第215話 ウェット

 ご飯を食べ終わって、みんなそれぞれ帰り支度を始める。

 おれはそれを見てるしかなくて、ありもしない忘れ物がないかを気にしてた。

 やがてハジメが階段を降りてきて、みんながドアの前で振り返る。


 ああ、これ。

 なんだよこれ。

 みんながいなくなって、いつもおれは残る側。


「じゃあねん、滝夜」

「サイトできたら連絡するからチェックしてね!」

「ぜってぇ見ない!」


 罰ゲームじゃんか、間違いなく。

 自分の顔があちこちに出現するサイト!

 可能ならハッキングして別の顔にしたい。


「元気でね」

「参……」


 比護杜さん、頬を染めるのやめてくれるかな。


 バイバイして、振り返ると陽太と小猫が点目でおれを見てた。


「滝夜ってウェットだよね」

「そうじゃな」

「女々しいってこと?」

「あはは」


 そこ、笑わない。

 そう思ったら、今度はちょっとくちびるとんがらした顔で、陽太が言った。


「滝夜ちょっと手伝ってよ」

「いいよ。なに?」

「なんか研究行き詰まっててさ」

「そうなんだ」


 実は陽太の研究、サッパリどんなものか分からないので、行き詰まってると言われてもやはり分からない。

 でもおれなんかでお手伝いになるのなら、もちろんやぶさかではないので、言われるままにはるたん部屋へついていった。

「こねこちゃんはこないでね」の段階で疑えば良かったと思うけど後の祭り。

 部屋についてぴったりと戸を閉めた後、陽太は言った。


「じゃあ、滝夜、脱いで」

「はあ?」


 何言ってるんだコイツ。


「実験って、結局はできないじゃん」


 いつもの分厚いマットにあぐらをかいて座る陽太。

 その発言の後に隣に座る勇気はない。

 そう言われてみると、以前見た散らばるがらくたを思い出しても、実験につながるイメージは持てないな。


「理論ばっかりで実験できないと、そもそも発想から疑問に思えてきて、気分良くないからさー、せめて完成品を想像しようかと思って」

「そういや、何だっけ、生きてるロボット?」

「あ、え? うん、まあそんなやつ」


 おれの理解がぜんぜん及ばないのを、仕方なく許してくれてありがとう。


「人間を作るの?」

「人体を作るのはタブー視されてる。機材あってもできるかどうか。人間以外の素材で考えてるけど」

「例えば?」

「植物なんかいいかなと」

「植物! 緑色になっちゃうんじゃないの?」

「エネルギー作るとこだけだよ」

「へえ~」


 植物人編と言うと別の意味になっちゃうけど、凄いな。


「枯れたりするんだ」

「長寿な植物もあるでしょ」

「あるねえ」


 なんなら人間より長生きするのもある。千年とか。


「軽量で耐久性のある固いものってわりとあるけど、省エネってなると少ないんだよ」

「ほ~」


 自分の脳内にまったく存在しない世界の話だけど、面白いな。

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