第134話 お~い(女♨)

 そしてその頃には、先に入ったヤツらが上を見上げていたのだ!


「……だよな?」

「俺昇ってくる」

「やめとけ軍曹!」

「死ぬぞ」


 騒ぎを見て察するおれ。

 つまりこの上には、女湯があるのだ!


 見上げると、10メートル以上離れた辺りに、同じような明かりが木々の影から洩れている。

 どうしてこんな配置にしたのかは自明だけども、完全に見えないよりは罪が深くないかコレ。


「お~い!」

「ヤッホー!」


 おいバカやめろ呼ぶなコラ!

 もちろんおれ達はバカな男子中学生だからして、ますます大声で呼ぶ訳だ。


「女子~!」


 近所迷惑だとか、言えたらいいのに!

 完全な山の中であることをこれほどうらむことになるとは……

 そして何となく、いや、間違いなく、どうやら女子が気付いたらしい!


「ぉ-ぃ」


 光がチラチラして、どうやら誰かがアクションしてるのが分かる。


「おお! 気付いた!」

「お~い!」

「みんないる~?」


 当たり前のことを一生懸命叫ぶ中学生男子たち。


「……がいる~」

「ええ~?」

「……がぁ~……」

「な~に~?!」


 声が小さいのか遠過ぎるのか、もどかしい。

 しかし普通に返事来た。


「みんな~遅くなってゴメンね~!」

「え?」

「わたし来ちゃった~!」

「ええ??」

「さっくらちゃあぁん!!」

「マジ?!」

「わあああ!」


 ────まじで咲良来たんだ。

 この場所に。

 ここに、この夜に。


「俺やっぱ登る!」

「やめとけバカ危ない!」

「ちょもーマジか!」


 フルチンで大騒ぎのおれ達はもう訳がわからん!状態。


「……この上に全裸の咲良がいるんだよな……」


 一瞬の静寂。

 なにこの緊張感。


「やっぱ(以下」


 ゴン(もはや殴


 一人が大人しく湯に戻り、何故かみんなが無言でお湯に入った。


「あ~、女子だったら一緒に入ってたのに~」

「ブフォ!」

「それ意味ない」

「あはは」


 そして空でも眺めて、湯気越しの、お帰り星空。


「細川くんまだ見てるよな」

「朝までだって」

「すげ~よな」

「ガチな趣味ってなんかカッケー」

「金掛かってるよな」

「あの望遠鏡、買ってもらったんかな」


 ここにいない彼の話なんかして。くしゃみしてるかな。


「綺麗だったよな」


 みんな黙ってさっきの星空を見た。


「さ~出よう」


 ザブー! と飛沫を立てて軍曹が出た。ほとんど急いでる。

「俺も!」


 ザブー! ザブー!

 何急に慌てて!


「女子部屋の前で待ってたら、湯上り咲良ちゃんが見れるじゃん?」


 そう言いながら自分はまだ湯の中の井川くん。

 おれももうちょっと浸かっていこう。

 今の状況も、充分贅沢だと思うから。


 別に見たくない訳じゃないけどさ。

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