223.学校対抗戦 2

 第2試合である馬上弓術は予定よりかなり遅れて開始されることとなった。

 会場の方では近衛騎士団による演舞が行われて場を暖めているが、おかしく思っている観客もいるだろう。

 もちろん裏方では慌ただしく動き回っている。


『弓を渡そうとした係員はシロだ。問題はそれを渡すように命令した人間だが、こいつが行方をくらましやがった。こうも簡単に姿を消せるあたり協力者も多かろうよ』


「わかりました。それで試合の方は?」


『新しく弓を用意して渡した。いまは裏で射撃練習をさせている。もうすぐ入場だがな』


「わかりました。それで、的の方は?」


『そっちにも仕掛けがあった。新しい的を作らせた。元々のヤツよりも難易度を上げさせてもらったがな』


 国王陛下が面白そうな声で語りかけてくる。

 さっき、俺がこっちの代表は20個の的を射貫いたと聞いたから難易度を上げたんだろうな。

 相当お冠らしい。


『お、入場時間のようだ』


「ですね。……やはり、王立学院は軍馬ですか?」


『のようだ。相当人慣れしてやがるが……ライドホースには劣るな』


「こっちは従魔ですからね」


『確かに。さて、王様のお役目を果たしてくるわ』


 国王陛下のお声がけが始まり、両校代表者が膝をついて話を聞いている。

 だが、王立学院の生徒はかなり緊張しているな。

 さて、あの理由はなんなのか。


『……以上である。それでは其方たちが射貫く的を見せよう』


 国王陛下の言葉で新しく用意されたという的が披露される。

 それは、闘技場の三方の壁沿いに用意された的で……総数は20個を超えているんじゃないかな。

 そして、中には動く的も用意されており、かなりの高難易度だと見て取れる。


「すごいですね。これ、大丈夫なんでしょうか?」


 エイス王子がそんな声をかけてくるが……何が大丈夫なのだろう?


「あ、言葉が足りませんでしたね。フェンリル学校の代表者はこれを射抜けるんでしょうか?」


 ああ、そういうことか。


「それでしたら大丈夫でしょう。さすがに全部は難しいでしょうが、かなりの数を射抜いてくれると思います」


「それはすごいです! 期待しています!!」


「います!」


 エイス王子とエレーナ王女は興奮した様子で窓の方へと近寄っていく。

 この窓、マジックミラーらしいので、近寄っても姿を見られる心配はないそうだ。


「さて、まずは王立学院の代表者からですね」


「はい。あちらも代表なのですから相応の実力者なのでしょう」


「……だといいんですが」


 王立学院の代表が弓術披露を開始するがなかなか的に当たらない。

 そればかりか、馬を曲げる際にはかなり大きく弧を描かせなければいけないような状態である。

 動く的には一本も当てることができず、結局的に当てられた矢の数は9本だけであった。


「うーん、あれで代表だったのでしょうか?」


「元々は馬をまっすぐ走らせるだけで、的もまっすぐ等間隔に並んでいるだけでしたからね。それをこれだけ改造したんです、無理もないですよ」


「ですが、物足りません。フェンリル学校の代表者に期待します」


 その後、射貫かれた的の交換も終わり、フェンリル学校の代表……リンがスタート位置にライドホースを移動させる。

 開始の合図があると同時、ライドホースを走らせ次々と的を的確に射貫いていく様は圧巻であった。

 動く的も難なく射貫き、馬を曲げるときも最小限の動きで実現、三方にある的すべてを射貫いて終了。

 これには観衆も大いに沸き立ち拍手でリンの雄姿をたたえている。

 だが、これに物言いをつけるものが現れた。


「国王陛下! 恐れながら、あのものは不正を行っておりますぞ!!」


 俺たちの反対方向にある席から突然、貴賓席へと近寄るものがいた。

 もちろん、そのような暴挙が許されるはずもなく、近衛兵によって取り押さえられているのだが。


『ふむ、何を証拠に不正を行っているというのかね。王立学院弓術長?』


 国王陛下は拡声の魔導具を使った上で近寄ってきた相手を問いただす。

 王立学院の弓術長と呼ばれた男はそれに臆することなく言葉を続けた。


「はっ! 私どもの魔術師が調べましたところ、あの弓からはエンチャント特有の魔力波が検知されたとのことです! そのような暴挙を行うなどまこと許しがたい……」


『もうよい! あの弓は我が命じて新しく用意させたものである! 選手に渡したあとも近衛騎士が2名以上必ず見張りにつき不正ができないようにしておる! それを不正な魔力波が検出されたなどと言う戯れ言を抜かすとは許しがたいわ!』


 国王陛下のこの言葉に会場はざわめき出す。

 ……これって不敬罪とかになるんじゃないのかな?


