第222話 やりたいことがない


『さて、それでは大多数の、やりたいことがない人はどうする?』


【入れるところで一番待遇の良い会社に入る】


【見つかるまで進学や留学したりする】


 これ、おれ。

 何にもない、やりたいようなこと。

 夢は持ちたいんだけど、ない。今は。

 でも、大抵の人はそうだって、うさ衛門先生も言っちゃってる。

 みんな、本当はひそかに持っているかもしれないけど、追えないかもしれない、夢っていうヤツ。


 おれならどうするかなあ。

 でも仕事しないで留学とか、お金だって要るんだし無いだろ。普通。

 どうしてもそこへ行かなきゃ学べないときだけだろ、留学。

 消去法で会社に入る、か。

 そりゃ、待遇いいところに入りたいけど、自分に合ってるかは別問題だろうしなあ。

 決めかねている訳じゃないけど、気乗りしない指で上を選んだ。


『それもいいだろう。でも、自分ができることと会社が求めることが一致しないと、結局は辞めることになる。己を知っておくとリスクを軽減できる』


 己を知れ。

 前にうさ衛門先生が言ってた。

 大人になるまでに、おれ達は自分のことをちゃんと知っておかなきゃならない。


 そしてまだ、おれは自分を知らないんだ。

 どうしたら自分のこと理解できるんだろう。自己分析ってよく言うけど、そんなふわっとしたこと言われても困る。

 貴方はこういう人です! って、隅々まで判断してくれる何かはないのか。

 言い切られると、それはそれで否定したくなるかもしれないが。


『このリンクを利用して、自分が得意なことを見つけることができる。適性が分かったら、それに関する仕事を体験できる制度があるので、参加しよう』


 リンク先見たら、1時間かかるって書いてあって、ガチなやつだった。これ、絶対やろう。撮影が必要……? 明日陽太とやりっこしよ。


 体験先の一覧はちょっと見ただけでもすごい数で、適正分かってから見ようと思う。


『体験は何度でも高校卒業まで可能だ。平日でも申請すれば休みにはならない。これは大事なことだからだ』


 うさ衛門先生は言葉を一度切った。

 映像が変わって、突然おれが映ってびっくりした。心臓に悪い。


『自分というものは、他者の目がないと分からない。そして、それを自分が理解することで養われるものだ。仕事は、一生を左右しかねない重要なもの。学生のうちにたくさんの経験をして、自分への理解を深めて欲しい』


 自分の顔とか、最近は目にすること増えたけど、そもそもじっくりは見ない。よく知ってるようで、そうじゃないことを今は知ってる。

 おれの周りにはたくさんの人がいるけど、見え方はきっとそれぞれだ。ファンクラブなんかに参加する人、もうぜんぜん理解不能だし。

 そういう人たちの目線も、だけどおれを知るには必要なのかもしれない。

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