【斬鎧の武者】アグニ
53β.【斬鎧の武者】アグニ
「【斬鎧の武者】アグニ、レベル89ですにゃ」
レベル89か……。
グラニーゴブリンとレベルはほとんど一緒だが、まとっている覇気とでも言うのだろうか、空気がまったく違う。
これほどの強者が、なぜこんな場所に来たんだろう。
『問おう。この中に、あの悪食を倒した者達はおるか?』
悪食?
悪食ってなんのことだ?
『……ああ、悪食では通じなんだか。グラニーゴブリンと名乗っておったうつけ者じゃ』
なるほどあいつか。
……って、ご指名は俺たちか!
全員の視線が俺たちに集まる。
『ほほう。先ほどの門を吹き飛ばした小童か。なるほどどおりで。それならば納得もいく』
この空気、さっきまでのものとはまったく違う。
これが殺気というものか。
射すくめられた身体が、まったく動かない。
『……ふむ、悪食を倒したのなら吾とも戦えるかと思っていたが……どうやらさすがに無理のようじゃな』
「口を挟むご無礼をお許しくださいにゃ。吾輩、リオンと申すもの。吾輩の鑑定では其方様はグラニーゴブリンとほとんど同じランクのレベル89と出るのですが……本当にそうなのですかにゃ」
『ふむ。我が偽装を看破できぬか。なら教えてやろう、吾のレベルは226じゃ。いまのお前たちが束になって挑んでも、太刀打ちできぬことはわかったであろう?』
「……はは、さすがになにもできそうにありませんにゃ」
『うむ、そのことはわかっている。それでだ、其方の全力の魔法、吾に打ち込んでみせよ』
「全力で……ですか」
『うむ。属性も問わん。吾は光魔法程度克服しているのでな』
全力魔法となればやはりマキナ・アンガーだろう。
ちょうど天候も雨。
雷精たちも集まってくれやすそうだ。
全力で魔法を撃ってこいという、アグニの意図はわからないがやるしかないな。
「わかりました。ただ、魔法の詠唱と集中に1分から3分程度かかると思いますので、その間はご容赦ください」
『たったそれだけでいいのか。何分でも待つぞ?』
「あまり長い詠唱時間を取ると、集まってくれた精霊が散っていってしまうんですよ。だから限界はこの時間です」
『おお、いいぞ、いいぞ! その年齢で、精霊魔法の理を理解しているとは! さぞ楽しませてくれよう!!』
「ではいきますよ……」
精神を集中し、普段は使わないマキナ・アンガーの詠唱準備をする。
マキナ・アンガーの詠唱句も、一字一句頭の中に刻み込まれているからなにも問題ない。
俺の周囲に雷精たちが集まり始め、身体を照らす。
その輝きが頂点に達した今、すべての魔力を込めマキナ・アンガーを撃つとき!
〈我が意に集え雷精たちよ。真なる力の一部を開放せよ。それを統べるは我の意思、輝き放つは精霊の力。放たれたるは人知を超えた真なる閃光。ゆけ! 輝きを立ち塞ぐすべての愚かなるものに鉄槌を!! マキナ・アンガー!!〉
『おお、たったひとりで聖句を唱えきり、聖法を具現せしものが誠にいようとは! 感謝しますぞ! 赤き星よ!』
アグニが感傷にひたっている間に、マキナ・アンガーがその巨体を撃ち砕かんとする。
マキナ・アンガーは普段とは違い、俺の身長にも匹敵する太さを持った光の柱となって迸っている。
だが、アグニの身体はその膨大なはずの破壊の奔流を受けてなお、微動だにせず立ち続けていた。
俺とアグニの間にある大地は黒く焼け焦げているので、その威力は間違いないはずだ。
だが、アグニとっては小揺るぎさせるほどの力にもならないらしい。
やがて、雷光の奔流も収まり俺の魔力が底を尽いて膝をつくと、アグニは腕を組みながら満足げな様子で話しかけてきた。
『……いや、いいものをみせてもらったぞ、小童よ。名をなんと申す』
「俺か、俺はフートだ」
『そうか、フートよ。我を倒せるほどの力を磨け。不甲斐なきことに我もモンスター、今はともかく、本能にきざまれた破壊衝動は抑えられぬ』
モンスターなのにこれ以上戦わないのか?
それに破壊衝動を抑えるってどういう意味だ?
「いや、倒せるほどの力って……それに、それじゃまるで自分がモンスターであることを拒絶しているかのような……」
『まずは1年待とう。約1年後、またこの山にやってくる。そのとき吾を倒せるならよし、無理であれば再びいったん身を隠そう』
「……そんなこと、できるのか」
『あと2年程度ならな。この身に宿りし破壊衝動も抑えられよう。2年後ここに現れたとき、幾分かは理性を残しているはず。だが、そのときには完全な鬼に成り果てよう。お主たちも全力で我を討伐するのだ。さもなければ都のみならず、国を揺るがすほどの災いとなってしまうであろう』
「他のハンターや冒険者がアンタを倒してしまうというのは?」
『望みが薄いな。吾が鎧は半端な武器をすべてはじき、吾が刀は半端な鎧や盾を一刀両断する。挑んでくるのはよいが、どれだけの犠牲が出るか。お前たちは赤の明星であろう。その神器を使った攻撃や神器を通した魔術であれば我が鎧も貫けるし、神器の防具であれば吾が刃も防げるというものだ。鎧さえ破壊すれば、普通の武器でも傷を負わせられるだろうがな』
「あー、俺はハンターギルドのマスターなんだが、一応話を各所に通さなきゃいけないんだわ。それで、アンタを討伐しようとなったとき、どこにいるのか教えてもらえるのか?」
『よかろう。人が近寄らぬ山奥に存在する滝、彼岸の滝。普段はそこを根城にしている。吾と戦いたい命知らずがいれば挑みにくるがいい』
「ありがとうよ。ちなみに、あの門の向こう側にいたゴブリンたちの姿が見えなかったんだが?」
『吾が潰しておいた。矢のようなものを使う子鬼までは面倒で潰さなかったがな』
「そりゃどうも。……で、あんたは帰るのかい」
『ああ。今日はこれにて仕舞いよ。そうそう、フートよ、先ほどのマキナ・アンガーでは、3000発は撃ち込まないと吾を倒せんぞ。精進することだ』
それだけ告げると、アグニは山の向こうへと姿を消した。
レベルが低いことは認めるけど、マキナ・アンガーで3000発ってどうしろって言うんだよ!
《システムメッセージ:【雷精霊魔法レベル7】の熟練度が規定値に達しました。【雷精霊魔法レベル8】をアンロックします》
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