99.テイマーギルドの大騒動 質疑応答編

「なにをバカな! そんなことをしたら夜までかかってしまうぞ!? 私だって聞きたいことは山ほどあるのに!!」


「とにかく、いくつかであっても質疑応答はします。マルガさん、マイク」


「くっ……というわけで急遽、質疑応答となった! 質問のあるものは挙手するように! くだらない質問だったら、後から袋だたきに遭う覚悟をしておけよ!?」


「マルガさん、怖いって。もっと気楽にいこうよ。……っと、そこの年配の方、どうぞ」


「儂は学校で教授職を勤めさせていただいているものです。研究分野は『後天的属性の開眼』。レッサーフェンリルとの契約には、レッサーフェンリルと同じ属性が必要となりますが、この場合先天的な属性能力のみ有効か後天的な属性能力も有効か。どうお考えでしょうか?」


 うわぁ、いきなり専門的な質問が来たよ。

 でも、学校で教授職ってうちの学校かな?

 違ったら是非とも引き抜きたい人材なんだけど。


「えーとそのことなんですが、現時点では正直わからないというのが答えでしょう。自分の場合、先天的に精霊系五属性を授かっていましたし後天的属性を授かる余地はありません。なので、それは今後の研究課題としていただければ幸いです。それに、先ほど話したとおり、レッサーフェンリルは魔法を食べて育つので、魔法を育てるにも好都合なのです。もし後天的属性でも契約できるならばとても素晴らしいことだと思います」


「おお、おお! そうですな! 学会連中は馬鹿にして予算も出さなかったというのに、この街の学校に来てみれば後天的属性取得の原理を教える代わりに研究費用を出してもらえるという夢のような日々を送らせてもらっていただいております! 必ずや、この課題、どうなるかを皆様にお伝えしたいと思いますぞ!」


 あ、やっぱりうちの学校の教授だった。

 しかも子供たちに後天的な属性能力を教えてくれているのか。

 今後が楽しみだな。


「さて次は……そこのライトアーマーの人」


「当ててくれてありがとう。見てのとおり、あたいは二匹のレッサーフェンリルを連れて旅をしているんだ。テイマーギルドの会報も読んで魔法で育てることも覚えて順調に育てている。ただ、最近この二匹の仲が少し悪いんだよね。原因はわかるだろうか?」


 原因、原因か……。

 レッサーフェンリルは賢い生き物だから……。


「どちらか一方にかまっている時間が長いとか、そう言うことはないですか? 例えば、片方だけ上位魔法を覚えたから1~2発で終了して、もう一匹にはたくさん食べさせてとか」


「……あたりだよ。最近、火属性がレベル3になってね。この子も喜ぶからそっちを与えていたんだけど……そうかかまってやる時間か。そこまで考えが至らなかったよ」


「レッサーフェンリルは賢いですし、元来さみしがり屋な生き物とも思えます。周囲に敵の気配がなければ、自分の身体を擦り付けてくるような行動に覚えはありませんか?」


「……ああ、あるね。そうか、さみしがり屋なのか……これは考え方を変えなくちゃいけないね」


「では、今日からはそのようにして扱ってあげてください。食事が終わった後、一緒にでもいいからかまってあげれば機嫌はすぐに良くなると思いますよ」


「わかったよ。ありがとう」


 その調子で、質問がいろいろと続き、わかる範囲で回答していった。

 そして、マルガが本当に時間が押してきているということで最後の質問としたとき、ついに待ちに待った質問が出てきた。


「質問の許可をいただきありがとう。私はハンターを生業とするもの。もちろんテイマーギルドの会報もチェックし育てているが、私の相棒の成長が頭打ちになってきているのだ。……これはこの場にいるものすべてが遠慮して聞かなかった、そして全員が知りたかった質問だろうがあえて聞かせてもらいたい。レッサーフェンリルからフェンリルへの進化条件、それを教えてくれまいか!」


 その質問がついに飛び出したことで、会場は騒然となる。

 当然だろう、この質問の答えがわかれば、フェンリルを育てることが現実的なものになるのだから。


「皆様、ご静粛に!! 今回の質問の回答に関しましては、不明瞭な部分も多いと思われますので後日改めて……」


 マルガが会場を修めようとするがざわめきは収まらない。

 さて、それじゃあ、仕上げといくか。


「皆様、静粛に。いまあった質問の答えですが、自分が体験した範囲での答えなら教えて差し上げますよ」


 俺のこの言葉に、会場がピタッと鳴り止む。

 そして、固唾をのむ音が聞こえてくるようだ。


「フート殿、本当にいいのか? この条件を販売すれば巨額の富になるぞ?」


「俺はハンターですから、稼ぎはそっちで出しますよ。それよりも他の人が生み出したフェンリルというのも見てみたい」


 さあ、打ち合わせは済んだ。

 ここからが本番だ!


「まず、進化の絶対条件と思われるものですが、レベル5の魔法を十分に毎日与えていることです。最低でもそのレベルの魔法を与えられない限りは進化できません。次の条件と思われるのが、飼い主のレベルが80になることです。自分の場合も、レベル80になった途端、二匹に変調が訪れましたから。これが絶対条件です」


 会場はまだ静かなままだ。

 俺の言葉、そのひとつひとつを聞き取るのに必死らしい。


「次に進化の方法です。進化の変調が始まったレッサーフェンリルにレベル5以上の魔法を食べさせ続けてください。自分はあえてレベル5魔法を選択しましたが、少なくとも十回以上を連続で食べさせています。MPに自信がない方……というか普通の人は確実にMPが足りないと思うので高品質なMPポーションを複数用意しておくのがお勧めです。変調の途中で魔法を与えるのを中断した場合、どうなるのかわかりませんので」


 実際、あのとき止めていたらどうなっていたかわからない。

 ひょっとすると暴走状態になって、飼い主たちに襲いかかっていたかもな。


「また、前回、ある程度以上進化したレッサーフェンリルには副属性を持たせられるものもいる、とお伝えしましたが、進化の際には主属性の魔法を与え終わった後に副属性の魔法をさらに与える必要があります。こちらも可能ならばレベル5推奨です。……ここまで話を聞いていただけばわかるように、フェンリルへの成長は、恐ろしくMPを消費します。また進化途中で魔法が途切れた場合、暴走して飼い主を襲うなどの危険性も考えられますので、十二分に高品質MPポーションを準備してください」


 聴衆が息をのむのがわかる。

 それだけの大発見なのだから。


「以上がフェンリルへ進化した際の状況になります。これだけが条件ではないかも知れませんが、ご参考までにどうぞ」


 そして、俺を迎えてくれたのは万雷の拍手であった。

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