197.3人の訓練 休憩編
「フート、そっちの調子はどう……って聞くまでもないわね」
「ああ、順調すぎて怖いくらいだった」
いろいろな魔法を試した結果、いままで習得していた魔法も威力が上がっていたリコ。
いまはMPを回復させるために休息中だ。
リコ本人は魔法を使った回数に対してMPの減り方が少ないことに驚いていたが……まあ、精霊が自主的に力を貸していたからな。
MPの消費も大分軽減されていたのだろう。
なお、いまは休んでるリコに対してミラーが嬉しそうにじゃれついている。
なんというか、微笑ましいというか……テラとゼファーにもあんな頃があったなぁ。
「そっちの調子はどうだ?」
「バルトはいい感じに仕上がったわよ。私の攻撃をブロックするだけならなんとか食らいつける程度にはね」
「ふむ。順調そうだな」
「本人は反撃する暇がないってへこんでるけどね」
「たまには撃ち込ませてやれよ……」
「いや……ついね……」
「で、バルトは?」
「かなり疲労しているからミキが様子をみているわ」
「ならよし。アキームの方は……」
「こっちも仕上がってるにゃ」
「リオン」
「いままで両手剣ばかりだった分、慣れるのに時間はかかりましたがアタッカーとしてはなんとかいけますにゃ」
「そうか。で、そのアキームは?」
「ミキ殿のところでバルトと一緒に休ませているにゃ」
「……なら俺たちもそっちに行くか」
「それもそうね」
「ここにいる理由もないにゃ」
「おーい、リコ。アキームたちが休んでいるところに移動するぞ」
「はい、わかりました! 行こう、ミラー」
俺が呼びかけるとすぐにリコは駆け寄ってくる。
ミラーもその足元についてきており、子犬が飼い主について歩くようで本当に微笑ましい。
……まあ、レッサーフェンリルなんだけど。
「それではアキームとバルトが休んでいるところに向かいましょう。……リコ、あなたは疲れていない?」
「しっかり休ませてもらいましたから。それに、なんといえばいいのか……疲れが取れるのが早い気がして」
「ふむ、なにか新しいスキルに目覚めたのかも知れませんにゃ?」
「……スキルってそんな簡単に目覚めませんよね?」
「アキームは剣術レベルが1上がったにゃ」
「バルトは盾術レベルが1上がってスタミナ回復速度上昇ってスキルを覚えたって言ってたわよ?」
「そうなんですか。……あ、私も瞑想と魔力回復速度増加というスキルを覚えてます」
「にゃー、それはすごいのにゃ。魔力回復速度上昇は魔術師には可能な限りほしいスキルなのにゃ」
「ですよね。……でも、どうしていきなり覚えられたんでしょう?」
「細かいことを気にするのは今度でいいんじゃない? とりあえず、あのふたりのところに行ってあげなさいな」
「あ、そうですね。では失礼します」
俺たちに一礼してからリコは駆け出していく。
さて、残った俺たちはというと……。
「フート、あの子に余計な手をだしていないでしょうね?」
「失礼な言い方だな。せいぜい、周囲の精霊たちにこっちを注目させていただけだ」
「なるほどにゃー。それで精霊があの子を気に入ってスキルを与えたんだにゃー」
「……そうなのか?」
「魔力回復速度上昇は精霊の密度が濃いところで修行すると得やすい、という研究成果が出ているにゃ。フート殿がいるだけで周囲の精霊の気配が強くなっているのに、さらに精霊があの子を注目したことによってスキルを得られたんだと思うにゃ」
「……やり過ぎたか?」
「まあ、大丈夫だと思いますにゃ。あの年齢では珍しいですが、高レベルになれば必然的に覚えに行くスキルですからにゃ」
「覚えちゃったものは仕方がないしね」
「……やり過ぎないようにしよう」
「無理だにゃ」
「無理ね」
「失礼な」
「さて吾輩たちもあちらに合流だにゃ」
「そうね。行くわよ」
「ああ。わかった」
俺たちの間での話し合いを終えて弟子たちの元に行くと、アキームやバルトも復活していた。
それをみて首をかしげているのはふたりを鍛えたリオンとアヤネだ。
「あなたたち、もう起きて平気なの?」
「はい。さっき、リコがきたときにミラーがやってきて光ったと思ったら体が軽くなって……」
「そうなんですよ。ミラーの魔法でしょうか?」
「うーん、その成長レベルだと魔法はまだ使えないはずなんだが……」
「フートさん、いままで発見されたことがないんですよね、回復属性のレッサーフェンリルって」
「……そう考えると何らかの能力を持っている可能性はあるか」
「そう考えるのが自然だにゃ。さしずめスタミナ回復スキルかにゃ?」
「だと嬉しいです。怪我は回復魔法で治せても、スタミナは回復できませんから……」
「スタミナ回復のできる回復魔法って最上位クラスだからな……」
「え、フート先輩、知ってるんですか?」
「レベル5の状態異常回復魔法がスタミナも回復してくれる。レベル5魔法だからMPの枯渇にも気をつけなくちゃいけないんだがな」
「確かに。厳しそうですね、先輩」
「さて皆さん揃いましたしお昼にしましょうか」
「そうだな。休めるうちに食事も済ませてしまおう」
「食事……あ、俺たち携帯食持ってきてない……」
「そういえば、宿においてきたまんまだ……」
「すみません、先輩方……。浮かれてしまってて……」
「今日のところは気にすんなにゃ。どうせ、携帯食を食べさせる予定はなかったにゃ」
「へ?」
「ミキ、3人の分もあるよな?」
「というか私たちの修行が大分早く終わりましたから作り置きも食材もかなり余ってますよ?」
「じゃあ作り置きで済ませましょう」
「だにゃ」
「あの、先輩方、なんの話を……」
「あ、ちょっと待っててくださいね。その間に手を洗っておいてください」
「あ、はい。わかりました」
「そういえば、3人とも生活魔法は?」
「俺たちは覚えてます」
「というか、小さい頃に覚えさせられました」
「お爺ちゃん、昔苦労したそうで……」
「いいことだにゃ」
「……うん、今日はサンドイッチにしましょう!」
「あの、どこにサンドイッチが?」
「いまから取り出しますね」
ミキはアイテムボックスからサンドイッチの詰まったバスケットを取り出す。
それをみて驚くのは3人の弟子たちだ。
「え、アイテムボックス!?」
「ミキ先輩ってアイテムボックス持ちだったんですか!?」
「私が、というより私たち全員がアイテムボックスを覚えてますよ?」
「えぇ!?」
「まあ、いろいろとあってな」
「あまり気にしないことね。私たちといるといろいろ常識が崩れるから」
「……わかりました。でも、秘密の方がいいですよね?」
「うーむ、どうなんだろうな? 上層部は全員知ってるし、俺たちも特段隠してないし」
「買い取りカウンターとかで魔石を出すときも、アイテムボックスから直接出してるわよね?」
「私たちがアイテムボックス持ちっていうのを知らないのは、普段ハンターギルド本部にいない人くらいじゃないでしょうか」
「……俺たち、本当にすげぇ人たちに指導してもらえてるんだな……」
「こんなチャンスないよな……」
「頑張ろう。ふたりとも」
「頑張るのはいいですがまずはお昼をちゃんと食べてくださいね。あ、お代わりもあるので遠慮なくどうぞ」
「だな。お昼を食べて少し休憩したら午後は魔物との戦闘訓練にあてる。覚悟しておけよ?」
「「「はい!」」」
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