172.1日ばかりの余暇
「ふわぁ~……おはようだにゃぁ」
「おはよう、ネコ。ずいぶんと遅いお目覚めね?」
「いやぁ。昨日は疲れましたのでにゃあ」
現在時刻は……午前9時頃だ。
この世界、特にハント中は日の出にあわせて起きているので、リオンはかなり寝坊したと言える。
「まあまあ、いいじゃないですか。今日はゆっくり休む、そう決めてあるんですし」
「まあね。私も久しぶりにだらけさせてもらってるわ。……そういえば、フート。テラとゼファーは?」
「外の結界内で走り回ってるぞ。運動不足気味だったらしいからな。この機会に思いっきり走り回りたいらしい」
「ふーん。……というか、そこまでわかるのね」
「元からかなり原始的……というか、簡単な感情は伝わってきていたんだけど、最近は細かい感情というか意思も伝わってくるようになってきてな。これも成長というヤツか」
「おそらく成長ですにゃ。前にも説明した気がしますが、フェンリル種はとても賢い生き物にゃ。なので、主人と念話で意思疎通が図れるようになれば、どんな奇襲もお手の物ですにゃ」
「ずいぶんとご都合主義で。フート、あなた今日の予定は?」
「特に決めてないな。午後からミーティングをする以外は……適当に時間を潰すさ」
「ネコは?」
「吾輩もゆっくりさせてもらいますにゃ。昨日の疲れが抜けきっておりませんにゃ」
「うーん、ミキは~?」
俺たちふたりがダメとなると、今度はキッチンにいるミキに声をかけ始めた。
アヤネは相当体を動かしたいらしい。
「はいはい、なにかご用でしょうか?」
「今日の予定を聞いてみたかったの。ミーティングの後ってどうするつもり?」
「ミーティングの後はいま仕込んでる料理の続きです。晩ご飯は期待してくださいね」
「ミキもダメか……」
完全に当てが外れてしょげかえるアヤネ。
っていうか、体を動かしたいならうってつけの相手がいるぞ。
「戦闘訓練をしたいならテラとゼファーに頼んでおくぞ。ブレス攻撃に気をつければなんとでもなるだろ?」
「……そうね、それが一番よね。あの2匹も体を動かしたがってたわけだし」
「一石二鳥にゃ~。ついでに吾輩たちものんびり休憩できていいことづくめにゃ~」
「ネコ、本当に今日はやる気がないのね」
「最低限、型の練習とかをしたら終わりにするにゃ。それだけ疲れているってことにゃ」
「ふーん。でもミキは割と元気よ?」
「私は、寝る前にフートさんから回復魔法をかけていただいたので……」
「回復魔法で疲労がそんなに抜けるものなのかにゃ?」
「弱めのプラーナかエイルをじっくり相手の体に馴染ませるように使うんだよ。そうすると、疲労の回復速度が早くなる」
「……レベル5やレベル7の回復魔法で疲労軽減とは、魔法の無駄遣いですにゃ」
「いいんだよ。俺が使いたいように使ってるんだから」
「まあ、魔法は悪用しないのであれば本人の使いたいように使うのが一番ですにゃあ」
「結構効きますよ。リオンさんもやってもらっては?」
「吾輩は遠慮するのにゃ。この気だるい感じをもう少し感じていたいのにゃあ」
まあ、気持ちはわからないでもないな。
特に今日は久しぶりに完全休養とすることが決まった日ではあるし。
全員、軽装とはいえ武具を身につけてはいるが、リラックスした表情だ。
「それで、午後のブリーフィングって何をするのよ、ネコ?」
「んー、そうですにゃあ。吾輩たちのターゲットモンスターですが、この1カ月ちょっとで3体まで倒せましたにゃ」
「ストーンランナーは倒したっていうの?」
「擬態していたストーンランナーを倒せたからこそ、地龍王様は姿を現しスキルや加護をくれたのにゃ。その話は置いておくとして、ともかくストーンランナーとハーミットホーンは終了にゃ」
「残るは1匹ね。名前は……なんだっけ?」
「【毒尾の雌飛龍】フレイディアにゃ。基本レベルはレベル160とされていますにゃ」
「毒尾ねぇ。それって、いまの私たちに効く?」
「毒は効きませんが、毒を持った針……というか人間サイズではほぼ槍なのですが、そっちは驚異ですにゃ。鋼鉄程度ではたやすく貫通されますのにゃ」
「ふむ……詳しい生態は?」
「午後のブリーフィングで説明しますにゃ。ミキ殿にも説明しないといけませんからにゃ」
「それもそうね。……私はテラたちに混じって外をランニングしてくるわ」
「吾輩、まったりしてますにゃ」
「俺も昼までは適当に、だな」
「料理に集中してるときのミキ、手伝う隙がないものね」
「まったくだ」
台所でテキパキと昼食、それから夕食の仕込みをするミキを見つつ、文字通りのんびりと過ごす。
ただ、だらけてすごしているわけではなく、思いついた魔法の構成や理論なんかをメモ帳にまとめているわけだが。
リオンは……夢の中だな。
窓越しにはアヤネたちが外を走り回ってる姿も確認できる。
うん、平和だ。
そして、時間は進み、昼食後。
ミーティングの時間だ。
午前中をしっかり休養に充てたリオンはシャキッとした調子で説明を始める。
