庭園に花は狂い咲き ―2
火龍を倒し、カトレアさまに名乗った。
その直後に、サレナはようやく追いついてきた龍害鎮圧班の皆様にとっ捕まった。
あるいは"保護された"と表現するべきか。
カトレアさまはその名乗りに全く納得いっていないようで、まだサレナに何か言いたげな様子であったし、サレナとしても愛しの人との会話をまだもう少し楽しみたい心境ではあったのだが、結局その場でお互い引き離されてしまった。
そして、悲しいことに以降は再び顔を合わせることなく今回は別れてしまうことになるのだが、サレナにとってはここで出会ってしまったこと自体が自分の考えている計画にとっては
さて、保護された後、当然鎮圧班の責任者に色々と詰問を受けることになったサレナだが、その事情聴取にはまったく素直に応じて、一切隠すことなく自分の素性を明らかにした。
もちろん、前世の記憶があることは誰にも喋らず墓まで持って行くつもりの秘密である。
しかし、それ以外――孤児院に住む少女であるサレナ・サランカとしてのプロフィールや、経緯はかなりぼかしつつも“とにかくある日自分が魔力に目覚め魔術を扱えるようになった”こと、それによって生まれ住む街に危害を加えようとしていた火龍を一人で撃退したことなどは、全て今回の出来事の顛末として正直に話した。
本来ならば夢見がちな女の子の作り話として一笑に付されてもおかしくない、そんなサレナの荒唐無稽な供述であったが、実際に首を斬られて息絶えた火龍と、全てを目撃していたカトレアさまの証言もあり、一応これが事実であるらしいと認められるには至った。
しかし、そんな信じ難い出来事が事実であるせいで、またしてもサレナにとって別の面倒な事態が発生することにもなってしまった。
サレナは自分がそうやって魔力を持っている存在であることが判明すれば、ゲームであった流れの通りにそのまま、"それ"を保護する名目で魔術学院に入学出来ることになるだろうと気楽に考えていたのだが、ゲームと違って現実ではそれに至るまでに非常に面倒な経緯を辿ることとなってしまった。
そして、そうなったのには、サレナがオープニングイベントの流れをねじ曲げてしまったことにもある程度の原因があった。
とにかくそんな、いくら鎮圧班によってある程度弱った状態にあったとはいえ、単独で火龍を撃破してしまうような少女の扱いを誰もがどうするべきかすぐには決定出来なかったのだった。
そのせいで、ひとまずサレナは当日は一旦孤児院に帰されて大いに自分の誕生日パーティーを楽しむことは出来たものの、翌日から即座に厳重な監視付きで、あくまで丁重な扱いではあるものの拘留されることになってしまった。
「……あれ~……?」
どうしてこうなった。
サレナは拘留用としてあてがわれた小綺麗な部屋の、孤児院のものよりふかふかなベッドに寝転びながら、そう自問自答した。
なんだか、面倒なことになってしまった。
檻を破って逃げ出すことは簡単に出来そうだったが、それはそれでまた別の面倒を呼び込んでしまいそうな気がする。
ここはひとまず、ひたすら大人しくしておこう。
サレナはそう決めて、拘留期間中をなるべくお行儀良く振る舞っておいた。
果たして、その選択こそが正解だったらしい。
サレナの存在はその時、サレナには考えもつかない程の社会的な上層部までその取り扱いについての判断の話が及んでしまっていたのだが、一応今のところはその魔力と魔術以外はごく普通の少女であるということで、当面の危険性はないとして一旦"保護観察に近い扱いで魔術学院に入学させて様子を見る"ということになった。
こうして奇跡的にゲームでのサレナに近い結果へと着地することは出来たのだが、その裏側には大きく差があるものだった。
希有な才能の保護が目的とされていたゲームのそれと違い、こっちのサレナについての扱いは、要は"猛獣を檻に入れてしばらく様子を見ることにしよう"というものであった。
とはいえ、結果は結果である。
サレナは晴れて無事に、当初の目論見通りに魔術学院へと入学出来ることとなった。
結局それが全てであるし、サレナにとってはそれだけで十分だった。
愛するカトレアさま以外の他人にどう思われようが構わないし、むしろ自分の実力がこうして認められることは、誰よりも優秀な
そして、ついでにそんな立場を利用して、さらにその自分の計画――優秀な
「……『私が魔術学院に入学する』というお話は、わかりました」
自分にそんな事情を説明してくれた大人達の前で、神妙な顔つきと声を作りながら、サレナはそれを口にする。
「――ただ、そうする代わりに、応じて欲しい条件が一つだけあるんです」
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