現象を説明します。


「それは火属性の覚醒で間違いありませんね。ですが、どうしてそんなに慌てていたのです?」


「あ、それはその……三色に目覚めてからまったく新しい属性に目覚めたことがなかったので」


「なるほど。理解できました。確かに研究データでも属性数が増えるほど覚醒しにくくなるとありますからね」


「はい。それでこのあとはどうすればいいでしょう?」


「四色持ちですか……正直、私は今日目覚めたばかりの試験生を指導するので手一杯です」


「そうですよね。理解できます」


「ですが、新しく目覚めたものを遊ばせておくのも惜しい。第四魔法訓練場に案内しますのでそこにいる教師から指導を受けてください」


「……いいのですか?」


「言ったでしょう、遊ばせておくのも惜しい、と。回復属性なら安全ですが火属性ともなると大怪我……やけどの危険がありますからきちんと指導者がいないと危ないので特別です」


「ありがとうございます」


「いえいえ。ではこちらです」


 教師に案内された第四魔法訓練場では在校生たちが魔法の訓練をしています。

 さまざまな属性が入り乱れ的をめがけ飛んでいく、美しい光景ですね。


「……おや、どうされましたか? クリス先生は試験生の指導だと思いましたが」


「ええ、この子なんですがこの時間だけ預かっていただけませんか? 試験生の中で唯一火属性に目覚めまして」


「……なるほど。指導の手が足りないと。君、名前は?」


「はい、エミルと申します」


「はは、硬いな。まあいいか。ここでなら火属性の魔法を使っても問題ない。指導もしっかり行うから頑張るように」


「はい。お願いします」


「では、よろしくお願いしますね」


「ええ、クリス先生も試験生の指導を頑張ってください」


 クリス先生が戻っていくと、ここの在校生たちを指導していた先生から火属性魔法について指導を受けます。

 ですが……。


「ファイアショット!」


 火の玉は一瞬出現するのですがポフンという音をたててすぐ消えてしまいます。

 なにが悪いのでしょう?


「うーむ……困った。見た限り魔力の流れも集中力も悪くない。むしろ洗練されている。それなのにファイアショットが成立しないとは……」


「申し訳ありません。お手数をおかけしてしまい」


「気にするな、我々教師の役目は指導なのだからな。……だが困ったな。先に見せてもらったサンダーバレットは問題なかったことを考えると魔力不足などではないのだが……」


 どうやら教師でも理由がわからないようです。

 僕も理由がよくわからないため説明できないから当然ですか……。


「先生、どうしたの。……あれ、エミル君だ」


「うん、ミリアか。知り合いだったのか?」


「一昨日に体験入学? にきてたの。なにかお困りごと?」


「……ミリアならわかるかもな。ユミルは火属性に目覚めたのだが魔法がさっぱり発動しなくてな。原因を調べている」


「そうなんだー。一回使ってみて」


「わかりました。ファイアショット」


 また一瞬だけ火の玉が発生して消えてしまいます。

 本当になにが悪いのでしょうか。


「原因がわかったよ」


「え?」


「……さすがだな。原因は?」


「あの、ミリアちゃんの言うことをきいてみるのですか?」


「ああ、お前は試験生だから知らないか。ミリアはこの手の原因を探ることについては教師より上手だ。だまされたと思って一度話を聞いてみるといい」


「いえ、だまされたと思ったわけでは……すみません。話の腰を折ってしまい」


「気にするな。誰でも同じ反応をする。むしろいまの反応を示さない方が不自然だ。……それでミリア、原因は?」


「ええとイメージ不足だと思う。身近に火属性の魔法を使う人がいなかったとか生活魔法でも着火を使ったことが無い人特有の不自然さがあったよ」


「……エミル、当たっているか?」


「はい。身近に火属性魔法を教えてくれる人も使っているところを見せてくれる人もいませんでした。生活魔法は覚えていますが着火は使ったことがありません」


「ふむ、言葉遣いが硬いとは思ったがかなり裕福な家庭で育ったようだな。しかしそういうことなら話は早い。ミリア、お手本を見せてやれ」


「はーい。ファイアショット」


 ミリアちゃんの突き出された右手に集まった火の精霊たちが火球となりやがてはじき出されます。

 ……すごい。

 いままで何回かマルチバレットのひとつとしてファイアショットを見てきました。

 ですがファイアショット単体だとここまで洗練された美しさを見せてくれるのですね。


「どう? いまのでわかった?」


「……試してみます。ファイアショット!」


 今回は溜め時間も多めに取りゆっくりと確実に火球を作り出します。

 そして一気にそれを打ち出すイメージで!


「おお、できた!」


「ほほう、今日覚醒したばかりにしては上出来だ!」


 ミリアちゃんや先生の言うとおり、今回はきちんとしたファイアショットが撃てました。

 もっともなんとか的に届く程度でしかなく、的を揺らすこともできませんでしたが。


「……やっぱりうまくいかないものですね。初めての属性は」


「当然だ。最初からうまくいくなら誰も苦労しない」


「それもそうです。これからも精進します」


「その意気だ。そう思うだろう、みんな!」


 先生がかけ声をかけると背後から割れんばかりの拍手が聞こえてきました。

 そういえば、魔法の練習音が止んでいる?


「いい心がけだぜ、試験生! これからも努力しろよ!」


「そうそう! 誰だって最初はへなちょこなんだから気にしないの!」


「がんばれよ! お前が入学できたらしっかり教えてやるからよ!」


「お前知らないのかよ、試験生の段階でも教えてやることは禁止されてないぞ?」


「マジか。じゃあいまから教えてやる! こっち来い、こっち!」


 在校生の先輩たちのあたたかい言葉に涙が出そうになりますがぐっとこらえます。

 そして、お言葉に甘えて在校生たちからさまざまな技術を教えていただきました。

 この学校は本当にいい学校ですね……。

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