「さて、昨日で吾輩たちは2匹のモンスターと戦い終えたことになりますにゃ。ストーンランナーは地龍王様の分体ということで、あれ以上の戦闘は無意味。ハーミットホーンは無事討伐にゃ」
「ハーミットホーン、レベルのわりに強くなかったですよね。タフでしたが」
「本当はもっともっと強いにゃ。でも、吾輩たちには地龍王様由来のスキル効果があって土属性の攻撃をガンガン当てることができましたにゃ。それが要因のひとつだと思われますにゃ」
「じゃあ、次の相手はこう上手くはいかないのね」
「はいですにゃ。次の相手は【毒尾の雌飛龍】フレイディアですにゃ。先ほどフート殿とアヤネ殿には話しましたが、基本レベルは160とハーミットホーンより低いですにゃ。ですが、明確な弱点がない分戦いにくい相手でありますにゃ」
「どんなモンスターなんだ?」
「そうですにゃ……お三方は遭遇したことが無いと思いますが、ワイバーンを凶暴化、巨大化させたものがフレイディアになりますにゃ。ワイバーンには尻尾に毒の針が数本付いていますが、フレイディアには巨大な槍、あるいはバリスタのような針が一本しかありませんにゃ。それで突き刺してくるのがメインの攻撃手段ですにゃ」
「話を聞くだけだと割と単調そうだけど?」
「それを空からやってくるにゃ。横からも来るし、真上からも突き刺してくる。あるいは高速飛行からのなぎ払いなんかもしてくるにゃ」
「想像していたよりも面倒そうですね……」
「まあにゃ。ただ、巨大な毒針を持った結果か、長時間の飛行はできなくなってしまったようなのにゃ。逃げるときは全力で飛び去るのにゃが、戦闘中はそこまで長い時間飛んでいられないようだにゃ」
「……その差はなんだ?」
「おそらくは滞空距離の問題にゃ。地面にとどく程度の低い距離を維持するのが難しいんじゃないか、というのが学者の見立てだにゃ」
「逃げるときは高く飛べばいいから、気にしなくていいということか。他に気をつけることは?」
「山盛りにゃ……といいたいところなのにゃが、【地龍の毒消し】で毒が効かにゃいこのパーティには物理攻撃以外は無効なのにゃよなぁ」
「つまり毒攻撃が厄介なのね」
「毒のブレス、足の爪からも猛毒攻撃、翼からも毒を振りまく。さらには猛毒ガスを噴霧することもあるのにゃが……」
「視界が悪くなる以外は問題なさそうだな」
「にゃ」
「有効な攻撃手段ってなんでしょう?」
「特に弱点はないのにゃが……水属性攻撃を当て続けると動きが鈍くなるのにゃ。これ、ワイバーンと一緒にゃ」
「つまり、普通に戦って勝てばいいってことね! ハーミットホーンの分、燃えてきたわ!」
「まあ、怪我しない程度ににゃ。さてフレイディアはこのくらいにして、ハーミットホーンのソウル量はいかほどだったのかにゃ?」
「ああ、8億ほどだな」
「なるほどですにゃ。それで、スキルの方は?」
「俺は【ハーミットフライ】ってスキルが増えてた。消費ソウルは3億。効果は空を飛べる」
「……なんか地味ねぇ」
「アヤネ殿? フート殿が空を飛べるということは空飛ぶ魔法砲台ができたということですにゃよ?」
「…………とんでもないわねぇ」
「発動することで飛行可能に。飛行するときは別途MPを消費するみたいだが……俺にはあまり関係ないだろうな」
「でしょうにゃあ。じゃあ、スキルは覚えるのかにゃ?」
「そうするよ。使う機会はそう多くないと思うけど」
「あら、どうして?」
「飛んでるところを攻撃されたら一撃だからだ」
「……それもそうよね」
「そういうアヤネ殿は?」
「【ハーミットカウンター】と【ハーミットセンス】かしら。あわせて3億ね。効果はカウンターは……カウンターね。センスの方は魔力的な視覚とでもいえばいいのかしら? それが鋭くなって岩や壁の向こうにあるものも透視できるようになるみたいよ。魔力の塊とだけしかわからないみたいだけど」
「それでも使い方次第では有用でしょうにゃあ」
「そうね。とるつもりよ」
「ミキ殿は?」
「私は【ホーンストライク】です。名前の通り、巨大な角で貫くような攻撃を繰り出せるみたいですよ」
「ド直球なのが来ましたにゃ」
「難しいのがくるよりも性に合ってます!」
「じゃあ、3人とも覚えるということで。残りはレベルアップに回すのですかにゃ?」
「俺はそうする。ふたりは?」
「私もあげておくわ。次の相手がハーミットホーンより格下でも油断はできないし」
「私もです。備えなくちゃですね」
「じゃあ、ブリーフィング終了にゃ。今日はゆっくり骨休めをして、明日からまたモンスター狩りのために行動開始にゃ!」
というわけで、ブリーフィングも無事に終了した。
俺は飛行能力を手に入れたわけだが……どこまで使えるのやら。
そして、その日の夕食はかなり手の込んだメニューが並んだ。
久しぶりにこんな夕食を食べたので疲れも一気に吹き飛んだよ。
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