『後日改めて調べようと考えておったがこの場で告げさせてもらおう。王立学院の代表者に渡される予定だった弓には最上級の誘導魔法エンチャントが施されていた。また、元々使用されるはずだった的にはそれに対応する誘引のエンチャントが刻まれていた。さらには、フェンリル学校の代表に渡される予定だった弓は数回使った時点で折れるような細工も施されていた!』


 今度の発言で会場のざわめきはさらに増していった。

 明らかな不正行為が行われようとしていた事が、国王陛下の口から発せられたのだから当然か。


『黙っていれば後日の取り調べですんだものの……近衛兵! このものを捕らえ調べろ! 今回の不正に関わっている疑いがある!』


「そんな! 陛下、私はただ!」


『黙れ! なにもなければそれでよかったが、自ら事実無根の戯れ言をほざくとは許さぬ! 連れていけ!』


 国王陛下の命令により、弓術長とやらは退場。

 陛下は改めてお言葉を述べて会場のざわめきを静めた。

 そして、念のためということで係員の手により両代表の弓を交換してもう一度試技を行うこととなる。


 今回はフェンリル学校が先手だったが、問題なくすべての的を射貫くことができた。

 対する王立学院側も、二度目とあって少し慣れたのか12枚の的を射貫くことに成功する。

 これにより、弓による不正はなく、互いの技量差のみが勝敗を分けたことが決定的となった。


『両校代表ともその技、しかと見せてもらった。今後も研鑽をおこたらず、より高みを目指すがよい』


 国王陛下のお言葉を受けて両校代表が控え室へと下がっていく。

 そして、俺のところには伝声の魔導具越しに少々興奮した様子の声が届いていた。


『フート! お前ら、どんな隠し球を用意してやがったんだよ! あれを二回やってどっちも全部射貫くとか王宮騎士団でも難しいって話題になっちまったぞ!?』


「本人の頑張りですよ。それにしても、とんだ言いがかりをつけてきたものですね」


『言いがかりをつければどうにかなるとでも思ってたんだろ? あれが王立学院の現状だ』


「心中お察しいたします」


『そんなもんはどうでもいい。黒旗隊のスカウトを必ず向かわせるからスケジュール調整を頼むぞ!』


「学校長に伝えておきます」


『本当に頼むぞ! 軍務卿のヤツもあれほどの逸材をとりこぼしたら黒旗隊の恥だって言ってるくらいなんだからな!』


「わかりました。次は魔法的当てですが……そちらは大丈夫なのでしょうか?」


『あ? 大丈夫じゃなかったぞ? だから裏で新しい的を急ぎ作らせた。難易度も上げたが、いままでの経過を見れば問題ないだろ?』


「……こっちの代表は曲芸みたいな的を射貫きますので」


『なら安心だ。あと、魔法の媒体……要するに杖だがこいつは相性もあるから持ち込みということにした。大丈夫だな?』


 魔法の杖は持ち込みか、変な妨害を受けないでよかったな。

 ……あれ、でも……。


「すみません。うちの代表、杖を使っている記憶がないです」


『杖なしで的当てとかバケモンだな。結果次第ではそっちもスカウトしていいか?』


「申し訳ありませんが断らせてください。魔法的当てと魔法演舞の代表は年少組、10歳以下なのです」


『……あー、それはスカウトできないな。つばをつけとくくらいは許してくれ』


「それくらいでしたら。あとは本人の意向次第です」


『わかった。……試合の準備ができたようだな』


「……これまた複雑な的ですね」


 用意された的は高さ3メートルくらいの台座にちりばめられている。

 弓術と同じように動く的も存在しており、高度な技術が要求されそうだ。


『設計部の連中も悪乗りしたみたいでなぁ……いけるか?』


「……昨日、学校で見た的より簡単ですね」


『……安心した』


 魔法学科の教員たちにはもう少し加減を考えてもらおう。

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